邪魔になった貴族養女
「お客様が、お待ちです。」
宿に戻ると、ロビーを勧められた。
昴が一人で行くと、待っていたのは、奴隷商の店主だった。
「また返品された女が居るんですけどね、またコレが手に負えないんですよ。ゲテモノ買いのお客さんならどうかと思いましてね、見るだけでもいかがでしょう?全盲ですからできる事は限られますけどね。」
「明日では?」
「夜分失礼とは思ったのですが、ハンストしておりまして、いつ死んてもおかしく無いんです。」
「首輪のチカラで無理やり食べさせたら?」
「とんでも無く強い結界を張って、外からはどうしようもないんです。」
「そんなに強いんですか?」
「もう、相当なモンですよ。」
「では伺いましょう、連れに話してきます、少しお待ち下さい!」
昴は階段を駆け上がり、事情を軽く話してロビーにとんぼ返り。
奴隷商に着くと、檻丸ごと結界で阻まれていた。店主には席を外して貰い、交渉開始。
「理不尽な理由で奴隷に落とされたんじゃない?」
真理はピクリと反応した。
「偶々2人の奴隷を解放したんだ、そうしたら、2人共冒険者になって、パーティー組むんだって、キミの結界だったら、冒険者でも通用しそうだから、彼女達に会って見る気はないか?」
「うまい話しですね。どこを信じたら良いんですかね?」
「確かにね、2人と話して見ないか?」
「ここには来て無いの?」
「ここで売られてたからね、連れてくるのは可哀想だと思って。」
「じゃあ、どうやって会うのよ?」
「キミが来れば良いさ、店主には話がついてるから、その結界を解いてくれれば、宿に連れて行くよ。」
「わたしを買うつもり?」
「手順としてはそうなるな、僕が買って直ぐに解放するよ。」
「一つお願いしても良いでしょうか?」
「どんな事?僕に出来る事なら!」
「わたしを奴隷に落としたヤツに復讐したいんです。」
「合法ならOKだけど?」
「では、よろしくお願いします。」
真理が結界を解くと、昴は直ぐに奴隷の首輪を外した。
「え?もう買っていたんですね、品定めしてからと思ってました。」
昴は真理をおぶって、店主に挨拶。そのまま宿に向かった。
移動中、ヒールの説明。半信半疑の様だったが、宿に着いて迷わず実行。圭織の時の様に布団を掛けて、必要な部分に指を入れるだけにすると、余計な所を見たり触ったりせず、気持ちが治療に専念出来るので今回もそのスタンス。
同じ様に金色に輝き、もとに戻ると、両眼の視力を取り戻し、肌艶は良くなり、あちこちにあった生傷はスッカリ消えていた。
宿の部屋は、もう一杯だったので追加の部屋は取れず、真理は裕子と一緒のベッドで休んだ。
翌日は、冒険者登録と3人でのパーティー結成『トーラス』という名前でパーティー結成。昴に関わりのある名前をリクエスト、昴は牡牛座にあるスバルに由来しているので牡牛座を表すトーラスと命名した。2人ともCランク、3人もCランクが所属するパーティーは滅多に無いので、悪目立ちしないか心配なくらい。まぁ心配していても仕方が無いので、護衛の指名依頼を成立させてランチ。真理の復讐について相談した。
真理は男爵の孫として産まれるが、伯父が爵位を継いだため、『男爵の姪』と言う、ギリ貴族って立場になった。貴族としての気品や教養を身に着け、より上位の貴族に嫁入出来るよう、物心つく前から厳しく躾られ、伯爵家の家庭教師を務めるまでに成長した。
やっと足場を固めた真理だったが、子供が出来なかった伯父の養女になり、婿を取って男爵家を継がせる事となり、家庭教師の仕事を辞め実家に戻った。
養女として過ごしていたある日、メイドの妊娠が発覚、男爵の子と主張した。心当たりがあり、初めての子供かもしれないので、メイドは直ぐに第二夫人に昇格、後継者が出来て真理はお払い箱。メイドの父親は、禍根を残さぬよう、嫡男を殺し、後継者に返り咲く計画があるとでっち上げ、真理を奴隷に落とした。
「証拠とか手掛かりとかは有る?」
「わたしの件については何も残していないと思います。」
「って事は、他の件が有るってこと?」
「ええ、子爵様と、騎士団の中隊長の弱みを握ったと、証拠を残している筈です。」
子爵の件は、気に入った娘を自分のメイドにしようと、家族を暗殺し、借金を擦り付けて、住込みでの働き口を提供。雇い入れる迄は成功したが、奥方に見つかりメイドは手放した。
中隊長の件は、女性初、平民初、しかも史上最年少で中隊長に出世した元部下に指揮されるのは気に入らないと、危険な魔物駆除で亡き者にしようとしたが、両腕を失ったものの生還、療養中、不正をでっち上げ、解雇させ、母親を騙して奴隷に落とした。
「それって、何処かで聞いた事無い?」
昴の問いに、当事者の2人は怒りを露わにしていた。
話しをしていた真理は、まさかのご本人登場的な驚きだった。
「この2件が有罪なら、真理の件は自白魔法で片付くんじゃ無いかな?出発は後にして、スッキリしてから出掛けようよ。」
すぐに計画変更、メイドの父が使っていた、男爵家の別荘に向かった。
真理は顔見知りのメイドに、
「伯父とは和解出来たの、書斎にわたしの荷物があるから取りに来たわ。」
なんの疑いもなく、書斎に到達、鍵の掛かった机の引き出しは、裕子が涼しい顔で引くと、鈍い音と共に開いた。
証拠の資料は予想通り、更には他の件の資料も見つかり、ついでにそっくり持ち帰った。
圭織が信頼する大隊長に証拠の資料を持ち込むと、
「俺は信じていたぞ、お前が不正を働く訳が無い!直ぐに片付けてやる、他に困った事は無いか?」
証拠の資料と共に、裕子の父と兄達がハメられた事件、証拠は無いが真理の濡れ衣の件、その他不正の証拠を纏めて渡し、真理の伯父の子を産んだメイドの父親が全てに関与している事を伝えた。
「もしや、この男、東部の訛りでこめかみに丸い痣は無いか?」
「はい!その通りです。」
「そうか、こりゃ、我々にもメリットが有りそうだ、外堀から埋めていくから朗報はしばらく待ってくれ!」
あとの処理は任せて、予定の旅に出た。