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第2話 始動

『7月27日午前11時頃、愛知県で突如起きた()()()()()()。テロリストグループは自分たちの事をトイフェルと名乗っており、バイオテロに巻き込まれた市民はおよそ()()()()に命を落とすと予告しました。そして、最後に警察への挑発とも取れる一言がありました。その後テロリストからは特にメッセージは何もありません』


 テレビでは今日午前11時頃に愛知県二カ所で同時にバイオテロが発生したというニュースが流れている。

 その後、トイフェルと自称するテロリストグループ、トイフェルによる電波ジャックがあり、使用されたウイルスの効果の簡単な説明と警察への挑発が行われた。

 明の友達、相澤魁は母親への誕生日プレゼントを買いに名古屋に行っており、そこでバイオテロに巻き込まれた。

 魁を始めバイオテロに巻き込まれた人たちはその後、救急隊員によって救出され、病院に搬送された。

 使用されたのが未知のウイルスなのもあり、感染した人たちに何もできないのが現状。

 明はというとずっと家にいたので無事ではあった。

 しかし、ただ一人の友達がテロに巻き込まれたと聞いて何をどうしたらいいのかわからない。

 それ加えて先ほどの魁が搬送された病院での出来事も関係している。



 明は名古屋駅と中部国際空港の二カ所で同時にバイオテロが発生したと偶然ネットニュースで見た。ただ物騒だなとか巻き込まれなくて良かったと思っただけだった。

 その後はいつも通り、家で推理小説を呼んでいたら魁の母親を含めたママ友のお茶会に参加している明の母親から電話があった。

 内容は『魁が名古屋駅でのバイオテロに巻き込まれた』で、すぐには母親の言っている事が理解できなかった。

 明の頭は真っ白になり、すぐには母親の言葉を受け入れられなかった。

 それでもよくよく思い出してみれば、今日は魁が母親への誕生日プレゼントを買いに名古屋に行くとメッセージで話していた日。

 急ぎ着替えて、電話で教えてもらった魁が搬送された病院に向かう。

 お願いだから何かの冗談だって言ってくれ、そう言わんばかりの表情だ。





 病院は既にたくさんの人で溢れかえっている。

 明は幸いにも先に病院に到着していた母親とすぐに合流できて、魁の容態について聞くことができた。

 その時に語られたのは『未知のウイルスが使われていて今すぐにはどうしようもできず、面会謝絶。いつ目を覚ますかもわからなくて、もしかしたらこのまま…』何て話も。

 明はあまりにも衝撃が大きすぎて、呆然と立ち尽くした。

 しばらくして落ち着きを少しだけ取り戻し、人気の無い場所に移動した。



「ここなら誰もいない。もし魁がこのまま目を覚まさなかったら僕はどうなるのかな」


 明は魁がいたから高校生活が楽しいと思えた。

 魁がいなくなったら、そう考えると涙は止まらなかった。

 少しして涙が止まった時、誰かがここにやって来た。


「え?何で地味男がここにいるの?」


「錦木さん?僕は魁が心配で。錦木さんこそ何でここに?」


「私も魁がバイオテロに巻き込まれたって聞いて心配になったから。あんたもなのね」


 この時、超気まづい雰囲気が辺り一帯を包んだ。

 明は母親や魁、担任の大岩先生以外の人と二人きりで話すことない。

 今、ここにいるのは明を毛嫌いしている錦木瑠菜。

 一方的に八つ当たりされる。

 今までの経験から明はこの後の展開をそう予想した。

 まともな会話など成立するわけがない。

 今までもそうだった。

 瑠菜の顔色を窺い、明は気付いてしまった。

 瑠菜が今なお泣いている事に。

 他人に自分の弱い所を晒す様な事絶対にしてこなかったプライドの高い瑠菜が最も嫌っている明の横で泣いていた。

 明はどうしていいかわからず、かなり長い時間沈黙が続いていたが、意外にも瑠菜から話しかけた。


「ねえ、一個聞いてもいい?」


「えっと、何でしょうか?」


「何であんた魁と仲が良いの?あんまし共通点とかないでしょ?」


 何で魁と仲が良いのか。

 そんな事考えたことなかった。

 気付いたらよく一緒にいたって感じだった。


「よくわからないかな。元々、僕は一人ぼっちで友達なんて呼べる人は誰もいなかった。中学二年の時に初めて魁とクラスが一緒になったけど、僕は相変わらず一人ぼっちだった。そんな僕に話しかけてきたのが魁だった。その後はなんか成り行きかな」


