インフラ整備
次に着手したのは水道。王都では井戸か川の水を汲んで使っている。貴族や大金持ちは、使用人の仕事だが、一般的には子供たちの仕事で、通学の大きな壁になっていた。施設に併設の学校(的なモノ)にも10歳位迄の子は顔出して給食を食べて帰る子も居るが、それ以上の年齢になると、労働力としてアテにされて、殆ど通わなくなる。義務教育ではないので、仕方がないが、大儲けしている起点が遊女を売ったカネなので、後ろめたさを紛らわす為、社会貢献を考えている。
清潔な水で、衛生的に生活し、水汲みの労働から解放された子供たちに教育を施す。かなり大掛かりだが一石二鳥、娼館を始め、歓楽街に所有していた権利を全て売り払い、王都で取水している川の上流の山を購入、ダムを作る。水道管を通す許可を申請しようとしたが、どこに申請?川の取水場や井戸はそこの地主が管理しているので、道路を管理している役人に相談してみた。
「水の道でスイドウですか?夢のようですね!それが出来たらとても便利ですね。私では答えられませんので、大臣に報告しておきます、連絡先を教えてください。」
商店街をブラついてから施設に戻ると、
「お客様ですよ。」
見るからに高位の貴族。お供を連れて居ないのが不思議な位だった。
「水道の話、詳しく聞かせて貰いたい。」
「はい、是非とも・・・えっ?王子様?」
「ご内密に。」
小声で人差し指を口の前に立てた。
昴は、申請の為に用意していた資料で計画を説明、
「夢物語では無い様ですね、全面的に支持します、先ずは城に引いて、城下から広げて欲しい。」
「はい、地理的にも問題無いかと思います。」
「ただ、今しばらく公表しないで欲しい。川の取水場や井戸を持っている地主の殆どが、古参の貴族なのです。水を汲むのもタダではありませんからね、彼等は既得権を失う事に過敏ですから。」
「それでしたら、2年後から課税する噂を流しては如何でしょう?利益が薄くなれば、諦めるかも知れません。」
「なるほど、そう言う手が有りましたか!それなら、2年後と言わず、直ぐに提案します。」
準備はトントン拍子に整い、いよいよ着工。いつもの棟梁が職人達を引き連れ、更には魔力自慢の冒険者たちがゾロゾロと参加。
川の両岸の岩山を切り崩し、それを石材にしてダムの壁を作る。キッチリ積むだけで隙間は土砂で埋まりダムの役目は果たすそうだが、重力魔法で圧縮したり、炎魔法で溶岩にして溶接したり、頑丈に作った。ダム湖の底には浄化魔法の巨大な魔法陣を記し、水質を維持する。
昴がダムと浄水所を作っているのと平行し公費で水道管が城に届く。魔法とは便利なもので、1年足らずで城の蛇口から水が出る様になった。
王子は、水道を貴族達に紹介、ダムと城の間の幹線管に自費で支線管を接続する事を許可した。井戸で小銭を稼いでいた地主達は先を争うよう支線管の工事を申し出た。
淡々と申し出を受理しながら、王子は笑いを堪えていた。それぞれの屋敷に支線管を埋め、そこから各家庭には再び公費で施工。中間を地主達に負担させ、費用をグッと抑えた。
計画から2年で、王都の各家庭に水道が行き渡る。税金だけ納めて、誰も利用しなくなった井戸と取水所は、断水等の非常時、無償提供する事を条件に免税、水道利用の権利等で揉める予想もあったが、免税を餌に丸く収まった。
水道網が整うと昴はダムを手放す。公共設備として、国に寄付するつもりでいたが、王家が買い上げる事になり、工事に掛かった費用以上の額になった。それは、ある程度予測していたので、新たな計画を用意していた。
王都と西都を結ぶ鉄道に挑戦する。成功すれば、王都・北都間、更には西都・北都間と夢は大きい。
西都へは、少し南に迂回すると、険しい峠等の無い、割と平坦なコースが出来る、但し、1箇所だけ大きな川を渡る必要があり、街道はそれを避け、大きく北に迂回している。
昴の無理なリクエストで棟梁達のスキルがグンと上がっているし、資金は、潤沢なので、大河越えの橋を架ける事を選んだ。線路は、棟梁達に任せ、昴は機関車の開発に取り組んだ。中学生までは、所謂『テッチャン』鉄道ヲタクだったので、蒸気機関車の構造は頭に入っていた。石炭を魔石に置き換えて、設計図を描くと、元冒険者で主に武器等をつくる職人の、美貴が具現化する。
ダンジョンで死にかけ、トーラスに運ばれて来た時、『なんでも作れるよ!』のアピールに昴は機関車をリクエスト、
「流石に機関車は作ったこと無いなぁ。でも馬車の改造とか大好きだから、構造は熟知してるからね、なんとかするね!」
と言いながら、1年足らずでやってのけた。黒煙もCO2も出さないエコな試作機が完成した。フォルムも憧れのSLに近い物が出来たが、煙突から出るのが水蒸気だけなのはイマイチ趣に欠けるので、いっそリニアモーターにすれば良かったと少し心がブレた。
美貴は、昴が作った施設の近くに作業場を構え、昴の設計図から様々な便利グッズを作り出している。他にも冒険者の頃に有ったら良かったモノを自身の経験から作り、トーラスと連携して改良、ちょっとした便利グッズから武器まで、トーラスや治安維持に大きく貢献している。
「ホントは、美貴がこうやって武装してダンジョンに潜りたいんだけどね。」
魔力は高いが、創作に特化し、戦闘能力が低い美貴は、自身を含め初心者ばかりのパーティーを創作した武器で強化し、身の丈以上のダンジョンを攻めて、華々しい成果を挙げていたが、仲間に騙され、武器商人の奴隷にされそうになり、ダンジョンに逃げ込んだ所、想定外の強力な魔物に遭遇、瀕死の状態でトーラスに発見され昴の元に運ばれている。少々人間不信になっているので、冒険者へは戻っていない。