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第6話 不透明

 明は大岩先生に図書館で教えてもらった国会国立図書館のホームページで13年前の新聞を閲覧している。

 13年前に名古屋市で起きた事件で大きく取り上げられているのは、二つだけ。

 大岩先生も印象に残っていると言っていた無差別連続殺人事件と名古屋市役所爆破未遂事件。


 13年前にあった名古屋市役所爆破未遂事件。

 始まりは愛知県警の元にきた一本の電話にあった。

 電話の内容は名古屋市役所に爆弾を仕掛けたというものだった。

 当初ただのイタズラ電話だろうと思われたが、万が一があってはいけないという事で念の為の捜査が執り行われた。

 そして、実際に爆弾は名古屋市役所内に設置されている事が発覚した。

 その後、すぐに駆け付けた爆発物処理班の手によって爆弾は無事解体されて、事なきを得た。

 しかし、名古屋市役所爆破未遂事件は犯人が捕まっておらず、今回トイフェルが再捜査を要求している未解決事件とは関係ないと思われる。

 その後、関係がありそうな無差別連続殺人事件について明が一人で調べてわかった事もある。

 それは逮捕された犯人は裁判を目前にして留置所で服毒自殺をしているという事だった。







「お姉ちゃん、そっちは何かあった?」


「んー調べてはいるんだけど、全然見つかんない」


 可憐と瑠菜は姉妹で仲良く一緒にトイフェルが再捜査を要求している13年前の事件を調べていた。

 しかし、明同様に見つかったそれっぽい事件は名古屋市役所爆破未遂事件と無差別連続殺人事件の二つだった。


「目立った事件といえばやっぱりあの二つだよね」


「うん。でも、名古屋市役所爆破未遂事件は犯人捕まってないから可能性があるのは無差別連続殺人事件の方かな」


 その後も二人で一緒に調べるが、特に成果はなく終わりつつあったその時、二人の元に一人の男が訪れる。


「二人とも随分熱心に頑張ってるな。お父さんにも何か手伝える事があるなら協力するよ」


「パパ!急にどうしたのさ?」


「可愛い娘たちが頑張ってる訳だし、何か手伝えないかなと思っただけさ」


「じゃあパパは13年前に起きた無差別連続殺人事件を覚えてる?」


「13年前の無差別連続殺人事件か。もちろん覚えてるよ。かなり痛ましい事件だったからね。それに最後はかなり呆気なく事件は解決して終わったからね」


 先ほどまでにこやかに笑って娘二人の手伝いをと考えていた二人の父親の表情は無差別連続殺人事件と聞いて険しくなった。

 それも当然だろう。

 当時、名古屋では大きな事件が起きておらず、平和そのものだった。

 そんな中3月に入り、殺人事件が発生した。

 当時の新聞に書かれている記事を読んだ二人もかなり痛ましい事件だと認識はしているが、当時はまだ幼く事件の事など今回調べて初めて知った二人とは違い、父親は当時の事をしっかりと覚えている。

 新聞の記事を読んだだけではわからない何かを知っているのだろう。

 最後はかなり呆気なく事件は解決したという言葉に二人は興味深々だ。


「13年前に起きた無差別連続殺人事件は全て同じ凶器、同じ方法で殺害されていたから同一犯として捜査されていたんだ。殺害現場は被害者の自宅。アパートやマンション、一軒家とそれぞれバラバラだったけど、侵入方法はドアの鍵を破壊して中に入るだった。だから当時は家に誰かを残して外出する事をみんな控えるようになった」


「あ、そういえば、私が保育園に通ってた時に急に可憐を保育園に預けるようになったのもそのせい?」


「家に子供一人にさせるのは、当時絶対にさせてはいけない事だった。まだ1歳だった可憐を保育園に瑠菜と一緒に預かってもらったのもそれが理由だよ」


「あの時、可憐のお守りがほんと大変だったんだから!起きた時に私が近くにいないと泣き出しちゃうから毎回、保育園の先生に可憐ちゃんが泣き出しちゃったって急ぎ可憐の所まで駆けつけたんだから」


