ポンコツ冒険者復帰
「一緒に冒険者をやらないか?」
牡牛宮近くの酒場で、圭織は昴をパーティーに誘った。
「いや、冒険者不適合で廃業したって知ってるでしょ?もう、こんな歳だし。」
実際はアラフォーの昴だが、
「えっ?気づいてない?多分、オーバーヒールの影響だろう、昔馴染みの皆さんも若くて驚いてたではないか?」
そう言われた昴の見掛けは二十代後半位。オーバーヒールとは、治療の後に魔力注入を続けて若返らせる事に付けた呼び名。トーラスとトーラスジュニア達の容姿を揃える為、定期的に行っていた。因みに、瀕死の状態からの回復や失った手脚の再生、失明した目に光を取り戻すことは、パーフェクトヒールと呼んでいる。
コッチの人達は、早くから成人扱いのせいか、大抵がアッチの物差しより、かなり大人に(老けて)見えるので、昴はそのせいと思っていたが、同じ世界から転移して来た人達と比べてもかなり若く、個人差の範囲を超えているだろう。若返らせるチカラを多少なりとも、浴び続けた事が要因と考えるのは自然な事かもしれない。
領の運営は徐々に組織化して、そこに任せているので、昴じゃなきゃならない仕事は、トーラス達のオーバーヒールのみ。通常のヒールは専門のヒーラーが担当、勿論男性も治療出来るようスタッフを揃えている。ジュニアのなりすましを不要とした今、昴無しでも全く支障は無い。
冒険者復帰はともかく、伯爵の椅子は昴にとって、座り心地の良いモノでは無かったので、牡牛領を11に分割、他の一般的な伯爵領と同程度の経済規模にして、全土の伯爵家から次男坊を招き入れ、新しい領主とした。王家に働き掛け、それぞれ新しい伯爵になった。
工場等も、それぞれ、建っている土地の領主に譲る。魔力機関車を、成功させてから取り組んでいた、魔動エンジンも実用化目前。バスとトラックの試作機がテストコースを走っている。エンジン単体では、乗用車に搭載出来そうな位の小型化に成功している。これも昴が手を出さずとも問題無い。
王は、昴が引退する事に反対だったが、牡牛領の全てを分割して譲ってしまった事で、慰留を諦めた。王家との関わりを維持出来るよう、様々な特典を用意したが、昴は固辞、当面の衣食住に必要な分だけ残し、自ら手放した、養護施設に寄付して、平民に戻った。
「僕を誘うよりさ、冒険者志望の人がいるんだけど、会ってみない?」
「美貴と成美だね?トーラスに相談したらどうだと、昴に勧められたと言って来ていたぞ。」
「それで、どう?」
「ああ、ひとみがそれぞれに合ったスキルの開発を手伝っている。魔力はボク等と変わらないからな、強力なメンバーになりそうだ。」
話し込んでいるうちに、裕子と真理も合流。2人も復帰を誘う。
「ひとみも勿論賛成よ、今は新メンバーの特訓でダンジョンだけど。」
結局、3人に押し切られ、昴はお試しで冒険者に復帰することになった。
リハビリ兼チカラ試しで難易度の低いダンジョンを攻める。昴はソロで再登録し、ギルドで待つと、現れたのは裕子だけ。
「じゃ、行きましょう!」
「え?他の皆んなは?」
「今回はあたしだけよ、嫌だったかしら?」
オーバーヒールで15、6歳をキープしている裕子と、そのおこぼれでアンチエイジングになっているが、二十代後半に見える昴とでは、歳の差で悪目立ちしそう。父娘とまでは見えない筈だが、男女のペアパーティーは大抵が夫婦かそれに準ずる間柄なので、昴は妙な罪悪感を覚えていた。
「いいじゃん、ひと回り位チョイレア位よ!」
グイッと腕にぶら下がる様に密着した、程良い弾力を腕に感じたが、指摘しても、『当ててるの!』と返ってきそうなので、知らんぷりで弾力を堪能しておいた。
年齢差と合わせて気になっていたのが、裕子のスカート。一般に、パートナーの居る女性冒険者が着用、ペアパーティーでスカートとなると、誰からもパーティー以外でもペアと見えてしまう。
「端から見るとさ、男女の関係っぽいじゃん、裕子は気にならないの?」
「その方が良いでしょ!宿でイチイチ1部屋か2部屋か聞かれ無くて済むでしょ?」
昴は自分がこんな、イジられキャラだったかなと思いつつ、裕子に腕を引かれて駅に向かった。
小柄で華奢で童顔、フワフワの栗毛のツインテールは、かなり幼く見えるが、アンバランスな程に発育した胸の膨らみで、差引きゼロ、なんとか、設定年齢(?)をキープしている。アッチの世界だったら、アラサーオジサンと女子高生、間違い無く犯罪者だ。
気にしない事にして、列車に乗り込んだ。西都まで約18時間、夕方出て翌日の昼に着く。リクライニングの無い座席で結構キツい旅だが、山を縫う街道を馬車で走ると1週間以上は掛かっていたので、夢のような時短。この日も満席だった。
膝が前の席に当たって、寛げない昴は、何度も座り直すが、狭さは、解消出来るはずもない。諦めようとした時、
「壁に持たれて、斜めに座ったら?」
「うん、でも裕子の席が無くなっちゃうでしょ?」
「あたしはこうするから、平気よ!」
昴の膝に乗って、気持ち良さそうに欠伸をすると、そのまま貼り付いた。
極端な密着に戸惑う昴だったが、意外と良く眠れ、無事に西都に到着した。
そこからは、馬車を借りるが、直ぐに出ても途中で一泊なので、西都の宿で一泊する。予約等という習慣は無いので、飛び入りで探す。なかなか見付からず、歓楽街の奥でやっと空室の看板。
「休憩ですか?お泊りですか?」
「泊まりで。」
「小銀貨8枚ね。」
昴が大銀貨で支払うと、お釣りと一緒にゴム製品が手渡された。受け取るのを躊躇うと、裕子は視線をしっかり合わせてニコリ、スッと手を出して、ポケットに仕舞っていた。




