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第8話 新事実

 ああ、俺は間違っていたのだろうか。

 あの時の判断は正しかったのだろうか。

 俺はあの男から逃げていただけではないのか。

 俺は我が身可愛さにあの男を放置しただけではないのか。

 いや、そうじゃない。

 あの男について調べるように頼んだ部下が次々に何者かに殺された。

 俺はこれ以上部下を死なせたくないと心の中で言い訳をし、何もしなかっただけに過ぎない。

 自分が一番危険な矢面に立つことなく、逃げただけだ。

 いつからだろうか、自分の正義が揺らいだのは。

 自分の正義を、警察の正義を自分自身が信じられなくなったのは。

 男はそのまま自問自答をし続けた。

 それでも最後に果たすべき仕事ができた。

 清水に全ての重荷を背負わせる事になるが、清水ならきっとあの男の正義を否定できる。

 己の中に確固たる正義を持っている清水ならきっと。

 男は清水に全てを託し、絶望的だった未来に希望を見出せた事もあり、満足気の様子。

 そして首を吊り、その人生に幕を下ろす。






 愛知県警を一人の男が訪ねてやって来た。

 その男は偶然、見掛けた刑事に声を掛ける。


「そこの昨日の女刑事さん、ちょっといいかな?」


「?あ、重松教授じゃないですか!もしかしてウイルスについて何かわかった事があるとかでわざわざ来て下さったのですか?」


 葵は誰かなと思いながら振り返ると昨日、名古屋総合医科大学で話を伺った重松猪埜介教授がいた。

 ウイルスについてあれから何かわかった事があり、わざわざそれを伝えに来てくれたのかなと期待する。


「いや、それとはちょっと違うかな。実は…」







 昨日一日掛けてトイフェルが再捜査を要求している13年前の事件が何かを調べて、それをちょうどまとめていた所で、瑠菜から明にメッセージが届く。


『おはよ天道、昨日一日掛けて調べた情報を共有したいし、また家に来れる?』


『おはよう、錦木さん。僕は大丈夫だよ。何時頃行けばいい?』


『んーとね、できれば早い方がいいかなって可憐が言ってる。今からとかでも大丈夫そ?』


『わかった。すぐ準備して行くよ』


『OK!』


 急いで部屋着から外着に着替え、明は瑠菜の家に向かう。

 この一件で少し仲良くなり始めたとはいえ、明の中ではまだ地味男と呼ばれていたあの頃イメージが根強く残っている。

 あまり、待たせすぎると何言われるかわからない。

 あとは純粋に女の子を待たせるのも良くない。

 そんな思いがこの時の明にはあった。



 30分ほどで瑠菜家に着いた明は前回は躊躇して押せなかったインターホンを直ぐに押した。

 今回は直ぐに押せたが、女の子の家のインターホンを押すのは明には相当勇気のいる行動だが、あまり待たせ過ぎるのはという思いが勝った。


 インターホンを押すと直ぐに家の中から瑠菜が出て来て、明を家に迎え入れる。

 そして以前と同様に瑠菜部屋に向かう。

 どうやら今回も場所は瑠菜の部屋みたいだ。

 瑠菜の部屋に入るとそこには既に可憐がいた。


「おはようございます、明さん」


「おはよう、可憐ちゃん」


 会って直ぐに挨拶を済ませると早速本題に入る。


「では早速、昨日一日掛けて調べた情報をお互いに共有しましょう。私とお姉ちゃんは一緒に調べた結果、13年前に起きた無差別連続殺人事件が怪しいと思いました」


「まあ、調べてもそれと名古屋市役所爆破未遂事件しか出てこなかっただけなんだよね。爆破未遂は未解決事件っぽいしから自然と消去法でね」


「僕の方も無差別連続殺人事件だと思うよ」


 瑠菜と可憐は二人が昨日得た情報を明に共有する。


 13年前に起きた無差別連続殺人事件は全て同じ凶器、同じ方法で殺害されていたから同一犯として捜査されていた。

 殺害現場は被害者の自宅でアパートやマンション、一軒家とそれぞれバラバラ。

 侵入方法はドアの鍵を破壊して中に入るだったから当時は家に誰かを残して外出する事をみんな控えるようになった。

 事件はかなり世間の注目を集めており、解決まで1年くらい掛かっているが、最後は呆気なく解決した。

 しかも凶器のナイフに残っていた犯人の指紋が容疑者の指紋と一致した事が決定的な証拠となった。

 凶器のナイフには指紋が残っていたのに犯人を捕まえるのにいくら何でも時間が掛かり過ぎている気がする。


