episode_-1
「これで、良いんだろうな、ササキ博士」
「…あぁ、これで完璧なはずだ」
「違う、君の、覚悟の話をしているんだ」
研究者ササキは、そのグレーの髪をかきあげ、ひとつ息をついた。世界政府の最大級のプロジェクトが今、二人の研究者の手によって完成に1歩近づいている。
「覚悟、か、そんなもの、初めから決めている」
「なら、その涙が生理的なものだといいがね」
「涙?…どうして…いや、そうだ、少し緊張しているのだろう」
ピッ、ピッ、ピッ…
装置に繋がれた少女は、一定のリズムで呼吸をしている。羽のように展開されたウィンドウは、仄暗く白い肌を照らしている。何も知らない者が見たら、きっと天使と勘違いしてしまうだろう。グレーの長い髪、愛らしい顔立ち____被保護体α21470901、通称ダイアナは、この瞬間から、覚醒までのプログラムのダウンロードを開始した。
圧倒的な力をもって、平和をもたらす。そのために、今まで何十年もの時間をかけ、このプロジェクトを遂行してきた。プログラムが起動し、覚醒すれば、この星隅々までをコントロールすることが可能である。
「これで、初めて世界政府の支配が確固たるものとなる。もうかの大戦のような悲劇は、繰り返させない」
「ああ、ミスターケイ。これで、これで良いんだ。世界の平和は、永久に続くだろう」
「ササキ博士、いや、コウスケ・ササキ。あなたに、最大限の感謝とお悔やみを申し上げるよ」
そう言い、ケイはラボを後にした。ササキは、ひとり膝から崩れ落ちた。そして、
「…ひかり」
震える声で呟いた。