「はは、そんな事もあったな。でも、保育園だけじゃなくて家でもそんな感じだったろ。だから可憐が小さい頃は瑠菜と一緒に寝かせていたんだ」


「そんな事があったんだ。お姉ちゃんありがと。…でも、全然知らなかった」


 可憐は姉である瑠菜に感謝しつつも自分が何も知らなかった事に少しショックを受けているが、13年前はまだ1歳の赤子。

 何も知らなくて当然と言える。

 お姉ちゃん大好きなのも物心つく前から何も変わっていないようだ。


「はは、可憐は知らなくて当然だよ。親はみんな子どもを不安にさせないようにこの事件に関する情報を耳に入らないようにしてたんだから」


「あ、だから私も全然記憶にないんだ。可憐を保育園に預ける時も理由はおしえてくれなかったし。でもさその事件って最後は呆気なく解決したんでしょ?」


「まあそうなんだが、事件が解決するまでに確か1年くらい掛かっていた覚えがあるな。そこまで正確には覚えてないけど、犯人が逮捕されてみんね一安心したからね」


「その事件は最後どんな風に解決したの?」


「詳しくは覚えてないけど、確か凶器に残っていた指紋と容疑者の指紋が一致したのが決め手だった筈だよ…」


 うろ覚えの記憶を頑張って引っ張り出して答える。

 流石に当時、一番世間の注目を浴びていた事件とはいえ、解決してから10年以上経っている。

 記憶からは綺麗さっぱり忘れられていた。

 娘の前でかっこいい所を見せたい父親だが、記憶が曖昧だから最後の最後でいい感じに締められないでいた。


「なるほど。パパありがとう!すごく参考になった」


「うん、パパありがとうね!」


「え、ああ参考になったからよかったよ」


 最後、上手く締められなかったのは残念そうだったが、娘たちに感謝されて満足げの様子。

 父親がいなくなった後、瑠菜と可憐は二人で今聞いた話を整理していた。


「つまり、こういう事よね。13年前、この事件はかなり世間の注目を集めていた。解決まで1年くらい掛かってるけど、最後は呆気なく解決した。しかも凶器のナイフに残っていた犯人の指紋が容疑者の指紋と一致した事が決定的な証拠となった」


「うん。パパの話を聞いた感じ、お姉ちゃんの言う通りだと思う。ただ、気になるのは凶器のナイフには指紋が残っていたのに犯人を捕まえるのにかなり時間が掛かっていること。いくら何でも時間が掛かり過ぎてないかな?」


「でもさ、この事件って無差別殺人でしょ?犯人の可能性がある人を絞り込むのが大変だったとかじゃない?」


 瑠菜の言う事にも一理ある。

 無差別殺人となると容疑者を絞り込むのも一苦労だ。

 そもそも偶然見かけた人の後を尾行して、家に侵入し、殺しただけかもしれない。

 凶器のナイフに指紋が残っているだけだと前科持ちでもない限り、すぐには犯人特定とまではいかないだろう。


「だとすると、事件解決までに時間が掛かり過ぎてるし、被害者が多すぎる気がする…」


「どうしてさ?時間を掛けて犯人を絞り込んで特定して逮捕したんじゃないの?」


「時間が経つって事は被害者の数が増える事を意味してる。被害者の数が増えれば、被害者に恨みとかがある人が増える。つまり、それだけ容疑者の可能性がある人も増える訳。被害者に共通点がない無差別殺人は容疑者の可能性がある人が増える前に早期解決するが理想だと思う」


 極論どんな事件も早期解決が理想だが、無差別殺人は特にその傾向が強いのではないかと可憐は考えている。

 それにこの無差別連続殺人事件の始まりとも言える事件は13年前の3月に起きている。

 そして一応世間では終わりと言われている最後の事件は13年前の11月に起きている。

 この間、被害者は17人にも及んだ。

 13年前の11月に最後の犯行をしたと思われているが、逮捕されたのは今から12年前8月になる。

 何故これほど多くの被害者が出たのか。

 犯人が狡猾で逃げていたからだろうか。

 それにしては凶器のナイフに指紋を残すなど間抜けな一面がある。

 可憐は何かが心の奥底で引っ掛かっていた。







「二人はどうだった?」


「自分たちなりにいろいろ調べていたよ。そのせいか13年前の無差別連続殺人事件について聞かれたよ」


「あの()たちに変な事教えてないでしょうね。正直、トイフェルだったかしら。そんな訳のわからないテロリストについて調べるなんて私は反対なの。娘たちに何かあってからじゃ遅いし」


「まあ母さんの言いたい事はわかるよ。でも魁くんが名古屋駅でテロに巻き込まれたと聞いた時の瑠菜の顔が今でも忘れられない。辛いだろうけど、あの娘たちには前を向いて生きてほしい。今、前を向いて生きていけるなら親として見守ってあげるべきだと思うよ」


「あなたの言いたい事はわかるけど…」


「心配なのは僕も一緒さ。でも雪子さんも同じ気持ちで息子さんを自由にしていると思うよ」


「雪子ちゃんの子ね。確か明くんだったかしら。なら尚更これ以上調べない方がいいんじゃないかしら。だって、13年前のあの事件を調べるのは明くんにとってお父さんの事を知ることに繋がる訳だし」


「そこは雪子さんを信じるだけさ」

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