母親達の記憶
少し狭くなった魔動車で王都に向かう。沢山の土産物はポーチなので、荷物は増えないが、結花はバスケットが一つ増えていた。
「ポーチに入れておく?」
「あ、ううん、結花が持つよ。」
微妙な反応だった。
旅は順調に進み、王都に着く少し前のドライブイン的な食堂でランチ。
「王都に危険な魔物を持ち込もうとした奴等が捕まったみたいだな。」
近くのテーブルで、冒険者風の男達が噂話。聴力をブーストしてみたが、それ以上の情報は得られなかった。
客の殆どが王都に向かう者で、王都から出たのは、魔物の話題をしていた、冒険者一行だけの様で、店の人たちも初耳らしいから、極々最近、もしかしたら今しがたの事件なのかも知れない。
検問が厳しくなったら、バニラとチョコが引っ掛かるかも知れない。昴なら、多少怪しい魔物を連れていたとしても顔パスだが、今は舞愛、そうはいかないだろう。王都をパスするルートもあるが、宿の都合が悪いのでダメ元で関所に向かった。
折角二車線になった街道を一車線バリケードで塞ぎ、渋滞になっていた。周囲には騎士達が立ち並び様子を窺っていた。何となく落ち着かずに車を進めて行くと、
「うわっ!!」
車体の下から、強力な魔力を感じ、暫しの浮遊感。少し落下した感じで直ぐにドスン。どこかに着地したようだ。真っ暗で何も見えないが、強力な魔力を持った誰か(?何か)に取り囲まれている。
舞愛は急いでポーチから防具を出し、
「コレ使って!」
三姉妹に渡した。ゴソゴソと装備を整えると、
「明かり点けてみるね!」
ヘッドライトが光ると、黒っぽい巨大なモノが、明るくなった場所から避難した。
「防具はどうかな?」
「ありがとう!ピッタリよ!澪の為に用意してくれたの?」
「ちょっとね、ココ、美奈には余裕が有り過ぎ?大柑も余裕で入るわ!」
大きく膨らんだ胸あてを叩いた。
「結花もよ、裕子さん位かしら?」
大柑とはグレープフルーツよりも大きな柑橘類で、元世界で『メロン級』と言うのと同等の言い回しで『大柑級』があるが、サイズ感も丁度その位だろう。
「身長が同じくらいだから大丈夫かなって!元々、君達のお母さんに作ったんだ。渡す機会が無くってね!合わないのソコだけでラッキーだね。」
「あまり喜べない差だけどね。ありがとう舞愛。」
取り敢えず、準備は整った。
「舞愛が降りたら結界で隠すからちょっと待っててね!」
ドアを開けると、バニラとチョコも降り、MAXサイズに。舞愛が照明弾を上げると、体高3メートル程の熊系の魔物がそれよりも遥かに大きい2頭の犬に怯えて後退り、舞愛は魔力バズーカを出力5パーで連射、数分で一掃した。
「車を守っていてね、周りを調べて来る!」
照明弾で明るくなると、ゴツゴツの岩肌に囲まれた空間で上は夜空だった。下に降りるスロープが見つかった。
「こりゃ、一方通行のダンジョンだね。」
車に戻って、三姉妹に説明する。
ドアを開けると、2頭は人型になって一緒乗り込んだ。
「あら、大変!お洋服が!」
全裸の2人に結花はバスケットを開けて着替えを出そうとしたが、
「やっぱり、2人の着替えだったのね!変身したらこうなるから買わなかったのよ。」
ドアの外を見ると、洋服が千切れた布ゴミが散乱していた。
「取り敢えず、小さいワンちゃんになってね。」
2人はコクリと頷くとスッと縮んでペットモードになった。
舞愛は状況を説明する。
「ちょっと面倒なダンジョンに転移されたみたいなの・・・」
面倒と言うとは、一方通行。最下層まで降りるしか出来ない。その階層の魔物を片付けると、下に降りる階段かスロープ、たまには崖の様な事もあるが、兎に角降りるしか無い。次の階層には歩いて降りるしか無い様なので、三姉妹に盾を渡し使い方をレクチャー、
「両手でこう持って、3人で背中を合わせる様にね、そう、そんな感じ、舞愛の魔力が籠もってるから、しっかり護られるわ!」
魔動車を携帯ガレージに格納して、下の階層に降りた。
美貴が作った武器と、バニラとチョコは、魔物を蹴散らし、ドンドン下層に潜って行く、13層降りたが何層に転送されたか解ら無いので、そこが何層かは解ら無い。最下層が何層なのか解ら無いが、突然強い奴が待っていた。蠍の様な姿で、高く伸びた尻尾はきっと毒だろう、ラスボスかも知れない。
魔力攻撃は結界で弾かれ、物理攻撃は硬い殻で効き目が感じられない。更にはすばしっこいので、攻撃自体、なかなか当たらない。舞愛が魔力弾で攻撃、結界に魔力を費やした所をバニラとチョコの牙と爪が襲い掛かるがダメージは大きくない。魔物の攻めは体当たりと大きなハサミ、逃げるのに比べると精度が低く、ノーダメージ。攻めに注力する事にした。
魔力弾がクリティカルヒット、防御結界が大きく綻んだ。バニラとチョコの爪が尻尾を叩き折った。毒を警戒する事が必要無くなり、少し間を詰める。至近距離からの魔力弾は防御結界を吹き飛ばし、牙が爪が殻に届く。更に間を詰めた魔力弾は片方のハサミを吹き飛ばした。
一気にカタを付けようと、バズーカの出力を50パーで放とうとバニラとチョコを魔物から離した。しっかり捕らえたが、もう片方のハサミを奪っただけで、魔物は突進して・・・は来ないで、盾の結界で隠れている三姉妹を狙った。
渾身の体当たりは盾を吹き飛ばし、3人はボウリングのピンの様に吹き飛んだ、体当たりの衝撃はかなり軽減出来たが、飛ばされたあとの着地まではサポート出来ない、結界で包んで、衝撃を和らげようとしたが、3人は宙返りしてヒラリと着地、防具がほんのり光っている。
「「「昴!剣を!」」」
舞愛は、アルデバラン時代の条件反射で普段は昴が運搬し、強敵に対する時、攻めに特化する時に使う、盾を持てない大剣を出した。それぞれが、自分の母仕様の剣を受取り、見覚えのある連携で、片側の足を全て斬り落とした。バニラとチョコが抑え付けると、舞愛は大斧を重力操作で軽くして魔物に飛びかかる、大きく振り被って、振り降ろしながら重力をMAXに、硬い殻を叩き割った。




