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第4話 要求

 明はその後、家に帰ってから可憐が指摘した事をずっと考えている。

 あのウイルスはいつどこで誰がどうやって作ったのか?

 誰に関してはトイフェルにその方面に長けた研究者がいると考えるのが妥当だが、問題はいつどこでの方。

 つまり、研究を行っていた場所と時間。

 それなりに設備が充実した研究施設が必要になるだろう。

 そんな都合のいい研究施設なんてあるのか。

 気になって明はネットで調べてみる。


 ウイルス研究で検索したらよくわからない論文ばっか出てきた。

 ウイルスを言い換えるなら細菌とかかな。

 細菌研究でもう一度調べてみよう。

 そしたら大学教授で細菌について研究している人がいるとわかった。

 まあだから何って話だよね。

 もうすぐ時間も深夜0時になる。

 今日はもう寝て、明日に備えるか。




 明は朝起きたら可憐からグループにメッセージが届いているのに気づく。

 メッセージには『これを見てください』という一文と動画ファイルが一つ添付されていた。

 明はすぐに添付されていた動画ファイルの中身を見た。


『諸君、おはよう。昨日ぶりだね。私たちから警察諸君に一つ要求をする。13年前に名古屋市で起きたある事件、当時の無能な警察諸君は事件の犯人を間違え誤認逮捕している。この事件、いやこの未解決事件を警察諸君には再捜査してほしい。諸君の奮闘に期待しているよ』


 どうやら昨日に引き続き、またトイフェルによる電波ジャックがあったようだ。

 昨日の時点では何も要求して来なかったトイフェルが今日になって一つ要求してきた。

 しかも肝心の内容が不透明すぎる。


 13年前の事件の再捜査。

 トイフェルは当時の警察は犯人を間違え誤認逮捕していると主張している。

 でも、どの事件の再捜査をしてほしいのか何も明かしていない。

 それに何故、誤認逮捕と言い切れるのか。

 まるで自分たちは犯人が誰か知っているみたいな言い方をしている。

 可憐からグループに幾つかの疑問点が送られてきた。


 13年前というと明が小学校に入る前、保育園に通っていた時期だ。

 さすがに印象に残っている事件とかはない。

 自分たちで調べるしかないかなと話していたら瑠菜から疑問の声が上がる。


 『これって魁を助けるのと関係あるのかな?』


 瑠菜の言う通り直接の関係はないかもしれない。

 魁は未知のウイルスに感染している。

 つまり、魁を助けるという事はウイルスの特効薬、ワクチンを作るのがベストなんだけど、僕たちみたいな知識も研究設備も何もない素人集団には不可能だ。

 それにワクチン自体、できたとしても試験やら何やらで実際に人に投与するまでに何年もかかる。

 だったらトイフェルの要求を叶える方が得策だと考えられる。

 見方を変えればトイフェルからするとウイルスに感染した人たちは、人質とも言える。

 要するにトイフェルの要求さえ叶えば、魁たちウイルスに感染した人たちが助かる可能性が有る。


 可憐からグループにメッセージでそういう説明がきた。

 明も瑠菜と同じ疑問を抱いていたが、瑠菜と違い考えないようにしていた。

 可憐からの説明で改めて自分たちにできることをする決意を固めた。

 最終的に三人それぞれ自分なりにトイフェルが再捜査を要求している事件とは何かを考えるという方針で決まる。








「清水さん、トイフェルがまた電波ジャックしました。何でも13年前の事件の再捜査を要求するとか」


「ああ、そうみたいだな。ったく、ふざけた事言いやがって!」


 トイフェルの要求はあまりに馬鹿げている。

 何故、13年前も前の事件の再捜査を今さら要求する。

 何故、どの事件なのか明確に言ってこない。

 何故、誤認逮捕だと言い切れる。

 考えれば考えるほど訳がわからなくなる。


「えっと、昨日の名古屋駅の時みたいに清水さんの刑事としての勘でトイフェルが再捜査を要求してきた12年前の事件が何かわかったりしないんですか?」


「俺の刑事としての勘はそこまで万能じゃねえ!あくまでも勘だぞ。まあ一つだけ言える事がある。少なくとも俺が担当した事件じゃない。それは確かだな」


「えっ、何でですか?」


「おい日下部、おまえ俺と一体何年付き合いがあるんだ?俺が誤認逮捕なんてすると思うか?


