鉄道整備
美貴の作る魔道具は、線路工事にも大いに貢献した。魔法を纏わせたツルハシやスコップがメインだった所、トロッコの先端に巨大なドリルを付けた掘削機が登場、迂回も検討していたコースを予定通りのトンネルを掘ってショートカット。コースと工期を短縮した。
橋の手前まで線路が出来た頃、機関車の1号機が完成、資材の運搬や、作業者の行き来は、トロッコを馬が引いていたが、機関車がデビュー、圧倒的な速度と運搬量で工事をサポートした。
橋を作る前に、簡単な船着き場を作る。対岸にも作り渡し船を運行。西都からも鉄道工事は進んでいるので、橋が出来るまでは、渡し船を連絡船に取り敢えずの鉄路を確保。西都で2号機を作り、橋まで走らせた。
王都から列車、渡し船に乗り継ぎ、また列車で西都に向かう路線を営業運転する所まで漕ぎ着けた。開業の2週間前、一番列車の1両がロイヤルファミリーの貸し切りになることが告げられた。西都からの一番列車も王叔父が乗り、渡し船まで迎えに来るとの事で、慌ててセキュリティのチェック。工事現場は、隠れたり、狙撃に適した足場等、危険なポイントが山程あるので、毎晩遅くまで頑張って、何とかお迎えの準備が間に合った。
昴は一番列車に乗るため、王都に戻っていた。ロイヤルファミリーのエスコートは鬱陶しいが、自分が手掛けた、一分の一鉄道模型が、ホンモノの鉄道になる日は特別な想いがあった。沿線は魔物が近寄らないよう藪は刈り、給水ポイントには、護衛を配置している。
護衛はギルドお任せの厳つい男達と、指名依頼のトーラスジュニア達。施設出身の冒険者のパーティーでトーラスのコピーが4組。トーラスは全国で暴れまわったので、存在だけで犯罪の抑止力になっている。コピーでも一定の抑止力があるので、普段はホンモノになりすまして街道を巡回している。今日は王も絡んでいるので、各組にホンモノが1人づつ入り、ダブった4人が、トーラスとして、昴と共に行動する。(因みに、他の護衛の方々にはホンモノのトーラスと伝えてある。)
万全な準備の甲斐あって、無事に工事中の橋の所に到着。
「あんなに高い所を走るんですか?洪水対策ですか?」
王子が仰け反る様に橋を見上げた。
「いえ、将来、大きな船が下を通れる様に高くしておきました。」
「昴殿は色々な事を考えておられるのですね。」
「殿下、渡し船を待たせております、こちらへどうぞ。」
面倒な話になる前に、船に誘導した。船は、客車1両分しか乗れない。今回はお披露目的な感じなので、ロイヤルファミリーとその御一行様で1便対岸から来る船が折り返して2便。通常運行ではかなりのボトルネック。橋が架かる迄のつなぎだし、街道を馬車で走るより何倍も速いので、まあ、我慢。
その渡し船も、風向きで帆を張るか、人力で漕ぐ予定でいたが、美貴がギリギリで開発した魔動エンジンを搭載、まだまだ大きくて低出力、高騒音だが、人力より速く、10人の漕ぎ手のスペースと同じ位のキャパだが、行く行くは改善されるだろう。
営業運転になると、渡し船を待つ客が暇をもてあます事を考慮し、飲食店もスタンバイ。但し、橋が架かってしまうと、通過駅になってしまうので、投資は控えたい。季節は丁度暑い時期なので、ビアガーデン風の飲み屋を作った。南部で水揚げされる海産物を提供する。宿泊施設もある程度作ったが、橋が出来た後の事を考えて、大半をキャンプスペースで賄った。ちょっとしたリゾート地の様になり、
「折角いろんな物が出来たから、橋が架かっても、快速くらいは停めめようね!」
「えっ?快速って、もしかして美貴さんも転移して来たの?」
「へ?言ってなかった?『剣と魔法の世界』に来たから絶対冒険者って張り切ってたんだよ、生産職でも無双するマンガとかあったじゃない!」
未だに捨て切れていない冒険者への憧れと、もしもの時(?)の為に、工夫した武器や装備を披露して、夢を熱く語っていた。
元の世界の事を確かめると、極々近所で小中高と同じ学校、但し、5つ下なので、一緒に通ったのは小学校の6年生と1年生だった1年のみ。美音が、新一年生の面倒を見る係になっていたから、もしかしたら、集団登校で一緒だったかも知れない。
大学1年で転移なので、昴達と同時期にコッチに来たようだ。アッチでは、ロボットの研究に進むつもりでいたとの事。まだ専門的な事は学んでいなかったらしいが、メカに強い事に間違い無く、そのおかげで、昴のリクエストに応えられていたようだ。
トーラス位のパーティーなら、メカニックが居れば行動パターンが増えて便利かも知れないし、ひとみなら美貴の良さを引き出せる気もするので、冒険者復帰も夢では無いだろう。ただ、今は機関車と、魔動エンジンの開発に注力して欲しいので、その提案は言い出しそうになったが飲み込んでおいた。