「ふーん、そっか。魁はさ、あんたのことを一番の友達だって私に言ったのよ。それに私さ、魁に友達に嫌な思いをさせる人の事は好きになれないって言われて三日前に振られた。最初は何でかわかんなかった。魁の言いたい事が何なのか。でも、今はわかる気がするの」


 明は今、瑠菜の口から衝撃的な事を聞いてしまった。

 魁が明を一番の友達だって言ってたこと。

 それに魁が瑠菜を振ったこと。

 魁の一番の友達かどうかはわからないけど、魁が瑠菜の事を好きだって事をよく知っていた。

 だからこそ魁から振ったというのは信じられなかった。


「私はさ、魁とちゃんと仲直りしたい。だから何が何でも魁を助けたい。でもさ、私一人じゃ何もできない。魁を助ける事なんて無理。だからさあんたの力を貸して、お願い天道」


 この時、瑠菜は明と話しながら再び涙を流した。

 明が知っている瑠菜は人前では絶対に弱音を吐いたりしない。

 今、目の前にいる人は明の知っている錦木瑠菜とは少し、いやかなり違った。


「えっ、いや、でも…」


「魁があんたは勉強や運動こそ並だけど、いざという時に誰よりも他人思いで頼りになるって言ってた。あの時の私は魁にそこまで言ってもらえるあんたに嫉妬してた。自分勝手の我が儘だって事も理解してる。私一人じゃ何もできない!どうしても魁を助けたい。お願い、あんたの力を貸して!」


「…僕たちみたいな高校生に一体何ができるって言うの!」


 明は八つ当たり気味に瑠菜に強く言ってしまった。


「…何もしないで後悔したくない」


 その言葉を聞いた瞬間、明の中で決心がついた。

 何ができるかわからないけど、瑠菜に協力するとうい決心が。


「何の力にもなれないと思うよ。それでもいいなら僕も協力するよ」


「ありがとう。天道」


 この時、明は初めて瑠菜の笑顔を見たかもしれない。




 病院での一幕があって今に至る。

 今、できることをするって考えても何をすればいいのかわからないでいた。

 瑠菜とは午後3時に再び会う約束がある。

 そこで今後の作戦会議をする。

 明はそれまでに今日起きた事を振り返りと情報収集する。


 バイオテロが起きたのは午前11時頃、場所は名古屋駅と中部国際空港の二カ所ほぼ同時。

 その後、トイフェルと名乗るテロリストグループが電波ジャックを行い、メッセージが発信された。

 内容は至ってシンプルで今回のテロで使用したウイルスの効果のみ。

 特に自分たちの目的や何かしらの要求はしていない。

 そして実際に放送された内容はこうだ。


『私たちはトイフェル。今日、愛知県の名古屋駅と中部国際空港の二カ所でバイオテロを行った。テロリストグループと言えば、皆様おわかりだろうか。今回使用したウイルスは私たちが独自に開発したオリジナルでね、感染した者は早ければおよそ一週間で命を落とすだろう。

