第1話 序章
投稿頻度としては1週間に1本のペースになると思います。
投稿は18時にしようと思います。
今日だけ特別に18時、19時、20時に合計3話投稿します。
「遂に例の物は完成したんだな、ドライ」
「はい」
「そうか、よくやった。ツヴァイ、アインスおまえたちの方はどうだ?」
「私の方はとっくの昔に準備できてますよ」
「こちらも滞りなく準備は完了している。だが、ヌンは本当にこれでいいのか?」
「ああ、私は問題ない。一切躊躇するなよ。いいか計画の決行は7月27日土曜日、タイムリミットは一週間だ」
今まで誰にも気づかれないように水面下で活動していた組織、トイフェルが人知れず動き出そうとしていた。
「明、まだかな?もう行かないと遅刻するぞ」
真夏の熱い太陽の光が差し込む中、半袖の学生服を身に纏い、誰かを待っているのは男子高生がいる。
相澤魁、高校二年生だ。
今、一緒に学校に行く約束をしている友達である天道明を待ち合わせ場所で待っているところだ。
先ほど明から『10分くらい遅れるから先に行ってて』とメッセージがきたが、魁も『そのくらい遅れるから一緒に行こ』とメッセージを送り返した。
「魁、遅くなってごめん」
「俺もちょうど今来たところだから気にすんな」
「いや、それ絶対嘘でしょ。魁が待ち合わせ時間に遅れた事なんてないし」
明は魁がフォローするつもりでついた嘘をあっさり見抜いて、且つ待ち合わせ時間に10分ほど遅れてきた。
魁は明を一番の親友と思っているけど、魁以外の人はあまり明を好意的に思っていない。
その証拠にほとんどの人が明を地味男と呼んでいる。
勉強に運動、他にも何やっても平凡で地味なのとまあ他にもいろいろあって魁と担任の先生、母親以外のみんなからそう呼ばれている。
「明が時間に遅れるなんて珍しいな。何かあった?」
「えっと、昨日新しく買った推理小説が面白くて、それを全部読み終える頃には朝になってて・・・」
「ぷッ、マジかよww」
「ちょっと、そんなに笑わなくたっていいでしょ」
「悪い。明が推理小説好きなのは知ってるけど、流石に限度があるだろ」
「そんなに笑うことかな?まぁいいけど。それより早く学校行かないと、遅刻するよ」
「よし、ギリセーフ!」
「何で先に行ってて連絡したのに僕を待ってたのさ?危うく魁まで遅刻するとこだったんだよ」
「さっきも言っただろ。俺も待ち合わせ場所に着いたのは明が来る直前だったんだよ」
魁は兎に角お人好しだ。
それでいてイケメンで勉強もできて、運動もできる。
欠点を上げる事の方が難しいレベルで、何でもできて、何でも持っている。
地味で何の取り柄もない明とも仲良くしてくれる。
明は魁がいなかったらずっと一人ぼっちの高校生活を送ることになってただろう。
明にとって魁はただ一人の友達。
「みんな、おはよう!」
「あ、魁おはよう。てかやっと来た!全然来ないから休みかと思ったじゃんか」
「悪い悪い。昨日夜遅くまでゲームしてたらちょっと寝坊しちゃってさ」
「ふーん。あの魁が夜遅くまでゲームねえ。ん?てか、何でまた地味男と一緒なのさ?」
「そりゃあ一緒に登校する約束してたから」
魁は教室に着くと魁はみんなに向かって挨拶をした。
これはいつもの事だ。
魁はクラスのみんな、男子も女子も関係なく仲が良い。
それ故にいつもクラスの中心にいる。
明が地味男と呼ばれ、侮蔑されている理由の一つは魁と特に仲がいいからだ。
そして今、明の事を地味男と呼んだのは魁の彼女、錦木瑠菜。
金髪ロングの典型的なギャル。
明以外の人には兎に角優しい。
優しくて見た目も可愛くてスタイルも良いので、明以外の男子に超が付くほどモテている。
魁と付き合った事で、瑠菜を狙っていた人はみんな血の涙を流してあきらめていたほどだ。
