2:クロ
こたつの中で丸くなっていたのは猫ではなく少女だった。
「ん、だれ?」
少女はのそのそとこたつから出てくる。
ワンピース姿の小学生くらいの黒髪の少女。現在この家には誰もいないことは確認済み。
「もしかしてクロ、なのか?」
「あ、ハジメだ。おっきくなってる」
頭には猫耳、背中から二本の尻尾が揺れているのが見える。
「ねえハジメ、ウメはどこにいったの?」
ウメは祖母の名前。やはりこの少女はクロのようだ。
「クロ、ばあちゃんはもういないんだ」
「どういうこと?」
祖母が亡くなったことをクロに説明する。
「ウメいない。これからどうしよう」
不安そうにつぶやくクロ。
「うん、決めた」
「?」
「俺、ここに住む」
「ハジメ、クロもここにいてもいいの?」
「ああ、もちろん」
クロの頭をそっと撫でる。
祖母にとってクロ一人を残すことは心残りだったに違いない。だからハジメを指名したのだろう。
クロのことをお願い。
遺言状にはそんなメッセージが込められていたのではないか。そんなことを改めて思った。
それからクロを一緒に家の中の確認をする。残っていた食べ物が少し痛んでいた以外には特に変わりはなかった。
一息ついて休憩する。改めて気になっていたことをクロに聞く。
「クロ、その姿にどうやってなったの?」
「わからない。気づいたらなってた」
クロによると祖母が家からいなくなってから人の姿になれるようになったらしい。尻尾の数もその時に増えていたとのこと。
親族がクロを認識できるようになったのも多分それが原因だと思う。
猫又みたいなあやかしなのだろうか。あやかしは危険な存在としてのイメージが強い。
しかし目の前でお菓子を美味しそうに頬張るクロの姿を見て、少なくともクロは人に害するような存在ではないとハジメは思った。
「じゃあまた」
「ん、待ってる」
流石に今日からすぐ住むという訳にはいかないので一度帰ることに。
相続の話はもちろん仕事や引っ越しなどやることが多く大変だが、全く苦に思わなかった。
それよりもこれからの新生活の楽しみの方が上回っていた。クロを待たせていることだしなるべく早く片付けてしまおう。
そして一週間後。
無事引っ越しを終えハジメとクロの新生活をスタートした。