 警察諸君、いいか()()()()()()()()()()()だ。諸君の奮闘を期待するよ』


 今ネットでもネット民たちによっていろいろと議論されている。

 トイフェルの目的はああだ、こうだ。

 そんな感じで憶測の域を出ない議論が続いている。

 ネットでの情報収集は厳しそうかな。

 今、手元にある情報だけで手がかりになりそうな要素(もの)を考えるしかない

 明なりに気になる点はあるけど、もうそろそろ家を出ないと瑠菜との時間に間に合わないな。






 明は瑠菜の家の前まで来ていたが、どうしたらいいのかわからず戸惑ってるいる。

 何故か作戦会議は瑠菜の家で行われる事になっている。

 明にも理由はわからないけど、『いいから私の家に来る!』と瑠菜に無理矢理。

 家の場所は当然知らなかったので、連絡先を交換してメッセージで住所を送ってもらった。

 女子の家のインターホンを押す覚悟が決まらずにいたら家のドアが開いて瑠菜が出てきた。


「何だ、来てたならさっさとインターホン鳴らしなさいよ」


「ごめん」


 明は瑠菜に言われるままに家にお邪魔させてもらう。

 そこには瑠菜とは違うけど、どこか瑠菜に似た感じの女の子がいた。

 瑠菜とは違い、髪は金髪じゃなく黒髪、髪がちょっと瑠菜より短い。


「この子は妹の可憐(かれん)。可憐は私よりもしっかりしてるし、頭も良いから魁を助ける手伝いをしてもらうの」


「私は錦木可憐です。今まで姉がたくさん嫌な思いをさせてしまって、ごめんなさい。姉は根は優しくてあなたが魁さんと仲が良いので、ちょっと嫉妬していただけなんです。ちゃんと反省もしているので、姉を許してあげてもらえませんか?」


「最初は確かに少し嫌だったけど、今の僕は許すも何も全然気にしてないよ。魁もよく同じ事言って錦木さんの事をフォローしてきたけど、ほんとにそういうの今は全然気にしてないからそんなに気に病まないで」


 今まで確かにいろいろあったけど、今の明はほんとに気にしてない。

 こういう状況に陥って明は気づいた。

 魁と一緒に学校に行ったり、お昼ご飯を食べたりできただけで幸せだったと。

 今の明は魁を助けたい、ただそれだけしか考えておらず、瑠菜に対する嫌な気持ちなどは一切なかった。


「わかりました。でも、お姉ちゃんはちゃんと謝ってね」


「うん。・・・、今までひどい事ばっか言ってごめん」


 微妙に気まづい空気が流れた。

 この空気を変えたのは可憐だった。


「それじゃあ早速、作戦会議をしましょう。それと明さんとお呼びしてもよろしいですか?あと私の事は可憐と呼んでください」


 すごいコミュ力の塊!

 しかもいきなり名前呼び!


「うんいいよ。えっとじゃあ可憐ちゃんって呼ぶね」


「”ちゃん”もいらないのですが、まあ細かい事はいいです。早速お姉ちゃんのお部屋で作戦会議をしましょう!」


 え?瑠菜の部屋?客間とかでするんじゃないの?

 明はよくわからないまま二人の後をついていく。



 明は初めて女子の部屋に入った。

 かなり新鮮で、特にベットに沢山の可愛いぬいぐるみが置いてあったのが目に入る。

 あれだけぬいぐるみが置いてあると寝るスペースを確保できないというのは、言わないのが吉。

 明はそれを理解していたはずだった。


「じゃあ早速、天道あんた何かある?」


「いきなり!?えっと可愛いぬいぐるみが沢山置いてあるなと」


「!それはどうでもいいでしょ。私が聞きたいのはテロについて何かあるか!」


「ごめんなさい。えっと一応幾つか気になる点があるよ」


 この時、可憐が笑いを堪えるのを我慢しているように見えたのはきっと明の気のせいだろう。


 一回軽く咳払いをし、仕切り直してから二人に気になる点を説明する。


「一つだけ。何でウイルスの効果を言ったのか。これわざわざ未知のウイルスを開発したのにそのアドバンテージを捨ててる気がする」


「そうですよね。私も気になって考えていましたが、何でかはわかりませんでした」


「えっと、どういうこと?二人だけで納得してないでもっと詳しく説明して」


 可憐も明と同様の疑問を持っていたようだが、瑠菜は理解できなかったみたいだ。

 理解ができていない瑠菜の為と可憐と明が一から説明する。


「えっと、警察からしたら使われたウイルス自体が未知のもの。本来ならそれを調べたりするのに人員を割かないといけない訳。でも、トイフェルと名乗るテロリストはその効果を明かしたのは何でかな?」


