第7話
そんなある日、最後の宇宙船の完成が近づいてきました。
もしもの事を考えて、余分に二隻の宇宙船も建造していたので、今星にある宇宙船は合計で三隻になります。
この頃になると、クラムの宇宙船の図面の変更も無くたまに現場に出て見て回るくらいしか仕事はなかったので、クラムは研究室の歌姫と一緒にいる事が多くなっておりました。
クラムは、研究室に一日中いても退屈しませんでした。なぜなら、歌姫と雑談ができるからです。
歌姫のパルスはいろいろな事をクラムに伝えました。歌姫には意思もありました。それなりの知能もありました。
そしてクラムは知ったのです。歌姫の本当の名前を。
「君には名前があったのか」
クラムは驚きながらも、とても幸せでした。歌姫と会話を続けて、知る事ができた名前。歌姫の本当の名前は、クラムにとって不思議で心地よいパルスの振動でした。クラムは全身で歌姫のパルスを感じておりました。歌姫のパルスに包まれている事が、唯一の安らぎでもあったのです。
クラムが喜びに満ちている時に、サースが宇宙船の星図のプログラムを終えて研究室に帰ってきました。見れば、クラムが歌姫と向き合っています。またいつもの事だとサースが仕事机に書類を置いた時、クラムの声が聞こえたのです。
「歌姫。君と産卵できたら、私はどれほど幸せになれるか」
サースは驚きました。クラムの産卵を望む相手がカタツムリではなく鋼だったからです。その時です。サースの心の中に黒い濁ったものが現れました。それは歌姫に対する憎悪でした。
「あの塊には、歌姫という名前があるのか!」
サースは、クラムを思うあまり、嫉妬を通り越して歌姫に憎悪を抱いてしまったのです。