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駆ける隼-2

惨劇のバクティンの夜が明ける頃、グアダルペ一行と後から追いついたシェーレは第三正教区に到達した。

急遽作られたように粗雑なバリケードをくぐると辺りには疲弊したバクティン兵達、民衆の姿があった。

シェーレ達が護衛してきた兵士と民達もこの夜を徹しての避難に今にも倒れそうな様子であった。

首都の陥落と殺戮の惨状を目の当たりにした兵士達にはこれからどうなるのかという重苦しい不安の色が見て取れる。

その様子を見ていたシェーレとグアダルペの下に将校らしき男と数人の兵士がやってきた。

「私はバクティン第32歩兵連隊司令官のタレガいう者です。隼達の身を徹した市民の護衛に感謝の意を表します。して、我らがバクティン帝は無事なのでしょうか?」

グアダルペが皇帝の安否と行方を伝えるとタレガは安堵したようだった。

「ご存じの通り、我が国の首都は陥落。軍の統帥権も誰にあるのか分からぬ有様です。

各地で迎撃と防衛にあたっていた連隊との連絡も途絶え、我が軍があとどれほど残っているのかも分からぬ状況です。」

「あのバクティン軍が一週間でこうなるとはな。」

シェーレがそう云うとタレガは微笑んで云った。

「私も驚いておりますよ。小国と侮っておりましたがここまで烈しい軍隊だとは思っていなかった。

しかし、今回の侵攻。はっきりと分かったことがあります。」

「なんだ?」

「我々の敵はサラゴサ王国軍ではなく悪魔であるということです。」

グアダルペとシェーレはタレガの云ったことを一笑に付すことはできなかった。

先の戦場で自分たちと対した異形の化け物を見ていたからだった。

「サラゴサ王国が我が国を侵略するまでの僅か3ヶ月の間に3つの国が落とされました。先方の兵士の練度を高く見積もったとしてもそれは速すぎます。小国であれば兵士の数も限られましょう。余程の軍師がサラゴサ王国に居たのでしょうか。否、サラゴサ王国の戦法は子供でもできる正面突破策かつ数と兵器に物を言わせる戦法もへったくれもない野獣の如きモノです。」

タレガは続けた。

「倒しても倒してもどこからともなく湧いて出る化け物と兵士達・・・。我々はそれらに蹂躙されることしかできなかった・・・。」

シェーレとグアダルペは無言でタレガの言葉に耳を傾けていた。

「バクティンに伝わる神話があります。太古の昔、大地には人間の他に''聖''と''魔''が存在していました。

その時の人間は無垢なるものであり聖と魔のどちらにも容易く染まる弱き存在とされていました。’’聖’’と’’魔’’はそれぞれ超常的な力を持っており聖は人間を導く為に、魔は人間を従える為にその超常的な力を使ったとしています。聖なる力は聖法、魔なる力は魔法と呼ばれたそうです。そしてある日この大地を聖と魔のどちらが統べるか決する戦争が起こりました。戦いは聖が勝利しました。

聖は魔を異界へと封じ込め、大地から魔を一掃しました。しかし、魔はその時にこの大地に呪いを掛けたのです。」

グアダルペは聞いた。

「呪いとは?」

「’’悪’’だそうです。我が国が人間の大罪としているものです。憤怒、嫉妬、傲慢・・・。大地に生まれてくる人間の全ての心にそれが宿るよう呪いを掛けました。呪いを掛けられた人間の為、聖はその全てを力をつかって原罪を打ち消す為に大地にある祈りを施したのです。それが善です。大罪に対して正義、慈愛、至誠・・・。そして大地から聖と魔の存在が居なくなり、人間は善と悪の二つを内包する複雑な存在となってしまった・・・。そして今、封じられた’’魔’’がこの大地に再び蘇ったのではないでしょうか・・・。」

突拍子の無い内容にグアダルペとシェーレは目を見合わせた。

しかしタレガの云うことには妙な説得力があった。

何か異様な出来事が起こっている、という確信が二人にはあった。

その時ふいに二人の背後から軽い調子で話しかけてくる男が現れた。

「なかなか面白い話じゃない。」

男はシェーレとグアダルペの同僚のイシュマエルだった。

銀髪を靡かせ布にくるまれた何かを抱えながらイシュマエルは云った。その顔には血飛沫が点々とついている。

「サラゴサ王国の侵略が全て悪魔の仕業っていうんならぜーんぶ合点がいくよ。見てこれ。」

イシュマエルが手に抱えている布を優しく外すとそれはまだ年端もいかぬ子どもの骸だった。

「こんな子供をよってたかって串刺しだよ?・・・これが悪魔じゃなかったらなんなんだ。」

微笑む口元とは裏腹に眼には怒りが滾っているようであった。

それを見たタレガは心痛な面持ちで隼達に告げた。


「我ら歩兵連隊はこの正教区にいる民を難民として隣国のパルム国境まで護送することにしました。

隼のおかげで多くの命が救われました。あとは我々に任せてください。では・・・。」


「これで任務終了か。」とグアダルペが云うとイシュマエルは笑った。

「何を言ってるんだよ。まだだよ。」

「何?」

「ここの民がパルムに到達するまでにサラゴサが追いついたらどうするの?弱き者、守れぬ者たちの為の大空の翼・・・それが僕たち’’隼’’でしょ。」

イシュマエルは抱えた子供の骸の顔を優しく手でなぞると祈りの言葉をつぶやいた。

「偵察の結果を伝えます。中央大聖堂地区に先方の将校らしき人物を確認。バクティン第32歩兵連隊はこれより民の避難の護衛の為、隣国パルムへ北上する予定ですが、その避難をより安全とする為将校を討ち取り、軍を攪乱させるべきと考えます。シェーレ。」

「イシュマエル。お前の子供の無念を思う気持ちはよく分かる。だがその提案は無茶だ。」

グアダルペがそういうとシェーレは考え込むように目を閉じていた。

「・・・許諾する。任務は続行。今から3時間後、我らは中央大聖堂地区へ戻り進駐したサラゴサ王国軍将校討伐による攪乱作戦を決行しバクティン民の避難の安全確保をするものである。各自それまで休みを取れ。」

グアダルペは呆れたようにため息をついた。

「シェーレ、ありがとう。僕も戦場で色々な惨いものを見てきた。でもね今回ばかりは許せないんだ。」

「分かってる。」


イシュマエルは抱えた骸をただジッと見つめていた。


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