「あ、すみません。自分が間違ってました」


 日下部は清水が誤認逮捕するかもしれないと一瞬でも思っていたようだ。

 誤認逮捕は清水とは一番無縁の言葉だ。

 ちなみに二番目に無縁なのは犯人を取り逃すだ。


 清水は昨日、日下部に頼んでおいた件の報告をまだ聞いてない事を思い出す。


「そういやあ、昨日頼んでおいた件について何かわかったか?」


「いえ、まだ何とも」


「まあそりゃあ昨日の今日じゃ無理ないな。あと、朝から葵の姿が見えないが、どうした?」


 今日は朝からずっと葵を見ていない。

 ずっと見ていないとなると少し不安になるな。


「葵さんなら気になる事があるから個人的に調べてみますとメッセージが届いてましたよ」


「ああ、そうか。そういや葵に俺の連絡先教えてなかったな。まあそれはいいとして、どこにいるかわかるか?」


 日下部は清水の問に首を黙って横に振った。

 チッ、清水はこの時いらついていたからか無意識に舌打ちをしていた。

 できれば側にいて欲しかったが、どこにいるのかわからないのはしょうがない。


「おまえは昨日言ったウイルスの出処を探れ。いいな!俺はトイフェルの要求している事件が何かを探る」


「了解しました」


 清水の指示を聞き届けた日下部はすぐにどこかへ行った。


 さてと、13年前の事件かあ。

 何か印象に残っている事件なんてあったか。

 いや、よくよく思い出してみると何かあったな。

 ええと、あれだあれ。

 爆弾魔のやつとか13年前じゃなかったか。

 あ、でもあれ犯人はまだ捕まっていない未解決事件だったな。

 トイフェルは誤認逮捕とか言ってる訳だし、一応は既に解決している事件だよな。


 となるとあとは連続無差別殺人事件とかもか。

 あれは確か既に犯人は逮捕されているはずだ。

 ん?いや、あれも違うか。

 犯人は確か容疑を全て認めてたはずだし、あの事件に関しては揺るぎようのねえ確固たる証拠もあったはずだ。

 詳しい事は当時の捜査資料を見ねえとわかんねえけど、まあたぶん違うだろ。

 13年前、他には何があったかな。





 明たち三人はそれぞれ手分けをして13年前の事件について調べることになった。

 まああの二人は一緒に調べてる可能性もあるけど。

 明は一人で名古屋市図書館に来ているのだが、図書館司書の方に13年前の新聞について質問したら保管されていない事がわかった。

 そういう古い新聞は取り扱いのない図書館が今では多いそうだ。

 どうしても調べたい事があるなら国立国会図書館に行くといいとアドバイスまでいただいた。




「お、天道じゃないか。こんな所で会うとは奇遇だな。調べ物か?」


 さすがに東京まで行く余裕はないし、どうしようと明が悩んでいたら急に声を掛けられた。

 声を掛けてきたのは、なんと大岩先生だった。


「えっ、大岩先生。えっと13年前に起きた事件が載っている新聞を見たくてここまで来たんですけど、取り扱いがないと言われて…」


「13年前の事件?何でまた…。あ、今朝のトイフェルとか名乗ってるテロリスト絡みか」


 その後、明は大岩先生に事の経緯を全て話した。

 魁が名古屋駅でバイオテロに巻き込まれたこと。

 その後何だかんだあって瑠菜とその妹の可憐と協力して魁を助ける為にできる事はないか模索していること。

 その為に今は情報収集を行っていること。


「そうか、相澤があの時名古屋駅にいたのか…。天道、仮にだぞ、おまえたちが警察ですら掴んでいないトイフェルとか名乗ってるテロリストの情報を手に入れたとする。その時、一体何ができる?警察に情報提供でもするか?そもそも高校生から提供された情報を信じてもらえると思うか?まあ結論から言うと何もできない。おまえたちにできる事は警察を、相澤が助かると信じて待つ事だけだ。違うか?」


 大岩先生の言う通りだ。

 明たちみたいな学生には何もできない。

 そんな事くらいのことはわかってる。

 現実は明の好きな推理小説みたいに上手くはいかない。

 それでも…。


「何もせず、一週間待って後悔するより、全力で一週間足掻(あが)きたいんです。その結果なら僕は後悔する事なく受け入れられる気がします。たぶん錦木さんたちも同じだと思います。」


「そうか、天道おまえは相澤の為にそこまで…」ボソッ


 今、大岩先生は何か言ったのかな?

 よく聞こえなかった。


「そこまで言うなら最後まで全力で足掻いてみろ。ただし、危険な事はするなよ。何かヤバイと感じたらすぐに俺や周りの大人に相談しろ」


「はい!ありがとうございます」


「あともう一個だけ。天道、俺にもおまえたちの考えを聞かせてきれないか?俺も推理小説好きとしてかなり気になっているんだよ」


 その後、明は大岩先生と今回のテロについて、そして13年前の事件とは何かなどいろいろな事を語り合った。

 大岩先生は13年前の事件で印象に残っているのは、連続殺人事件だと言っていた。

 事件解決までに10人以上の犠牲者が出たらしい。

 大岩先生の考えは僕たちにはないものばかりでいろいろ勉強になった。

 特に最後に話してくれた内容は特に勉強になった。


『犯罪者はみな嘘をつく。それ自体は否定できん、人間誰しも嘘はつくからな。世間では犯罪者の語る言葉が九割の虚実と一割の真実と思う人もいるだろう。でもな、先生はこう思うんだ。九割の真実と一割の虚実。巧妙な手口を使う犯罪者ほど嘘は会話全体の一割ほどしかないってな。トイフェルとか名乗ってるテロリストはまだ謎が多い。だが、かなり計画性のある犯行に思える。だからこそ大事になるのは真実と虚実を見抜く力だ。それを持つ物だけが真に凶悪な犯罪者を捕まえることができると先生は思ってる』


 大岩先生との別れ際に国立国会図書館に行かなかくても新聞なら電子版がネットで簡単に見れると教えてもらった。

 早速、家に帰ったら見よう。

 それからいろいろと情報交換をする為に大岩先生と連絡先を交換した。

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