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【ドアンナ】「マーガレット!」


 ドアンナは、彼女の名を叫んだ。ドアンナは、彼女に駆け寄り、体に触った。しかし、彼女の体はすでに冷たかった。彼女から流れ出たおびただしい血によって、ベッドのシーツは真っ赤に濡れていた。

 ドアンナは、濡れた感触を感じて、マーガレットから手を離した。ドアンナの白い指は、彼女の血で赤く滲んでいた。

 ドアンナは、何も考えることができず、ただその場に立ち尽くした。

 声を聞いて、レイセンが急いで蔦を上ってきた。部屋に飛びこんだレイセンは、マーガレットの姿を見て、思わず息を呑み、立ち尽くした。

 やがて、皆が部屋に上がり、同じようにマーガレットを見た。彼女たちは、マーガレットの眠るベッドを囲み、何も言えず立ち尽くした。


【アンナ】「どうして……一体なにが……」


 アンナが震える声で言った。

 そのとき、廊下で、床がきしむ物音がした。


【レイセン】「誰?」


 レイセンは声をあげた。しかし返事はなかった。

 レイセンは、壁に掛けられたマーガレットの剣を手に取ると、すぐに廊下に飛び出した。


【レイセン】「誰だ!」


 レイセンは強い調子で叫んだ。しかし、その声に答えるものはなかった。彼女は廊下の前後を振り返り、睨みつけたが、そこには、人の気配はなかった。

 彼女がため息をつき、部屋に戻ろうとしたその時、目の端に、何かを捉えた。彼女は振り向いた。


 目の前の空間が、光学的な屈折現象を起こしたように、ぐにゃりと曲がった。

 彼女が叫ぶより早く、空間の裂け目から手が飛び出した。それはレイセンの顔を覆い、その口を塞いだ


「しーーーーっ」


何もない空間から、息の擦過音が聞こえた。それ続いて、聞き覚えのある声が、レイセンに話しかけた。



【女の声】「レイセン、静かにして。わたしよ」


 空に浮かぶ右手が空間を払うと、そこに見慣れた顔が現れた


【レイセン】「リアーナ!」




マーガレット

マーガレット何があったの?


先生、どうしたの


聞いて頂戴

奴らは王女を殺しに来たのよ


え…?


聞いて頂戴

今から


城に急いで帰る

・・・・


まあ辛気臭い話はやめにしようよ



青春してたな

見てんじゃねえよ


寮に帰ると、なかまがころされている




 アイル達は、馬に乗り街道を駆けた。

 朝方の街道はまだ人通りが少なかったが、アイルたちは、すれ違ったすべての人達に声をかけた。

 

「敵襲だ!スホルトに悪魔が出たぞ!」

 

 アイルたちは、人と会う度に、三人一斉に大声で叫んだ。

 それを聞いたあるものは驚き、一体なんだと目を見開いた。そして、迷った挙げ句進路を変えた。あるものはアイルたちに怪訝な顔を向け、それを無視した。

 こうして幾人もの旅人とすれ違いながら、アイルたちはローゼンハイムに向かった。


 やがてアイルたちの行く先に、ローゼンハイムの城壁が見えてきた。

 ロードランの首都ローゼンハイムは、大河ラインベルクが形作る広大な三角州の上に建てられた巨大都市だった。

 都市には3つの城壁があった。1つ目はいまアイル達が通過している、三角州全体を囲む城壁だ。これは大外壁と呼ばれていた。

 二つ目は、王城が建っている中州を囲む外城壁だ。この中州本島のことを古ローゼンハイムと呼んだ。

 三つ目は、王が住む王城を守る内城壁だ。

 ローゼンハイムの内部には、ラインベルクから枝分かれした幾百もの川が流れ、複雑な水路を形成していた。したがって外部からその外城に至るには、いくつとも知れない小川を渡る必要があった。

 彼らは馬を駆けた。そしていくつもの橋を渡り、ようやく城の外壁にたどり着いた。

 

 外城門の前には、人々が普段よりも長い待機列を作っていた。

 

