トーラスジュニア
昴が夢の一番列車で、落ち着かないメンバーと過ごしている時、街道ではちょっとした騒ぎが起こっていた。
「なぁお前ら、明日、王様達が列車とか言うヤツに乗って西都に行くんだろ?トーラスは当然、そこの護衛だよな?」
「親方、その列車って言うのは、強力な結界で護られてるって話ですぜ、手出しはムリでしょ?」
「いや、ソッチじゃ無い。他にトーラスが居たらニセモノってバレバレじゃねぇか!他の目も皆んな列車に向いてっから、ニセモノ狩りと行こうじゃないか!」
駅の予定地にはギルドの護衛がついて、トーラスジュニアは、街道から駅に入る辺りを見守っていた。そこを狙うのは、盗賊団の残党。トーラスがまだ無名だった頃、小娘パーティーを狩り、売り払うつもりが、サクっと返り討ちで盗賊団は大打撃で崩壊、後ろ盾の貴族や、マネーロンダリングの商人等全て晒され、残っているのは下っ端の数人と、後から加わった素人が十数人、総勢20人。
4班に別れ、それぞれトーラスジュニアを襲う。
「アレ、あたし達狙いね?」
「動いて様子見ましょ。」
「えっと、全部で5人、大した事ないわ、魔力でいくと良くてEランクね。」
ジュニアの馬車は、ゆっくりと人気の無い方に移動した。因みに、会話は元々のジュニアメンバー。助っ人の裕子はウンウンと頷くだけ。
怪しい馬車は、気付かれているとは知らずに距離をキープしたまま後をつけた。ターゲットが脇道に入ったので急いで間を詰める。脇道に入ったが、気配は全くしなかった。慌てて速度を上げるが、ジュニアの馬車は街道から少し入っただけの所に結界を張って隠れていた。
行き止まりで戻って来た盗賊達は、馬車を降りてお喋りしている4人を見つけ速度を上げた。近寄って飛び降り、襲い掛かる。安物ではあるが、ヘビー級の大剣が彼女達を・・・、
「あら、盗賊さん?こんなの振り回しちゃ危ないですよ!」
左手で受け止め、右手でへし折った。
他も似たようなもので、一太刀も浴びせられずに武器を奪われ、結界で拘束。御者台の1人は仲間を見捨て馬車を飛ばした。
その日の夜、盗賊のアジトでは、
「俺が行った所のヤツがホンモノだって!メチャ強かったからな!」
「いや、俺んトコだ!」
4班共、馬車に、残った1人だけが逃げ、自分が居た現場にいたのがホンモノのトーラスと主張。
「まさか、ニセモノでもあんなに強いんか?」
かなりノンビリな思考回路がやっと現状を認識した。魔力があれば冒険者として喰っていける、それが出来ない盗賊達が、しっかり鍛えたジュニア達に敵う訳は無いのだが、見かけだけを考えるとまぁ、驚いても仕方がない。
逃げた馬車には追跡用の小鳥が紛れていた。アジトに着くと、場所を覚えて、主を迎えに行く。
トーラスの圧倒的な強さに怯え、無事逃げ延びた安堵はすっかり忘れ眠れぬ夜を過ごした盗賊達は、早朝、招かざる客に、寝惚け眼を覚醒させられた。
トーラスが4組、少なくとも3組はニセモノの筈だが、どこに逃げようとしても、全く歯が立たない。あっという間に拘束されたが、1人だけ何とか逃げ延びた。
トーラス達は、アジトを漁り価値の有るものは根こそぎ持ち出し、結界でロック。捉えた3人を衛兵に突き出した。戦利品は微々たるモノ、雑魚盗賊は懸賞金も無くギルドの成績とボランティア的な結果だった。元々そのつもりだったので問題はない。
1人だけ逃げた盗賊は、盛り場で新しい仲間を探す。
「トーラスのニセモノってホントに居るんだぜ。」
「だろうな、同じ日の同じ頃に、離れた所で目撃されてるからな。」
「俺、今日、一度に4組見たんだ、昨日は仲間4組に別れてな、ニセモノ狩りのハズだったんだがよ、どこも返り討ちさ。なんとかアジトに逃げ帰ったんだが、今朝トーラス4組に囲まれて、昨日と合わせて19人捕まっちまったんだ。」
「アジトを取られたんだ?泊まるトコ有るのか?」
「いや、金も殆どねぇ。」
「それならウチに来いよ、人手が足らんくてな、御頭に紹介してやるぜ。」
盛り場で意気投合した盗賊達は、御頭の居るアジトに到着、早速仲間入りを果たした。契りの盃を交わし、寝床に付いた。
その時、アジトの外から、追跡用の小鳥が飛び立った事は、全く気付いて居ない。
翌朝、早い時間からのたくさんの来訪者。
「ここを開けなさい、極悪人を匿っている事は調査済みだ!」
集まっていたのは衛兵で、王家を護衛中のトーラスを襲った(未遂)事は、王家を襲ったに等しいとのルールで、逃げていた男は極悪人扱い。それを匿っていると言う口実で、ガサ入れに入った。元々怪しんではいたが、全く証拠が無く、手をこまねいていた所だったので、ダメ元で泳がせたのは大正解。大手の盗賊団は殆ど狩り尽くしが、細々ながら組織的に活動している数少ない盗賊団、上手く壊滅に持ち込んだ。
ロイヤルファミリーの列車旅行は順調に進み、西都に数日滞在。昴達も行動を共にせざるを得なかった。息が詰まる王弟宮での数日に耐えて王都に帰る。復路でも同じトラップを仕掛けたが、流石に往路の情報が知れ渡り、怪しい人影は一切無かった。列車のお披露目は、国力のアピールと、細々と活動している盗賊団への引導の様になり、治安の維持に大きく貢献した。