アテ外れのテイマー
とあるパーティーに、魔獣を使役する成美と言う女性テイマーが居た。彼女は魔力が強く、Cランク。新人にも関わらずそのスペックから、上級者達のパーティーにスカウトされてダンジョンに潜っている。
「おい、ミノは牛だろ?牛は草食じゃねぇのか?チェッ、使えねぇな。」
成美の魔力はずば抜けているが、使役対象が『草食』のみ。普段は角兎の群れが彼女の戦力、馬や牛系統の魔物も操る事ができるが、武器や魔法を使う知力を持ったミノタウロスの様な上位魔物は『草食』縛りには入らないようだ。
お荷物テイマーと契約してしまったパーティーは、今後一緒に活動する気はないが、解約には違約金が掛かるし、次のメンバー募集に影響があるので、事故を装ってダンジョン内で始末する道を選んだ。
ギリギリ倒せる階層迄降り、派手に戦う。集まった強大な魔物達を躱し、成美を孤立させる。魔物に食い下がる角兎達が蹴散らされ、魔物の一撃が成美を吹き飛ばした所で、ダンジョンを後にした。
「え?メチャ集まってるんですけど!」
下層を攻略して帰り道のトーラスが、滅多に群れない魔物が集まっているのに違和感を抱いた。
「あれ、人よね?」
ギルド屈指の実力パーティーに成長していたトーラスは魔物を圧倒、倒れていた成美を助け出した。
「昴に診て貰うしか無さそうね!」
ポーチから担架を出して地上に運び、馬車で王都の元スラム街を目指した。
昴は、娼館の利益で、犯罪の温床になっているスラム街を整備。廃屋をそっくり買い上げ、更地にして、孤児院と託児所、それと学校を兼ねた様な施設を作り、スラムに住んでいた浮浪児の保護、子育て世代の母親に働く機会を作り、給食が目当てで通う子供達に読み書きを教えたりしている。
トーラスが護衛の時に、大きな犯罪組織にダメージを与えていたので、治安は良くなって来ていたが、文盲の若者達が騙されて犯罪に加担したりするケースはなかなか無くならない、いくらかでも教育して、闇に落ちる子供を減らし、治安の維持と考えていた。
「済まない!緊急で怪我人を診て欲しい!」
ドアを壊しそうな勢いで入って来たのは圭織だった。
「患者は?」
「馬車でコッチに向かっている、揺らさないように走ってたら何時までも着かないから、馬を借りて来た、一緒に来てくれるか?」
返事代わりに右手を出すと、圭織は引っ張り上げ、馬に乗せた。
街道を疾走し、トーラスの馬車まで30分程、裕子とひとみが得意ではないヒールで生命維持、何とか息があり即ヒール。回復した様子だが、大量の出血で貧血状態らしい。施設に戻り再度、造血を意識してヒール。やっと気が付いた。
状況を確認したひとみはオブラート無しで、
「厄介払いされたクチね。転職をオススメするわ。」
本人もそのつもりらしい。
「草食縛りって、刀角牛はどう?」
「試した事ありませんが、多分大丈夫だと思います。」
翌日、牧場に出掛けることにし、成美は、孤児の少女達の部屋に泊まる。
翌朝、すっかり元気になった成美は昴と共に牧場へ。飼育しているのは牝ばかり。乳を加工してゴムの代替品を作っている。特に問題なく見えるが、牝を求めて牡が訪れる。牡は刀の様な鋭い角を持ち、非常に乱暴な性格なので、他の牡と戦い、どちらかが死ぬまで止まらず、牧場の施設に被害が出る事は珍しく無い。牡を飼育するのは難しい為、繁殖が出来ず、野生の牝を捕まえて飼っている。
「牡をティムすれば良いんですね?」
成美は藪の中から様子を窺っていた牡をあっさりとティム。強い牡を警戒して、近寄らなかった他の牡も2頭、計3頭を従え、牝ばかりの牧場に放った。牝を3つのグループに分け、ハーレムを作ると、牡はしっかり仕事を熟していた。
「雇って貰えるんですか?」
「是非、お願いします!ゴムの需要が増えているので、収入は安定すると思いますよ!」
娼館で消費するゴム製品の調達に苦慮していた昴は、職人さんと協力して、完全手作業だった工程を町工場程度にレベルアップしていたが、材料の確保が出来た事で、大量生産が可能になった。
その後もトーラスは、ダンジョンで瀕死の女性冒険者を見つけると、昴のところに運んだ。回復した冒険者達は昴が断っても、
「では、施設に役立てて下さい!」
大金を支払ったり、珍しい宝物等をお礼に置いて行ったりで、結構な稼ぎになっていた。
怪我を機に引退する人が仕事を手伝ってくれたり、棟梁の人脈で職に就いて、仕事を頼んだり頼まれたりと、いつの間にか、知り合いか、知り合いの知り合いで、なんでも出来るようになっていた。
そんなある日、馬車が5台、施設に押しかけた。先頭は騎士隊、次の3台はいかにも盗賊風の怪しいヤツ、殿は見覚えのある馬車、トーラスだった。
盗賊風の3台は焼け焦げた跡があり、車輪もガタついていた。
「人拐いの組織を潰したんだけど、子供達を乗せた馬車に火を着けて、助けているうちに幹部連中は逃げてしまったの、元々弱っていたみたいだし、火傷も酷いから、お願い!助けてあげて!」
裕子が涙目で叫んだ。
話しを聞き終わる前に、昴の人差し指は既に金色に輝いていた。火傷の酷い子から順に、皮膚の表面に触れられる程度まで応急ヒール、次々に応急処置で、命を確保していき、運ばれた18人全員を命に別状の無い所まで回復させてから、落ち着いて全快までヒールした。
「やっぱ、ここに連れて来て良かった!」
買い物から戻った真理とひとみは、子供達に着替えを配っていた。
「精々、踊り喰いにしか売れねぇから、二束三文かと、思ってたけど、コレなら結構な額になりそうだな!」
他のパーティーと共闘するときは、基本戦利品は山分けする、今回、騎士隊から5人参加しているので、トーラスの4人と折半して、9分の5、奴隷として10人は自分達の取り分と主張した。因みに踊り喰いとは、魔物と戦う、闘牛みたいなショーで、全く勝ち目のない魔物と戦わせ、喰い殺される事を言う。残酷なシーンを楽しむ者が一定数居る事と、逃げ惑う人間を襲い、魔物の闘争心に火を点けるのが狙いだ。
それが正規のルールなので仕方が無いが、
「それでは、治療費の10人分は、隊員様に請求ですね?」
「あ、あぁ、幾らするんだ。」
「はい、瀕死の重症からですので、1人大金貨2枚、計20枚になります。」
「そんなに!?」
昴は、顰めっ面の騎士にSランクのバッジが見えるように上着を直した。
「そ、そうか・・・」
「ヒール前でしたら手数料の小銀貨3枚分も怪しかったとおもいません?」
「ああ、確かに・・・」
「僕が買い取りましょう。1人小金貨1枚、全部で大金貨1枚、奴隷登記の変更手数料は、こちらで持ちます。如何です?」
皮算用の十分の一ではあるが、元々棚ボタなので、
「おう、それで頼む。」
商談成立した。