「なるほど。でもこの事件は無差別連続殺人事件じゃないかもしれない。昨日、図書館で会った大岩先生がそう言ってた」


 明は昨日、図書館で偶然大岩先生と会っていた。

 そこで大岩先生から13年前に起きた無差別連続殺人事件についていろいろと教えてもらっていた。

 世間には出回っていない一部の人たちしか知らない噂話も含めて。


「え?それってどういう事ですか?明さん!」


「うんうん」


 明から13年前に起きた無差別連続殺人事件はもしかたら無差別ではないかもしれないと聞いた可憐は机から身を乗り出して対面にいる明に質問する。


 可憐ちゃん、顔が近いよ。

 そんなに身を乗り出さなくても。


 可憐はすぐに今の状況に気づき、顔を赤らめて元の位置に戻った。

 瑠菜はそれを見てニヤニヤしている。

 明は一度わざとらしく咳払いをして話を元に戻す。


「えっと、大岩先生たち教師の間では真偽不明の噂が流れていたんだ。内容は被害者遺族には必ず教師がいるだったらしい」


「被害者ではなく、残された遺族に共通点があったという事ですか?」


「それにさ、その噂が真偽不明ってどういう事?」


「大岩先生たち教師の間で流れていた噂だけど、本当かどうかまでは大岩先生もわからないって言ってた。当時は噂の真相を確かめる余裕なんて誰にもなかったらしいから」


「もしかしたら自分たち教師が狙われているかもしれないなんて信じたくないもんね」


「お姉ちゃんの言う事にも一理あると思うけど、火の無い所に煙は立たぬと言います。その噂が真実である可能性はあるのではないでしょうか?」


 可憐は明の話を聞いて、噂が真実である可能性があると考えていた。

 何の根拠もなく、そう考えている訳ではない。

 昨日、13年前に起きた事件について調べていた際に、一つの小さなニュースが可憐の目に留まった。


「実は昨日、13年前の事件を調べていたら小さなニュースが目に留まったんです。中学二年生の男の子がいじめが原因で自殺したニュースです」


「それがこの事件とどう関係があるのさ?」


「それはわからないけど、自殺があったのは13年前の2月で最初の殺人事件は3月に起きてる。タイミングが良すぎる気がして」


「確かに気になるね。全く関係が無くて、タイミングが良すぎるのもただの偶然かもしれないけど」


 そもそも事件と関係があったとしても自殺した生徒と逮捕された容疑者との関係性や殺された被害者やその遺族との関係性など一般人では知る事のできない情報ばかり。

 これ以上の事は結局のところ考えてもわからない。


「ねえ、天道ってさ大岩先生の連絡先とか知らない?」


「え?昨日会った時に教えてもらったけど、それがどうかした?」


「だったらさ、大岩先生に直接電話して聞けばいいじゃん」


「お姉ちゃん、それは無理だと思うよ。その先生にも守秘義務があるから」


「まあ他に手は無いし、ダメ元で大岩先生に電話してみるよ」


 明は自身のスマホで大岩先生に電話をする。

 大岩先生が電話に出る気配がなく、諦めかけた所で電話が繋がる。


『もしもし天道か。どうした急に?』


『大岩先生、急にすみません。今、お時間よろしかったですか?』


『大丈夫だぞ。それで要件は何だ?』


『13年前の2月に中学二年生の男の子がいじめが原因の自殺した事件があったと思うんですけど、詳しい事って教えてもらう事はできますか?』


『…』


 明の質問に対する回答は沈黙だった。

 体感で1分ほど待ったか、大岩先生が当時の事を話し出した。


『ほんとはこういう話をしちゃいけないが、まあ俺はその自殺した生徒と関わりはなかったし、いいだろう。おまえたちが何を聞きたいのかはわかっている。…だ』


『え?それは本当ですか?』


『本当だ。ただし、俺からおまえたちに言える事はこれだけだからな。あまり無茶だけはするなよ』


 プツッ、プープープー。


 大岩先生の話が本当ならこの事件は無差別連続殺人事件なんかじゃないかもしれない。

 復讐殺人かもしれない。

 でも、トイフェルの言う誤認逮捕ってどういう事だ?

 僕の考えが正しければこの事件は誤認逮捕なんかじゃない。

 容疑者として逮捕された後に留置所で服毒自殺をした男で間違いない。

 それとは別に大岩先生が気になる事を言っていた。

 大岩先生が本来知る筈のない情報を知っていた。

 一体どうして?

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