【ヤゴー】「ちっ。さすがに昨日の今日だから検問が強化されてやがるな」


 ヤゴーが言った。彼が言及したのは、もちろん王女の戴冠式のことだ。アイルたちは脇にそれ、列の脇に割り込み、進みながら叫んだ。

  

【ヤゴー】「敵襲だ!敵襲だ!スホルトに悪魔が現れたんだ!ここを通してくれ!」


 列に並ぶ人々は、みな一体なんのことだ振り返り、道を開けた。アイルたちが外城門の手前まで行くと、若い衛兵がその進路を遮った。


【若い衛兵】「止まれ!止まれ!」


彼はそう言い、両手を広げ馬の前に立った。


【ゲイル】「聞いたろ!急いでるんだ!ここを通してくれ!」

【若い衛兵】「駄目だ!並び直せ!」


 こうしてゲイルと衛兵が大声で押し問答していると、騒ぎを聞きつけた中年の兵士が前に進み出た。彼はゲイルを見て話しかけた。


【中年の兵】「お前、ゲイルじゃないか?久しぶりだな」

【ゲイル】「ああ」

【中年の兵】「もう三年ぶりじゃないか。なんで会いに来ない?」

【ゲイル】「悪いが急いでるんだ。俺たちを通してくれないか」


 ゲイルは、中年の兵士に向かって事情を話した。中年の兵士は、隣に立つ若い衛兵と視線を交わした後、アイルたちに向き直った。


【中年の兵】「今の話は、本当か?」

【ヤゴー】「あったりめえよ!おふくろに誓ってもいいぜ!」

【若い衛兵】「ならば、それが真実だという証拠を出せ!」

【アイル】「ここに、兵士から授かった認識票があります」

 

 若い衛兵がそう言うと、アイルは懐から認識票を取り出した。朝日を浴びて銀色に光るその認識票の表面には、血に洗われて赤黒いかさぶたがこびりついていた。

 中年の兵は、認識票を手に取ると、それを検分し、言った。


【中年の兵】「わかった。ここを通っていい!」

【ゲイル】「すまんな」


 ゲイルは言った。そして馬を走らせ、城門を通過した。

 アイルたちの背後で、中年の兵が、他の衛兵を集めて叫んでいた。

 

【中年の兵】「今すぐスホルトに馬を出すぞ!はやく準備しろ!」


 アイルたちは、城門を後にし、内城へ駆けた。


 ーーーーー

 

 アイルたちは、街の大通りを駆けた。ヤゴーは馬を走らせながら、大声で叫んだ。


【ヤゴー】「スホルトに敵襲だ!道を開けてくれ!スホルトに敵襲だ!」


 町の人々は、呆然として、なんのことだとみなアイルたちを見上げた。彼らはおずおずと道を開けた。

 昨日、街は祭りだった。屋台の食べ残しや紙吹雪やらがそこら中に散乱していた。普段はまっさきに逮捕される酔っぱらい達も、今日は道端に堂々と寝転んでいた。家と家の間に吊るされた紐から、いくつもの灯籠が吊るされていた。灯籠の中の蝋燭は、朝になったいまも灯りをともしていた。アイルたちは、こうした街の喧騒の跡を駆け抜けた。


 そうして彼らは、街を一気に突っ切り、小高い丘の上に造られた内城の前までやって来た。

 アイルたちは、馬を降り、門兵に向かって叫んだ。


【ゲイル】「俺達はスホルトから来た!お前たちの兵から王への言伝を預かっている!中に入れてくれ!」


 門兵は首を振った。そして門の前に槍を交差させここは通せないと意思表示した。ゲイルは、なおも大声で叫んだ。

 ゲイルの大声を聞きつけて、門の上の胸壁にたくさんの兵士が集まってきた。そのうちの一人が、胸壁の上から言った。

 

【兵士】 「王への言伝とは何だ!その内容を述べてみよ!」

【ゲイル】「駄目だ!俺達は王にのみ直接伝えるように言付かっている!」

【兵士】「ならばここは通さん!貴様らは信用できん!」


 アイルは、壁下に一歩進み出て、言った。

 

