第3話
そんなある日。
クラムの下に同じ研究者のサースが訪れました。サースは角貝を背に持つカタツムリでした。貝の色はタマゴ色で、模様はありません。体の色はベージュで体に沿って背に三本の緑色系の縞模様があり、その上にある角状の貝は、細めでアイスクリームのコーンを逆さにしたようにサースの背に立っておりました。
「クラム博士。またこれと一緒にいるのですね。よくも飽きずに」
サースは、左右の眼の付け根から伸びた触手の右を鋼に向けました。
そう。クラムは、博士と呼ばれる宇宙物理学者でした。
サースは天文学の博士で、クラムとサースは親友といえる間柄でした。
クラムが鋼と一緒にいる時は、宇宙物理学の仕事はしておらず、肩の力を抜いて歌に聞こえる鋼の振動に耳を傾けておりました。
「この振動が心地良くてね。ついつい時間を忘れてしまうんだよ」
苦笑いを浮かべるクラムを見て、サースは呆れた表情をしましたが、なんで訪れたかを思い出して真剣な眼差しをクラムに向けて言いました。
「クラム博士。環境庁からの書類です。この惑星を覆う大気が、恐ろしい速さで変化しているらしいのです」
サースの話に、クラムは一瞬驚いた表情をしました。引き締まった表情になり、左右の眼の付け根から触手を伸ばしてサースから書類を受け取ると、さっそく環境庁からの書類を読み始めました。
「もしもの時は、我々貝の種族は、大気の悪影響を避けるために海中で生活ができるからよいが……」
そう言いながら書類を読むクラムの表情が強張り始めました。
「なんて事だ! この星を覆っているガス雲が消滅し始めているだと!」
クラムは、読んでいる途中で声をあげました。
サースは、頷いてからクラムに言いました。
「そうなんです。ガス雲が消滅してしまうと、二つある太陽光線の直撃を受けて、気温は急激に上昇し、例え我々が海中に逃げたとしても、急激に上昇した大気の温度により、いずれ海水は干上がってしまうのです」
書類を持っていたクラムの手が膝の上に落ちました。宇宙物理学の博士号を持つクラムは、ガス雲の消滅が何を意味しているのか、書類を読まなくても分かるからです。
「海が干上がり、逃げ場を失った我々は、死滅……」
「環境庁の計算によると、五十年以内にガス雲がなくなり、二百年以内に、海水はほぼ全てが干上がってしまうそうです。とりあえず我々は、地下シェルターに避難して、地下で脱出用の宇宙船を建造する事になりました。クラム博士も、この計画に含まれております」
クラムは思いました。研究者たちは、貴重な研究材料を宇宙船に詰め込むだろう。大変貴重なものである歌姫も、同様に宇宙船に載せるはず。しかし歌姫は、見上げるほど大きくとても重い。単純に計算しても、二百年以内に建造できる宇宙船の規模は小さく、数もそう何隻も作れないはず。我々の仲間は、全員宇宙船に乗れるのだろうか。と。