折檻のメイド
「お止め下さい、旦那様!」
とある子爵邸、手籠めにされそうなメイドが抵抗。子爵の右手がスカートの中に侵入、拘束が左手一本になった所で、メイドの拳が鳩尾を捉えた。
「この尼、不敬罪で突き出してやる!」
「も、申し訳ございません!」
裕子は平伏した。
「どうなさったのですか?」
を聞き付けた夫人が登場、
「ああ、この娘が儂を誘惑しようとして・・・」
強烈なボディーブローの影響で言葉が途切れて吐血、
「おまえが暴力を振るったのね!」
夫人は使用人に指示、裕子は髪を掴まれて引き摺られ、2階の階段から落とされた。踊り場でほぼノーダメージ、更に蹴落とされ1階へ。
それでもピンピンしていたので、
「魔獣避けを持って来なさい!」
平伏する裕子に掛けられたのは塩酸だった。
冒険者の父に兄達とともに鍛えられていた裕子は強靭な身体にダメージ軽減のスキルを持っていたが、皮膚を焼き焦がす酸に耐性は無い。頭から右の頬まで焼き爛れ、声にならない悲鳴を上げた。蹲ると尻に、それを避けて仰向けになると胸に塩酸が浴びせられた。
「絨毯はコレの給金で張り替えなさい。足りない分は、コレを売りなさい。」
夫人は失神した裕子に、
「泥棒猫の娘はやっぱり泥棒猫ね、もう私達に近付くんじゃないよ。」
そう言い残して、2階の部屋に戻って行った。
子爵は所謂エロ貴族ではなく、メイドに手を出したのは、いずれも未遂で今回が2度目。前回は20年程前、被害者は裕子の母だった。
同じ様に階段から突き落とされ、全身打撲、数カ所の骨折で屋敷を放り出された。
偶々通りがかった冒険者に拾われた。冒険者は妻に先立たれ、3人の息子を育てるシングルファーザー、一緒に暮らすようになり、やがて裕子が産まれた。
母に瓜二つの裕子を見掛けた子爵は、20年前に失ったお気に入りのメイドを取り戻すチャンスと、裕子を雇おうとしたが、冒険者希望で高額な給金にも靡く事は無かった。
ある日、息子達とパーティーを組んでいる父に護衛の依頼が指名で入った。大金貨5枚(500万相当)の宝石とワインを運ぶそうだが、あまり危険では無い地方の割に高額なので大喜びで請けて、商人の馬車と共に王都を出た。
「我が商会自慢の逸品です。これを飲んで温まって下さい。」
野営になり、ワインを勧められた。
「いえ、護衛は、送り届けるまでは夜も日も関係無く、任務中ですから飲まないんです。お気持ちだけ頂きますね。」
「では、馬車に積んで置きます、お仕事が済みましたら楽しんで下さい。では熱々の鍋で温まりましょう。」
一緒に鍋を啄いていると、何時しかウトウト、ついには爆睡。そのまま心臓をひと突き、4人は揃って帰らぬ人となった。
商人は、父の馬車に積んだワインの箱から4本取り出し4人の口に流し込んだ。
商人の若いもんが馬を飛ばし、衛兵に通報、昼過ぎに到着した衛兵は、まだ酒臭い4人の亡骸を見て、
「酔い潰れた所を殺られたようだな。何か盗られた物は有るのか?」
「ハイ、高価な宝石とワインが1箱です。」
「犯人は見てないのか?」
「ハイ、馬の嘶きで目を覚ましてテントを出ると、護衛の皆さんが倒れていたんです。」
護衛対象のワインを盗み、任務中に泥酔し、何者かに殺された上、高価な宝石を奪われた。そう言う筋書きで、ギルドは除名され死亡見舞金は出ず、宝石とワインの代金を弁償、泥酔状態では保険は降りず、全額自己負担、生命保険等は存在しないので、全財産を処分しても小金貨8枚、莫大な借金に、母は寝込んで治癒師にも診せられず、夫の元に旅立った。
共同墓地に母の遺骨を納めた裕子に、
「冒険者住宅もいつまでも居られませんよね、借金も相当な額と伺ってます。よろしければ、住込みでメイドをなさいませんか?」
声を掛けたのは、子爵家の執事。あまりにも渡りに船で、なぜ自分の事情を把握しているのかを不思議と思わずに即決し、その日のうちに借家を解約、子爵邸に移った。
子爵は、20年振りの再会(?)で、しかも当時の若さのままの裕子を見ると、理性は下半身を制御することが出来なかった。
前回の反省から、筋力を半分程度に抑える薬を、お茶に混ぜて飲ませておいたが、冒険者志望の裕子は身体強化で成人男性の十倍程度のパワーがあるので、ナイフとフォークより重い物を持った事のない子爵の腕力では敵う筈もなく、母と同様に逃げられ、夫人に見つかり、お気に入りを取り上げられてしまった。
昴は、王都の奴隷商を訪れた。
「安い女を探している、容姿も病気の有無も問わない。」
「若い娘はすぐに売れちゃいます、今あるのは、火傷でグチャグチャでどうしようも無いヤツだけです。」
「いくらだ?」
「大銀貨1枚と、手数料が小銀貨3枚です。」
「では、お願いします。」
商談が成立した。