【アイル】「我々は符牒を預かっています!『その王命は銀である』と!」


 壁上の兵士たちが、それを聞きざわめいた。

 

【兵士】 「いま一度述べよ!」

【アイル】「その王命は、銀である!」


 そのうちのひとりの兵士が、ゲイルを指さしていった。


【兵士】「隊長!自分はあの細い方の男を知っています。ゲイルという男で、10年ほど前にこの城で徴募兵として勤めていました」

【兵隊長】「……ああ!確かに私も見覚えがある!……よし、そのものたちを通せ!俺もすぐ下に降りる!」


 隊長と呼ばれた男がそう叫ぶと、衛兵は門を開いた。アイルたちは門をくぐり、中に進み出た。一階に降りた兵士たちが、アイルたちの前に進み出た。

 

【兵士】「よう、俺はケインだ。覚えているか?」

【ゲイル】「ああ、覚えてるよ」

【兵隊長】「久しぶりだな、ゲイル」隊長と呼ばれた、口ひげをたくわえた年かさの兵士がゲイルに声をかけた。

【ゲイル】「ジークラット隊長、お久しぶりです」

【ジークラット】「ロアンのところまで案内してやる。ついてこい」


 隊長はそう言い、アイル達を先導した。

 ロアンとは、王の名だ。さすがのアイルも、王の名ぐらいは知っていた。この男は、王を呼び捨てにするほどの仲なのだろうか。

 彼らは城に入り、薄暗く湿った螺旋階段を上がった。ジークラットの鉄の具足が石畳の階段をたたく音が、かつんかつんと響き渡った。彼らは廊下を進み、扉の前に連れてこられた。扉は分厚い樫でできており、茶色い膠が塗られあでやかな光沢を放っていた。

 扉の前に立つ衛兵は、隊長と目線を交わすと、扉を開いた。隊長はアイルたちを待たせて先に部屋に入り、一分ほどしてから部屋から出てきた。そして、アイルたちを部屋に招き入れた。

 アイルたちは、衛兵に武器を渡し、部屋に入った。


 扉をくぐると、部屋の中の視線が一斉にアイル達に向けられた。

 応接間は広く、豪華な調度品で飾られていた。高い天井には鮮やかなテンペラ画が描かれていた。東方から取り寄せられたものであろう白磁の壺が部屋の壁際にいくつも立ち並び、その壺の下には東夷の女が編んだものであろう豪奢な分厚い赤い絨毯が敷き詰められていた。部屋の中央には大きな椅子があり、その上に従者に囲まれた老人が座っていた。

 王を囲む従者たちの様子は、穏やかではなかった。彼らの中には、どこかの国の外交官なのだろうか、異人の肌の黒い女もいた。その女の耳は、エルフの耳のように尖っていた……彼女は話に聞く、闇のエルフというやつだろうか。彼らはみな、冷たい目でアイルたちを観察していた。


 三人は、王に敬礼した。

 

【ジークラット】「この者たちが、殿下に言伝を持って参りました」

【ロアン】「名乗れ」


 ロアン国王が言った。彼は低く威厳のある声をしていた。

 

【ゲイル】「私はスホルト村において狩猟を営むゲイルというものです。スホルトが悪魔の襲撃を受けたため、馳せ参じた次第であります」

【ロアン】「ザハードの村の者か。すでに話は聞いた。悪魔が出現したそうだな」

【ゲイル】「は。わが長いわく、それはゼクターの生み出した大悪魔のうちのひとつであると。我々はそこで、死んだ兵士から言伝を授かって参りました」

【ロアン】「なるほどわかった。その言伝を述べたものの名は」

【ゲイル】「名は分かりません。ここに軍票があります」

 

 彼はそう言い、アイルから軍票を受け取り、それを差し出した。モノクルをかけた文官らしき装いをした男が、それを受け取り、検分した。

 彼は驚きに一瞬目を見開いた。

 

【文官】「これは、トルドー軍曹のものです」

【ロアン】「トルドーはどうした」

【ゲイル】「死にました」

【ロアン】「……あい分かった。トルドーの言を述べよ」

 