付き合ったのが魁じゃなかったら壮絶なバトルが起きた事だろう。
それとは別に瑠菜は何かある度にストレス発散がてら明にちょっかいをかけている。
魁は明と二人でいる時に「瑠菜は本当は根は優しい人だから」とか「ちょっと嫉妬してるだけだから」とよくフォローしている。
実際、明も根は優しい人だと思っている。
明自身に対する当たりが極端に強すぎるだけ。
何となく理由はわかっていて、どうしようもない事だと理解している。
それもあり毎回やられたい放題だ。
「私が何回誘っても一緒に登校してくれないのに、何で地味男ばっかいいの!!」
「俺が誰と一緒に登校しようと俺の自由だろ」
「むー」
魁は経験で理解した。これは面倒なやつだと。
瑠菜は兎に角、嫉妬深い性格をしている。
魁が他の女の子と仲良くしているのが許せないくらいに。
それをよく知っているので、瑠菜以外の女子とは自分から少し距離を置いているが、女子から近づいて来る。
その度に瑠菜が嫉妬に狂うので魁はどれだけ面倒かをよく知っていた。
この時の魁は時間を忘れてどうしたらいいかだけを考えた。
「オッホン!いやあ、仲がいいのは大変素晴らしい。時間を気にして行動できればもっと素晴らしいのだが」
「「「あっ!」」」
時計を見たらホームルームの時間だった。
その後は担任である大岩先生の無言の圧によって三人はすぐに自分の席に着いた。
「今日で一学期は終了する。この後、遅れずに体育館に来るように。まあ大丈夫だと思いたいが、一応夏休みの注意事項を全体に向かって説明する」
明たちは明日から8月31日まで夏休み。
その為、これから長ーい注意事項を聞かないといけない。
大丈夫だと思うならこれなくしてほしいというのが生徒全員の本音だ。
なくしてほしいと思うと同時にそれが不可能だとも理解している。
何せこの高校の理事長は兎に角頭が固く、頑固である事で有名。
生徒の父母ほぼ全員からの要望を却下しているくらいだ。
先生たちからはせめて話し合いの場だけでもという折衷案が出た事も多数あるが、一度も首を縦に振る事は無かった。
長ーい注意事項も聞き終えてようやく学校が終わった。
この説明の為だけに学校に来させるのはマジでやめて欲しいというのは生徒全員の本音。
まあこの後は楽しい楽しい夏休みが待っている訳なので、終わってみればどうでもいいと考える生徒が大半を占める。
「魁、一緒に帰ろ?」
「悪い瑠菜。俺、明と一緒に帰るって約束してるんだ」
「また地味男・・・」
「魁、僕の事は気にしないで錦木さんと一緒に帰りなよ。僕、一人で行きたい場所があるからさ。じゃあまたね」
「明」
「えっ、マジ!じゃあさ魁、地味男は一人でどこか行きたいとこあるみたいだし、私と帰ろ?」
「そうだな」
咄嗟に魁に嘘ついて一人で行きたい場所があるとか言ったけど、ほんとはそんな場所ない。
家に帰った明は一人である考え事をしていた。何で魁は仲良くしてくれるんだろと。
何でかと考えても答えを出す事ができなかった。
気を紛らわす為に、昨日買った推理小説をもう一回読む事にした。
「瑠菜、何で明の事を地味男って呼ぶんだ?」
「何でって地味な男だから。魁以外みんな地味男って呼んでるじゃん。それにあいつだけ先生に贔屓されてるからムカつく。みんなそう言ってるよ。魁は何であんな奴と仲良くするのさ?」
「あんな奴か、明が贔屓されてると思うのって四者面談の事か?」
「そう!うちの学校変わってるから三者面談じゃなくて四者面談じゃん。だから両親ともにこの為に仕事休むとかしなきゃといけない訳でしょ。みんな一番遅い時間の17時からを希望してるし、希望が多くて時間が被った場合はランダム。なのに地味男だけ最初からラストで時間が確定してるのはどう考えても贔屓でしょ!」