「でもさ、その情報が合ってるかもわからないじゃん。時間制限があるんだぞ!って警察にプレッシャーを与えたいだけじゃないの?」


「さすがにそれはないと思うよ、お姉ちゃん。何の情報もない方がよっぽどプレッシャーになるよ。時間が経てば経つほどに」


 うーんと首を傾げる三人。

 考えても答えは出ないと判断した可憐はもう一つの気になっている点を共有する。


「それとは別に私は一週間という時間が気になるかな。絶妙というか中途半端な時間なので」


「中途半端?」


「お姉ちゃん、トイフェルは人がすぐに死ぬような致死性の高いウイルスではなく、早ければおよそ一週間で命を落とすっていう使い勝手があまりよくないウイルスをわざわざ開発して使ったのは何故かなってこと」


「あ、そっか。なるほどね」


 そう、テロと言われると多くの死傷者(犠牲者)が出るイメージあるが、今回のバイオテロでは一人の犠牲者も出ていない。

 強いて言うならウイルスに感染して意識不明の人がたくさんいるくらい。


「それってウイルスの効果で感染した人が命を落とすまでの時間でしょ。まあ早ければだけどさ、要は助ける為のタイムリミット。それの何が謎なのさ?」


「ウイルスに感染した人に残された時間は一週間というのはトイフェルが言っているだけで、実際は違うかもしれないって事だよね?可憐ちゃん」


「はい。もしかしたら一週間経っても死なないかもしれません。本当は一ヶ月で命を落とすかもしれません。でも1週間という時間が正しいか証明することはできません。ただトイフェルが”一週間”と言っただけです」


「うーん。何となくわかった気がする」


 トイフェルは早ければおよそ一週間で命を落とすと言ったが、可憐の言う通り、それを証明することはできない。

 もしかしたらタイムリミットはもっと早いかもしれない。

 タイムリミット・・・。


「もしかして()()()()()()()()()()()が関係してるんじゃ」


「!確かにそれはありえますね。トイフェルは必要以上にその言葉を強調しているようにも聞こえました。つまりはこの一週間で何かをしようとしている。それを警察に邪魔されないようにする為の陽動が今回のバイオテロ」


「私にもさ、わかったよ。トイフェルの目的は別にあって、今回のバイオテロは警察や世間の注目を集めるための陽動ってことでしょ。警察を挑発するようなことをしたのもその一環」


 あえてタイムリミットは一週間と言う。

 それにより、日に日に世間はこのバイオテロの行く末とトイフェルの動向に注目するだろう。

 そして、警察は嫌でもこのバイオテロ捜査に本腰を入れないといけない。


「この推測が正しいとするとかなり危険な賭けですよね。バイオテロの捜査の進展が想定よりも早く、自分たちの目的を果たす前に捕まる可能性も有る訳ですし」


 明たちのこの推測が正しい場合、可憐の言う通り、かなり危険な賭けをトイフェルは行っている。

 余程の自信があるのか、それとも捕まる事を恐れていないのか。


「考えすぎじゃないの、二人とも。だってこれあくまで推測ってだけで本当にこの推測が合ってるかわからないじゃんか」


「お姉ちゃんの言う通り、考えすぎかもしれませんね」


 瑠菜の言う通り、考えすぎなら問題は無いが…。

 もしこの推測が合っていて、あれだけのバイオテロを自分たちの目的の為の手段として利用するとなるとその目的は一体。

 何か恐ろしい事がこれから起こるような気が。





 明さんって思ってたより面白そうな人だな。

 それよりもお姉ちゃんが明さんにばっかに頼らず、私にも頼ってもらえるようにいろいろ情報収集とか頑張らないと!


 可憐は大のお姉ちゃん大好きっ子なので、明には負けてられないと人知れず気合いを入れたのだった。

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