 ゲイルは一瞬躊躇して、こう答えた。

 

【ゲイル】「なりません。王のみと直接話せと申しつかっています」

 

 王は文官に目線を送った。文官は首を横に振った。

 

【ロアン】「ならん。いますぐにここで話せ」

【ゲイル】「は。”裏切者の名は、クラウザーだ”と」


 部屋が静まり返った。文官は目線を伏せたままその場に固まった。王は目を見開き、椅子のひじ掛けを強く握った。彼の、歴戦の戦士を思わせる筋張った太い指が、ひじ掛けの厚い布地に深く食い込んだ。

 アイル達は、一体何事かと顔を上げた。見ると、部屋の高官たちの視線は、一人の人物に注がれていた。

 アイルはその視線の先を追った。灰色のローブに身を包み、ながく白いひげを胸元まで蓄えた魔法使いが、表情を消して微動だにせず立っていた。


 ーーーーー

 

 やつがクラウザーなのか?アイルはことの成り行きを息を詰めて見守った。

 王が椅子から立ち上がろうと腰を浮かした。

 その瞬間、灰の魔法使いは、口元をにやりとゆがめた。彼の小さな黄色い歯が、唇の隙間から覗いた。

 彼は杖を振りかぶりった。


【クラウザー】「|灼熱の炎を放つ魔法《öum ël jackt ël garm》」

 

 クラウザーが呪文を唱えた。すると、杖の先端にはめ込まれた宝石が、赤い光を放った。隊長はアイルを突き飛ばし、魔法使いに突進した。そして走りながら腰の剣を抜き放ち、上段に刃を振りかぶった。

 しかしその剣は間に合わなかった。一瞬ののち宝石の赤い輝きはその臨界点に達し、まばゆい閃光が部屋を照らした。そして、杖の先端から、赤い灼熱の炎が噴き出した。


【ジークラット】「ぐわあああああああ!」

 

 炎が隊長の体を包んだ。隊長は叫び声をあげ、その場に崩れ落ちた。


【文官】「|白銀の光を放つ魔法《öum ël jackt ël zaickt》」


 呪文の詠唱を終えた文官が、その両の手のひらを魔法使いに向け、白い光線の魔術を放った。魔術師は口中でなにかを唱えると、杖を振りかぶり、その光線を弾き飛ばした。激しい擦過音とともに鋭角にはじかれた白い光は、天井のテンペラ画に直撃し太い線条痕を残した。

 褐色の異人が、文官とクラウザーとの間に飛び込んだ。彼女は、一体どうやってそれを王の間に持ち込んだのか、その右手に剣を握っていた。

 彼女が漸近すると、魔術師はすぐに身をひるがえし、壁のステンドグラスを突き破って、外の空間へ飛び出した。

 王も、すでに自らの呪文の詠唱を終えていた。その両手の間には、直径1メートルはある大きな水球が浮かんでいた。彼は隊長に向けてそれを放った。水球が隊長の全身を覆い、彼を包んでいた炎はすぐに消えた。

 肉の焦げる甘い匂いが部屋に漂った。


 ーーーーー

 

 ゲイルは割れた窓の下へ駆け寄り、外を覗いた。高さ20メートルはあろう空間から地面に飛び降りたのにも関わらず、クラウザーの姿はもうどこにもなかった。

 

【ロアン】「医者をここに呼べ。奴らはすぐに動いてくるぞ」

 

 その時、遥か下方に見える密集した家の路地から、赤い煙が一本の筋を描いて空へと高く立ち上った。

 

 ゲイルは部屋を振り向いて叫んだ。

 

【ゲイル】「煙があがっています!何かの合図かと!」


 彼がそう言うと、それと同時に、西の方角から、なにかの火砲の発撃音のようなものが響いてきた。

 

 突如、海に面した西の外城壁が吹き飛び、爆発した。その衝撃は地面を震わせ、振動が白磁の壺をガタガタと震わせ、横倒しにした。壺の中に貯められた水が飛び散り、赤い絨毯にシミを作った。

