牡牛伯爵
歓楽街の清浄化、スラム街の再開発、各職種のギルドを立ち上げ、治安の維持と、インフラ整備に貢献。更には王都の水道、王都・西都間の鉄道建設で、昴は貴族に。しかも飛び級?一気に伯爵になった。
領地は、不正等で取り潰しになった伯爵領が幾つもあり、現状直轄地になっている所から選び放題。しかし昴が選んだのは、未開の山挟地。王都のある東側、西都の西側、その間を大きな二筋の山脈が隔てており、山脈と山脈の間の山挟地は、全くの未開の地、線路を敷く為に始めて踏み入ったと言っても過言ではない。
線路と橋の保全の為、その周辺を希望したが、川を挟んで東西は山脈、南は海、北は王都・西都間の街道と、川を渡る迂回路まで。面積としては一番広い北都エリアよりも広い領地が与えられた。
「北の領界線が、街道の向こうって事はさ、あの迂回路と吊り橋を何とかしなさいって事だよね?」
「間違いありませんね。伯爵様でしたら可能と思われたのでしょうね。」
王家から紹介された執事が、当たり前の様に答えた。
昴領の東西の山脈は、北部の山地に繋がっており、王都・西都間の街道はその険しい山地を縫うように走っている。
その最難関が大渓谷越え。線路の為に橋を架けた大河の上流になる。街道は、大渓谷に突き当たると、更に山奥に迂回路、谷の幅が狭まった所に架かっている吊り橋を渡り、街道に戻る。迂回だけで半日を要する。時間だけではなく魔物等のリスクも増えるので、渓谷攻略はかなりのメリットだろう。早速、棟梁率いる職人集団に相談した。
職人集団は相談した時点でやる気満々、直ぐに作業に取り掛かった。橋の工事に併せて、街道から谷に降りる道路を作り、川を調査。十分な川幅と深さがあったので、船着き場を作り、鉄道の渡し船の船着き場と船で繋ぐ事に成功した。先ずは、橋に必要な物資の運搬用だが、線路より街道が便利な地方との物流や、その先の北都との往来を睨んでいる。
領地の開拓は、刀角牛の牧場移転からスタート。王都の人里からそう離れていない所で育てていたが、頭数が増えて手狭になった事と、元々は凶暴な魔物なので、暴れ出す危険もゼロではないので、未開の地はうってつけの移転先だった。頭数では圧倒的に牝牛が多いが、『あの刀角の牡牛を手懐けている』と言う事で、領地を牡牛領と呼ばれるようになった
次に伯爵邸。伯爵ともなると、貧相な借家と言うわけには行かず、それなりの建物を用意する。他の伯爵邸を参考に、バカでかい屋敷を建てるが、自身の居住空間は広め?の、1LDK、殆どの空間は役所の事務所や会議室等で、市役所的な活用が目的。因みに伯爵邸は牡牛宮と呼ばれるようになる。
刀角牛の移転に伴い、ゴム製品の工場も移転。開拓、開墾で切り倒した木は、材木として活用するが、使い物にならない物を利用して紙を作る。製紙工場も出来て、工員が全土から集まる。寮を建てても直ぐに満室。人が集まると、労働者をアテにした商売がどんどん増え雪だるま式に人口が増えていった。
当初は食料自給率が低く、殆どを西都圏から買っていたが、海岸にも船着き場を作り、海産物が獲れる様になり、各地から親の畑を継げない次男坊、三男坊達が就農。少しずつ自立していくだろう。
未開の地で最大の問題は、魔物の生息状況。思っていた程の生息数では無かったが、巨大な熊と角が鋭く危険な鹿が問題だった。
熊は刀角牛を狙って、度々牧場に侵入するが、牡牛に返り討ち。被害は柵位で、徐々に減っている。
鹿は、魔物ジビエで人気の肉なので、駆除は収獲を兼ねる。当初は冒険者が、自分で食べる分だけ持ち帰っていたが、回収業者が1頭丸まんま運び、解体して食肉として流通させる様になった。昴は、冒険者の負担軽減と、食肉の確保、回収、解体業者の利益等をルール化、加工工場も建てて安定供給を確保。生の肉は領内で消費されたが、干し肉等の加工品は領外に出荷、大きな利益をもたらせた。
街道の大渓谷に橋が架かると、職人集団は運河を掘った。川は大きなカルデラ湖から流れていて、そこまで船を通す。湖は、北都の管轄だが、了承済み。数キロ離れた別の湖は北都の水源。湖を運河で繋ぎ、北都迄の水路を確保する。
王都・北都間の鉄道が地形に阻まれ難航を予想している。代わって水路が流通に貢献する事となり王都と北都の物流も牡牛領が中継する事になり、三都の物流の要になり、発展に拍車が掛かった。
牡牛領の発足から数年。南の海沿いは水産、中央平野部の西は農業、東は農業と酪農それに工場、北部にはダンジョンが見つかり、冒険者が町を賑わした。
他の地域と比べ、格安の税率にも関わらず、税収は鰻登り。本格的に学校を建てて、領条令で6年間を義務教育とした。一応、日本の小学校の世代にあわせている。浸透すれば、あと3年、中学相当迄学ばせ、15歳の成人になる時に卒業する様に計画している。
その後も、水道は王都同様に整備、日本の暮らしやすさを参考に、病院、警察、消防等等を作り上げ、王都より栄え、王都より住みやすい街として、人口流入が止まらなかった。
十数年で、手付かずだった広い平野は区画整理された住宅地と、豊富な作物を生み出す農地となり、食料自給率は300パーを超え、『王都の台所』と、呼ばれるようになっていた。
治安は主にトーラスジュニア達が守っていたが、専属契約の冒険者が警察の機能を果たす様になっていた。
「あたし達、ソロソロ歳とっても良いでしょ?」
トーラスに憧れ、冒険者になった施設の出身者がトーラスジュニアとなり、なりすましで、警備する都合で、新人に合わせてトーラスも先輩のトーラスジュニアも15、6歳の容姿を保っていた。裕子の提案だが、4人の総意らしい。
ジュニア達の実力も浸透しているので、トーラスは卒業、ジュニアも順に卒業していく事になり、領の監理から外れて、自由に活動する事になった。