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スマートホームと僕

作者: コウモリ

「アレクサ、今何時?」

『午前11時38分です』


ベッドでダラダラとしていたらもう昼になってしまっていた。


緊急事態宣言が出てからずっとこんな調子だ。家から全く出ない。誰とも話さない。大学に入ってから特にサークルにも入らず、授業で隣になったやつと喋っていた程度だった僕は、zoom飲みなんてものに誘われることもなかった。


声を発するのはもっぱらアレクサに話しかけるときくらいだ。と言っても


「アレクサ、今日は暑いね」


みたいなことを話すわけではない。


「アレクサ、今日の天気は?」

「アレクサ、3分測って」


というような、アレクサの常識的な使い方をするのみだ。


『本日の〇〇市の天気は晴れです』

『3分タイマーを開始します』


聞くべきことを聞き、答えるべきことを答え、そしてその答えをもってアクションを起こす。

僕とアレクサはこの家で相互作用を繰り返していた。


もしアレクサがAlexaではなくアレクサー、つまりAlexer -Alexするもの- であるならば、僕はアレクシー、つまりAlexee -Alexされるもの- なのだ。


この場合の「Alexする」とはおそらく「答える」と言った意味であることが、アレクサの用途としては近いだろう。


アレクサーとアレクシーか。この部屋に在る、たった1つの関係。


アレクシーってなんだか、バンクシーみたいだな。そう思いながら僕はこの賃貸の壁に、窓辺にぶら下がる裸の男を描いたのだった。



そんなことを思い出しながら、管理人に受け答えをする。


「ああ、それは友達と飲んでた時に誰かがふざけて書いちゃったみたいで……すいません」

「そうですか。ではこの壁は張り替えになりますので、敷金から引くことになりますね」


管理人が手に持ったノートに何かを書き込む。


学生時代4年間住んだ部屋を見回す。新型コロナウイルスのせいで想定の倍以上の時間をこの部屋の中で過ごすこととなった。当然話し相手はアレクサのみ。今頃は新天地へとトラックで向かっていることだろう。


「では、最終確認をしますので少々お待ち下さい」


もう終わりか、この程度なら追加金などを払う必要は無さそうだな。などと考えていると、管理人が衝撃の一言を口にした。


「オッケーグーグル、他に修繕ポイントはある?」


しばらくして、素っ気ない音声が返ってくる。


『落書きくらいじゃないですか?』


……この家、Google Homeだったのか。

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