 王たちはみな、窓に駆け寄り、西の方角を注視した。

 西の城壁一帯に、爆発の砂塵が黄色く一面に広がっていた。爆発が起きた地点の中央では、火災が起こり、黒い煙が天に向かって立ち上っていた。

 吹き飛んだ城壁の向こう側には、青い水平線が見えた。その水平線に、たくさんの船が浮かんでいるのが見えた。

 30を超える巨大な帆船が、その高い帆を掲げて、ローゼンハイムに向けて進行してきた。


王!沖を見てください



 ーーーーー


【ロアン】「なんだ、あの船たちは……」

【褐色の女】「あれは、ザクセンの竜帆船です。」

【ロアン】「竜帆船とは何だ?」

【褐色の女】「軍艦の一種です。やつらは、このローゼンハイムに攻め入る気でしょう」

【ロアン】「なんだと?いまここに世界中の来賓がいることを、やつらは分かっているのか?」

【褐色の女】「ザクセンは、嵐の悪魔ライガーンの手先です。となれば、やつらの狙いは、王女殿下の抹殺以外にはありえないかと」

【ロアン】「……そうか分かった。今すぐ兵を動かすぞ。ジークラッドはどうだ?」


 王は訊いた。隊長は横たわり甲冑を外されていた。モノクルの役人が火に焼かれむき出しになった隊長の胸に、両手をかざして呪文を唱えていた。隊長の体は、白い光に包まれていた。文官が唱えているのは、恐らく神術のたぐいなのだろう。隊長の真っ赤に裂けた皮膚の傷口は、みるみるうちに塞がっていった。

 

【文官】「もう大丈夫です。命に別状はないかと」


 役人がそういうと、隊長は天井に握った手を掲げた。それは、自分は無事だという合図だった。

 王は安心して一瞬顔を緩ませた。しかしすぐに気を引き締め、言った。

 

【ロアン】「コルトを呼べ。イーサンは、私と兵舎に来い」

【アイル】「あの!!」


 アイルが声を上げた。


【アイル】「我々にできることは、ありますでしょうか」


 アイルは王にそう言った。一介の猟師である彼は黙っているべきだったが、愛国心から彼の口から言葉が衝いて出てきた。

 

【ロアン】「ない。君たちははやくここから逃げなさい」

【ゲイル】「私は十年前にこの城に勤めていました。このヤゴーという男も、軍務経験はありませんが、いっとき冒険者をやっていたことがあります。手伝わせてください」

【ロアン】「……」


 王は、腕を組みひとしきり悩んだ。この喫緊の事態に、なおも時間を使い思考を逡巡させた。


【文官】「王」


 文官は、見かねて王に声をかけた。しかし王はそれを手で遮り、アイルたちに言った。


【ロアン】「君たちは軍籍にない……であるからこそ、この任務を果たせるかもしれん」


 王は腕を解き、三人をまっすぐ見つめながら言った。


【ロアン】「これから話すことは、すべて内密に行ってほしい.。君たちもさっき見たように、このローラントはもはや国家の中枢でさえ国賊に蝕まれている。今や、王である私にすら、完全に信用できる者は少ない。クラウザーでさえ裏切ったのなら、尚の事だ……」

 

 アイルたちは、王の言葉を待った。


【ロアン】「王女を……アマンダを、君たちとともに、連れて行ってくれ」


  王女の名を聞き、アイルは思わず姿勢を正した。ヤゴーは、急な事態に驚き口をぽかんと開けた。ゲイルだけは、直立不動のまま微動だにしなかった。

 王は使いをやり、王女をここに呼んだ。王女は、小人の使いとともにやってきた。 

 彼女は、眼を見張るような赤く長い髪を持っていた。彼女はその頭に、大きな三角帽を被っていた。

 

【ロアン】「アマンダよ、帽をとりなさい」

 

 ロアンに言われ、彼女はゆっくりとその帽子を脱ぎ、頭を下げた。

 帽子の下の頭の上には、黄色い天使の輪が、薄ぼんやりした光を放ちながら浮かんでいた。


(絵1.4)

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