第4話
クラムが歌姫と一緒にこの星から脱出すると誓ってから、約五十年が経過しておりました。
既にカタツムリたちは地下へ移住し、海水も蒸発しないように地下へ貯蔵されました。
高い知能を持つカタツムリにとって、惑星の九十パーセントを覆う海の水を地下へ貯蔵する事など簡単な事でした。
海水の貯蔵とは別に、地下を掘って作られた大きな空洞では、宇宙船が建造されておりました。
宇宙船は、ピンポン玉そっくりのセラミック複合材の球体でした。反重力装置により浮遊移動し、宇宙に出てからは宇宙船を包む四面体のバリアが宇宙空間にある塵などを弾くため、光速以上の速さでの移動が可能でした。
既に何隻か完成しており、希望したカタツムリ市民を乗せて宇宙へ旅立った宇宙船もありました。
クラムはというと、場所は海中から地下へと変りましたが、今も鋼の歌姫と一緒で、昼間は技術者として地下の空洞で宇宙船の建造に着任しておりました。
親友のサースも同じ空洞で宇宙船の建造に関わっておりました。
「いくら宇宙船の中で半永久的に生活ができるからといって、宇宙船が完成しました。では出発です。では、あまりにも安易過ぎる。宇宙は、軟体である我々には未知の領域。何が起こるか想像もつかないほど危険なのに」
天文学者であるサースは、先に出発した宇宙船に友人が乗っている事が納得いかないようで、クラムの横で愚痴を溢しながら、仕事机のシステムにアクセスをして、宇宙航路の星図を見直しておりました。
クラムは鼻歌を歌いながら、画面にある宇宙船の図面を見て、各部分の強度をチェックしておりました。
「同じ天文学者の友人が心配なのは分かるが、宇宙船に乗れば、望遠鏡で観測できない宇宙域まで行けるからね。天文学者としての血が騒いだんだよ」
「だからといって、理論や実証より、好奇心のみを優先して宇宙船に乗り込むなんて、天文学博士として有るまじき行為ですよ」
「気持ちは分かるが、彼が送ってくれる宇宙の詳細な情報が必要な事も事実」
「確かに、そうですが。……。あー、苛々する」