「やっぱりそこか」
明の事情を知らないから贔屓なんて言うんだろう。
『でも勝手に話していいのか、明の事情を』と魁は悩んでいた。
勝手に話すのはよくないと思いつつ、それでも魁は明の事を誤解されたまま悪く言われるのは嫌だなので、瑠菜に明の事情を話す事にした。
そして明には後でしっかり謝っておこうと心に固く誓い。
「明は小さい頃に父親を交通事故で亡くしてるんだ。祖父母はそれよりも前に病気で亡くなってる。だから母親が女手一つでずっと明を育ててるんだ。明の時間が最後で固定されているのは大岩先生からのせめてもの配慮だよ。四者面談なのに父親がいない。それを見た他の人たちがどう思うかくらいわかるだろ?ラストの時間なら確実に前の人が帰ったタイミングで来れば、その問題も起きないしな。それなら四者面談じゃなくて三者面談に変えればいいって思うだろうけど、頭の固い理事長様が許可してくれなくて、今の形に収まってる」
「そんなの私知らないし…」
四者面談なのに父親がいないのを見たら普通の人は仕事で来てないと思うだろう。
でも、実際には父親がそもそも既に亡くなっていていない。
それに対する大岩先生の配慮がこれだ。
実を言うとこれは大岩先生が個人的に明と明の母親に提案した事だ。
大岩先生の配慮はそれだけじゃなく、放課後に明の好きな推理小説の話をして明の孤独を少しでも紛らわす等もあった。
だから明の事を贔屓していると言えば、しているだろうな。
でも、これは大岩先生が明と明の母親を守る為にしている事だった。
魁の話を聞いた瑠菜はどうしていいのかわからない様子だった。
でもこの瑠菜の返答と態度を見て魁はついに決心がついた。
「知らなかったら何言っても許されるのか?」
「それはダメだけどさ・・・」
「瑠菜、俺たち別れよう」
今まで魁はずっと悩んでいた。
明の事を悪く言う瑠菜とこのままの関係を続けるべきかどうか。
「えっ、ちょ、ちょっと待ってよ!何で地味男の話からそうなるのよ?」
「俺が初めて瑠菜に会った時は誰にでも分け隔てなく優しく接していた。俺はあの頃の優しかった瑠菜が好きだった。でも今は違う。明の事を地味男って呼ばないでほしいって何回言っても変えてくれなかった。そんな風に呼ばれて嬉しい人はいないと思う。少なくとも明は嫌がっていた。瑠菜は明が嫌がっていると理解していたのに変えなかった。友達に嫌な思いさせる人の事は好きになれない」
魁は今までずっと言わずに我慢していた自分の気持ちを瑠菜に伝えた。
瑠菜が初めて会った頃の様に明にも優しく接する日がくると信じて、明の悪口を聞いても聞き流して辛抱強く我慢して待っていたのだ。
一年近く待ち続けた。
それでも何も変わらなかった。
その答えが”別れる”だった。
「じゃあ、俺の家こっちだから」
瑠菜は何も言えずに魁がどんどん離れていくのを見ている事しかできなかった。
何でだろうか。
明は好きな推理小説を読んでるけど、全然楽しくなかった。
しょうがなしに気分転換がてらスマホでSNSでも見ようとスマホを手にした瞬間、魁からメッセージが届いた。
内容はついカッとなって瑠菜に明の事情を勝手に話したことに対する謝罪だった。
いつも冷静な魁がカッとなるなんて事あるんだ。
魁からのメッセージを見た明の正直な思いだった。
魁には『気にしなくていいよ。僕の為に怒ってくれてありがとう』と明はメッセージを送った。
その後魁から自分の知らないところで勝手にいろいろと情報が漏れてるんだからもう少し怒れよなとか少しだけど一悶着あったけど、すぐに落ち着いた。
落ち着いたら今度は魁の母親の誕生日プレゼントの話になった。
魁の母親の誕生日は確か8月3日だったかな。
