みんな空腹だった
「殿下。夜分、おしかけて申し訳ございません。お加減、いかがでしょうか?スープをお持ちいたしました。すこしでも召し上がっていただければと。それから、みなさんにもお持ちしておりま・・・・・・」
「やったぁっ!」
言い終わらないうちに、先ほどのニキビ面の若い彼が叫んだ。
「おいおい、エドモンド。みっともない。ヤヨイに笑われているぞ。バルト王国の人間は、食い意地が張っていると勘違いされてしまう」
王太子殿下が窘めると、エドモンドはシュンとなった。
「パーティーでは何も召し上がってないかと思い、お持ちしたのです。お腹が減って当然ですわ」
そう言いながら、カートを丸テーブルの近くまで押していった。
「正直、助かったよ。わたしは熱っぽいし、彼らは腹が減って死にそうだというし。宮殿の食糧庫か厨房にでも忍び込んで、盗んでこなければならないところだった」
王太子殿下は、やわらかい笑みとともに冗談を言う。
それだけの元気があってよかった。
テーブルの上に彼用のスープと紅茶を置いた。ほかにテーブルはないので、エドモンドたちにはカートのまま饗するしかなさそう。
掛けてある埃よけの布をとると、鍋とパンとチーズ、それから葡萄酒と果物とケーキがあらわれた。
エドモンドもほかの随行員の人たちも、小さく歓声を上げた。
「殿下には、風邪にきくスープをお持ちいたしました。鳥と野菜をじっくり煮込んでジンジャーと押し麦をいれています。体の芯からあたたまりますよ」
「それは、うまそうだ。熱っぽくはあるけど、腹が減っているのは減っているからね」
彼がスープを飲みはじめると、エドモンドたちにもスープをよそった。
よかった。王太子殿下もエドモンドたちも機嫌よく食べてくれている。
この様子だけで勇気をだして来た甲斐がある。
わたしは、部屋のすみで彼らの食べっぷりを眺めた。
「ああ、本当に美味かった。風邪などふっ飛んでしまったような気がする。ヤヨイ、本当にありがとう。きみの心遣いに感謝する」
「あの、本当に助かりました。このままでは、腹が減りすぎて眠れなかったところです」
王太子殿下もエドモンドたちも満足そうにしてくれている。
本当によかった。
「いいえ。本来なら、パーティーの際に心ゆくまで召し上がっていただくべきだったのです。それを、あんな茶番をお見せしてしまい、ご不快な思いをされたことでしょう」
謝罪してから、テーブルからカートに皿を載せはじめた。