寒い東屋にて
翌日から、昼間は風邪で寝込んでいることになっている王太子殿下の部屋ですごした。二、三日はそれっぽく室内でいろいろと話をした。もちろん、彼らの食事はわたしが準備した。
王宮の厨房で、料理長に断って準備をしたのである。
三日をすぎると、王太子殿下は起き上がれるようになった。笑ってしまったけど、王太子殿下はじょじょに歩けるようになり、王宮の庭園を散歩できるまでになった。
とはいえ、人目のない早朝や夜に、だけど。
随行員の方々は、どなたも気さくでやさしい。彼らとの会話も楽しくてならない。
五日目をすぎるころには、わたしはこのダラス国で一番、隣国のバルト王国のことを知っている人間になった。
それほどまでに、いろいろ教えてもらった。
ここをほっぽりだされたらバルト王国の田舎ででもメイドの仕事を探してもいいかな、と思ってしまった。
そして六日目、エドモンドがバルト王国から戻ってきた。
「殿下。あなたの駿馬は国に置いてまいりました。わたしの秘蔵の馬で参りましたので、ご帰国の際はその馬をお使いください」
夜、庭園の東屋にいる。
寒さは日を追うごとに増してゆく。それでも、下に着こんでコートを羽織れば、まだどうにか耐えられる。
「それで、どうだった?」
エドモンドは厩舎に馬をあずけ、まっすぐここに来たんでしょう。ニキビ面の鼻も頬も真っ赤になっている。
「すべて抜かりなく。ああ、そうでした。陛下がたいそう驚きになられていらっしゃいました。殿下の病は、このダラス国の医師では治せそうにないとお伝えすると、オロオロとなさって。ですが、医師以外で治せる人物がいるので、その人物を招くことの許可もいただいております。『王太子を信じておる。想うようにせよ』これが、陛下からのお言葉です」
エドモンドの報告は、わたしにはよく理解できなかったけど、王太子殿下や随行員の方々にはわかったみたい。
王太子殿下はホッと息を吐きだし、随行員の方々はうれしそうに笑い声を上げた。
その時点で、わたしはあたたかい飲み物を作りにその場を離れた。
「ヤヨイ」
葡萄酒をあたためたものを配り終わったとき、王太子殿下に呼ばれた。
「話がある。そこに座って……」
「ヤヨイ、どうかここに」
王太子殿下が立ち上がると、その隣に座っている随行員の一人が立ち上がって席を譲ってくれた。
「寒いですね。ヤヨイ、あなたは葡萄酒を召し上がっていないのです。もっと殿下に近寄ったらいかがですか?そのほうがあたたかいはずです」
「エドモンド」
「ほら、殿下もなにをなさっているのです。彼女が寒そうです。そういうときは、上着をかけてあげるとか……」
「エドモンドさん、大丈夫です。ありがとうございます。ほら、ストールを持ってきています。これをこうして肩にかければ……」
「ダメダメ」
「だめです」
「だめですよ」
「それはちょっと」
準備しているストールを両肩にかけた途端、エドモンドたちにいっせいにダメだと言われてしまった。
「殿下、ほら。チャンスです。あ、いえ。そこはやはり、くっついて二人ではおったほうがよりいっそうあたたかく感じるはずです」
エドモンドは、必死に訴えてくる。