去年はアルバイトをしてなかった事もあって、お金がなく何も贈れなかった。
それもあって今年は去年の分もってずっと意気込んでいた。
今、ちょうどプレゼントを何にしようか決めあぐねているらしい。
実を言うと魁のセンスって壊滅的だ。
魁の唯一の欠点と言っても過言ではない。
明は魁のセンスが壊滅的と知っている数少ない人物だった。
明は消え物とか母親の好きな物とかを魁に提案した。
そしたら何かいいプレゼントが浮かんだのか魁から明に『ありがとう』とメッセージが返ってきた。
そして魁はプレゼントを誕生日の一週間前の7月27日土曜日、つまり三日後に名古屋に買いに行く事にした。
瑠菜は魁と別れてそのまま家に帰った。
先に妹の可憐が帰ってて、姉である瑠菜の様子がおかしいと感じた可憐が何かあったのか聞いてきた。
「私、魁に嫌われたかも・・・」
「何か魁さんとあったの?お姉ちゃん、魁さんに嫌われたかもって」
「魁に振られた」
「えっ!?あんなにいい感じだったのに!何で?」
そこから瑠菜は可憐に何があったのかありのままを伝えた。
魁の友達にしていた事とか。
「うわぁ、それはお姉ちゃんが100悪いよ」
瑠菜の話を聞いた可憐はこの時ばかりはドン引きしていた。
可憐が瑠菜の発言にこれ程までにドン引きするのは初めてだった。
瑠菜はどうしたらいいのか徐々にわからなくなっていた。
「うぅっ、どうしたらいいかな?」
「まずは魁さんのお友達さんに今までの事ちゃんと謝らないと!それから魁さんにも謝る!この順番大事だよ、お姉ちゃん」
「うん。そうする」
この姉妹、姉と妹の関係が普通とは逆なのだ。
姉より妹の方がしっかりしている。
姉の手綱を握り暴走を止めるのはいつも妹の可憐の役目だった。
今回の件は可憐の見ていない所での問題、こればかりは可憐にもどうしようもできなかった。
今日、魁は母親の誕生日プレゼントを名古屋に買いに行く。
何を買うかは既に決めており、
少し前に魁と母親の二人で名古屋に遊びに行った時に偶然入った衣料品店で見つけた秋物の服を買う予定だ。
その時、魁の母親はその服を凄く気に入り試着もしたが、値段を見て悩みに悩んだ末に購入を断念した。
魁の家は特別お金に余裕がある訳ではなく、両親はともに倹約家だ。
出せない金額ではないが、自分一人の贅沢の為に出すのをためらった結果、その時は購入しなかった。
魁はかなり残念そうにしていた母親の顔を見ていたので、まだ店にあるかわからないけど、あると信じて買いに行く事にした。
え?なかった場合?それはその時考える!
店に着いて魁は目当ての商品を探した。
思ってたより簡単に見つかり、サイズや色など念入りに確認して問題なかったので、すぐにレジで購入した。
ラッピングはレジで丁寧にやってもらえた。
その後は名古屋駅に戻って電車で家に帰るだけ。
母親がママ友とのお茶会から帰ってくる前に。
ちなみに父親はこの事知っている。
今日、魁が出かける前に速攻でバレたから。
名古屋駅に戻ってきたら何か様子が変だった。
何かトラブルがあったようだったが、どこで何があったかはわからなかった。
魁は特に気になりつつもJRの改札口を通った瞬間、トラブルが発生した。
すぐ横にいた男性が倒れたのだ。
魁はすぐに駆け寄り、応急処置をしようと試みた。
「大丈夫ですか?俺の声聞こえますか?」
魁はすぐに倒れた男性に大声で呼びかけたけど、何も反応がなかった。
倒れた男性の意識がない。
どうしたらいいのかわからず、周りの人たちに協力を求めようとしたら、他の人たちも立て続けに倒れていった。
何が起きているのか一度立ち上がり、周りを見て状況を確認しようとしたその瞬間、急に意識が薄れて全身力が入らなくなった。
その後の事は何も覚えていない。