第10話 告白
明は昨日、大岩先生が電話で話してくれた事に対する疑問が一晩経っても消えていなかった。
そこで今日は直接、この疑問をぶつけようと決めた。
大岩先生には既に連絡済みで直接会って話を聞いてもらえる事になっている。
その為に明は待ち合わせ場所である学校の図書館に向かっていた。
明が学校の図書館に着いた時には既に大岩先生もいた。
明はそれを見ると大岩先生の対面に座り、一息つく。
「天道、今日はどうした?また何か昨日みたいに気になる事でもあるのか?それなら昨日同様に電話でもいいだろ」
「大岩先生と直接会って話を聞きたいと思って」
「何が聞きたい?」
「何で先生は昨日、僕たちが聞きたいと思っていた内容がわかったんですか?」
明の疑問は尤もだった。
何も話していないのに大岩先生は明たちが聞きたいと思っていた内容をピンポイントで当ててみせた。
普通の人なら疑問に思うだろう。
「以前、図書館で会った時に13年前の無差別連続殺人事件について少し教えたろ。おまえたちなら何れ聞いてくるだろうと思ってただけだよ」
「じゃあ、何で最初から教えてくれなかったんですか?それに何で大岩先生は自殺した生徒の事にそんなに詳しいんですか?」
「俺は当時、その生徒が通っていた学校に勤めていた。その生徒がいじめにあっていた何て俺は本当に知らなかった。知ったのは自殺したという話を聞いた後だった」
「じゃあ先生が言っていた噂って…」
「全て事実だ」
明は大岩先生の話を聞いて完全に言葉を失っていた。
教師の間で流れているただの噂話を教師である大岩先生が偶然知っただけ。
実際は違った。
噂が本当にあったかどうかはわからないが、大岩先生は自分の体験談を噂と称して明に伝えていた。
「でも、どうして…」
明が自分の思いを口にする前に大岩先生は語り出した。
「俺の妻と娘は13年前に殺された。直接、二人を殺したのは逮捕され、留置所で服毒自殺した男だが、裏で糸を引いていた人物がいる。天道、それがおまえの父親だ。名は万丈、天道万丈だ」
「僕の父親…」
清水は日下部を死を悼む間もなく、行動に移していた。
万丈とは何者なのか。
日下部は一体何を知ったのか。
それら全ての情報はトイフェルリーダー、ヌンが知っている筈。
今、清水は葵から聞き出したトイフェルのアジトに向かっている。
そこで全ての決着をつける為だ。
「ようこそ、清水律刑事。今日辺りにでもここに来ると思っていたよ」
「おまえがトイフェルのリーダーか?」
「そうだね。私がコードネーム、ヌンだよ」
トイフェルのリーダー、ヌンは清水のイメージしていた人物とはかけ離れていた。
屈強な男性を清水はイメージしていたが、実際には華奢な女性。
しかし、その目には生気が宿っていない様に感じられ、どこか不気味な印象が残る。
「ここに一人で来たのは何故かな?テロの主犯である私を逮捕するならもう少し頭数を揃えてくるべきではないかな?」
「捕まえる前に聞きたい事がある。万丈ってのは何処のどいつだ?」
ドスの効いた声でヌンを睨みつけながら清水は質問する。
それをヌンはどこか涼し気な感じでのらりくらりとかわしている。
「なるほど。万丈の名はドライ、いや葵日向から聞いたか。しかし、万丈の事なら私よりも詳しい人物が警察にはいるじゃないか。本田道信という男が」
「本田さんが万丈って男を知っているだと!?どういう事だ?」
「?まさか何も知らないのか?万丈は本田道信の同期で12年前に交通事故で亡くなったとされている警察官だよ」
「本田さんの同期で警察官!?そんな馬鹿な話あるか!万丈なんて名前の警察官なんて聞いた事ないぞ」
「そこら辺は本田道信が詳しく知っている。直接聞けばいいだろう?」
「…本田さんは二日前の晩に自殺した」
本田の自殺はヌンを驚かせるには充分過ぎる情報だった。
その話を聞き、ヌンは己のデリカシーの無さに気づく。
「それは失礼した」
「悪いと思ってるなら万丈という男について知ってる事全部教えろ!既に死んでる云々の話もだ」
「いいだろう。天道万丈について私が知っている情報は全て教えよう。それをどうするかは清水律刑事、あなた次第だ」
それからヌンは天道万丈という男について語り出した。
万丈の表向きの顔は優秀な警察官だったが、裏では犯罪を斡旋し、犯罪のシナリオを描く犯罪クリエイターとして活動していた。
万丈が警察官として解決した難解事件のほとんどは万丈自身がクリエイトした事件。
13年前に起きた無差別連続殺人事件もその一つ。
実際の殺しは逮捕され、留置所で服毒自殺をした男が行っている。
それを裏から手ぐすね引いていたのが、万丈。
その為、事件についての情報で不明のままになっているのもある。
例えば、この連続殺人事件は被害者ではなく、被害者遺族に共通点があったなど。
そして万丈は12年前に交通事故で亡くなったとされているが、実際はまだ生きている可能性が極めて高い。
日下部刑事が殺されたのはその証拠とも言える。
万丈の行いは全て己の歪んだ正義感からくるもの。
「そうか。その話を聞いてもわからねえな。おまえたちの目的は一体何なんだ?」
「万丈の歪んだ正義を否定し、それに抗い立ち向かっていく者を探し、全てを託すことだ」
「そんなことの為にこんな馬鹿げたことしたのかよ。俺は俺の正義を貫く。そんでおまえを今、ここで逮捕する」
その後、ヌンの証言から名古屋駅と中部国際空港の2カ所で使用されたウイルスに毒性は無く、感染から遅くても1週間もすれば自然と目を覚ます事が発覚した。
名古屋駅でテロに巻き込まれた相澤魁は自身の母親の誕生日の前日に目を覚ました。
そうして一時、世間を騒がしたテロ騒動は幕を閉じた。




