桃髪の娘
ギルマスの狙いは、富美男がビビって請けなかった依頼を、Fランク3人のビギナーパーティーが攻略し、富美男の影響力を削る事が狙いだった。ある程度は成功と言えるが、全員が全部を見ていた訳じゃなく、戦闘シーンと解体ショーの時間帯を観た人達には、舞愛達の実力は知れ渡ったが、肝心の富美男は、重要なシーンでは居眠り。魔物が出ないお散歩コースでラスボスと思っていた仔犬を拾ってきたと言う認識だった。
しかも、ナンパに失敗した女で、王都圏以外ではほとんど見ない、魔動車を乗り回すお嬢様、Fランクなので、親若しくはパトロンの財力がなせる技だろう。そんな小娘パーティーをライブ配信する事が、富美男にとって屈辱に思えた。
「よう、この前は世話になったな。」
ギルドに報告に来る舞愛を捕まえた。
「えっと、失礼ですが、どこかでお会いしましたか?」
「なんだと、覚えちゃいないんか!?」
舞愛は首を傾げた。多分、ギルマスが面倒だと思っている富美男と思われるが記憶に無い。
「しらばっくれやがって!」
連れの男が騒いだ。
「あぁ、ボロい剣の4人!じゃあ貴方は、転がって池に飛び込んでた人ね!ごめんなさい、あんな一瞬じゃあ覚えていられないわ。」
確かに、ココでは珍しいCランクだった。
「手メェが突き落としたんだろ!フザケやがって!!」
「あら?貴方が勝手に転がったんでしょ?」
「もう許さねぇ!」
ツカツカと歩み寄り、舞愛の足元に居た、ピンクの仔犬を蹴り上げ・・・たつもりが、
「痛っ・・・」
ベリーはびくともせず、富美男は蹴った右脚を抱えて七転八倒、なんとか立ち上がり、剣を抜いた。長剣を振り被り、ベリーを襲うが剣が届く前に、
「ワン!」
富美男は飛ばされ、後の壁に貼り付いていた。ベリーはちょこちょこと跳ねるように寄って、ピョンとジャンプ。剣を咥えてヒラリと着地、バリッと噛み砕いた。震え上がる富美男と視線を合わせたまま、今度はゆっくり歩み寄る。鼻先が数センチに迫ると、ダンジョンに居た時のサイズに戻り、見下ろす角度で睨みつけ、至近距離で鼻息を吹き付けた。
巨大魔犬の恐怖と爆風に曝され、富美男は失神、ベリーは立ち竦む子分達にズシンズシンと歩み寄ると、小型犬サイズになり、軽く吠えて富美男に視線を送った。子分達がヘナヘナとヘタリ込むと、ピョンと背中側に跳び、着地の時には大型犬サイズ。野太い声で吠えると、4人は這ったまま信じられないスピードで、富美男の所まで逃げた。
ベリーは、子分達がなんとか、富美男を介抱する様子を見ると、小型犬サイズになり舞愛に視線を合わせて、
「ワン!」
「ハイ、良く出来ました!」
グシャグシャと撫でて抱き上げた。
ベリーは舞愛の鼻をペロリと舐め、器用に肩乗った。
「ギルドに報告に行きますので私達は、失礼しますね。」
「・・・」
子分達は無言で会釈。
「その剣じゃ、果物の皮も剥けないわね、中古なら5人分足りるでしょ?」
査定にもよるが、小金貨位になりそうな魔石を子分の1人に渡してその場を去った。
ギルドでは、応接室に通されギルマスに報告、ここに来る前の件も話すと、
「アイツ、昨夜は肝心な所で、居眠りしとったからのぅ、ま、それなら流石に懲りただろう。周りの連中が富美男の言いなりにならなきゃ、良い方向に向かう筈だ、ありがとう。」
そう言うと、依頼分の小金貨5枚と、封筒に入った書類?
「魔物飼育許可証じゃ、その色じゃ普通の犬だと言い張る訳にもいくまい。」
ギルマスは更にニヤリ、
「魔犬3頭分じゃ、足りなくなったらいつでも来て良いぞ。」
糸と蘭は小型犬になって、応接テーブルを跳び越えた。ギルマスが目を細めて2匹と戯れている間に、舞愛は、脱ぎ散らかした衣類を回収、ポーチに突っ込んで涼しい顔。幼女から変身の時は、積まれた服の中から、ヒョッコリ現れる仔犬が可愛いと、舞愛も気に入っていたが、大きくなってからの変身では、幼女で必要無かった下着が、紐が引っ掛かる様で、それだけ一緒出てくるので、少なくとも男性の前での変身は避けるように言って置くべきだったと反省。幸い、ギルマスは犬の方にしか興味を示さなかったので問題無し。
実花の部屋を借りて糸と蘭が冒険者に戻った。2人の装備はまだ出来上がっていないが、ベリーの首輪が必要なので再度装備屋を訪れた。
「ああ、それなら直ぐ出来るぜ前の2つと一緒に出来るぞ!カミさんがもうすぐ帰って来るから、採寸な!あと、俺が淹れると不味いから、良かったら勝手に飲んでくれ。」
茶箪笥を指差し、
「おっと、あと色な、何色にするか決めといてくれよ。」
バタバタと工房に戻って行った。
舞愛はポーチから自前のポット等と、お菓子を出してティータイム、10分程で奥さんが戻って来た。旦那さんのメモを見て、
「念の為、お外で測ろうか?」
おかみさんが、ベリーを外に連れ出して、最大サイズをチェック、バニラ達とほぼ変わらない。
「じゃあ小さくなってね!」
元のチワワサイズになって、
「お部屋行きましょうね。」
奥の部屋に行って扉を閉じた。
「次は、人型ね!」
ベリーは軽く跳んで宙返り、着地の時には、ピンクの髪の3歳位の女の子。
「えっ!人型になれるの?」
「えっ?ダンナのメモにそう書いてあったわよ。」
舞愛は驚いたが、おかみさんは当たり前の様子、
「ベリー、変身出来たんだね?」
「おねぇちゃんのまねした。」
「お喋りも出来るの!」
「おしゃべりできた。」
糸と蘭はそれ程驚いた感じではなく、Aランク位になると、人型になる事も稀にはあるそうだ。因みに、2人の様に大人になったりする事は出来ない様だ。




