第2話
クラムはマイペースにゆっくりと這って、どんどん海の底へと進みました。
クラムが進む先には、ドーム型の建物がありました。
その建物は研究室でした。
研究室には、クラムが大切にしているあるものがありました。
それは、見上げるほど大変大きなもので、私たちがよく知っている鋼でした。
しかし、クラムたちカタツムリの種族が使う材質はセラミックのみ。そのため鋼は世界に一つしかない大変貴重なものでした。
鋼は、クラムの研究過程の途中で偶然にできたものでした。
クラムは、研究仲間の援助を得て二つ目の鋼を作ろうとしましたが、クラムたちが何度試みても、二つ目の鋼ができる事はありませんでした。
クラムが偶然に作り出した鋼は、私たちが知る鋼とは少し違っておりました。
鋼は、クラムたちの貝殻と同じく振動してパルスを出しておりました。クラムたちの言語パルスに共振したのではありません。自らパルスを出していたのです。
鋼のパルスは、クラムたちには理解できないものでした。言語なのか。信号なのか。単にパルスが出ているだけなのか。
鋼が発しているパルスは、クラムを含めた研究者によって、いろいろな角度から研究がなされました。その結果、単に振動しているだけで、言語にも信号にもなっていないのでは? という意見が出始め、最終的に大半の研究者はそれに同意しました。
クラムもその意見に同意しました。でも、心の底では、鋼には命があり、何かの言語を発しているのでは、と思っておりました。
鋼は世界に一つしかないという事で、特別に建造されたドームに保管される事になりました。
ドームに出入りできるのは、技術レベルの高い研究者のみでした。
クラムは、その一人でもありました。
クラムは、その権限を使い、みんなには内緒で鋼が発するパルスを研究する事にしました。
研究は単純なものでした。鋼が発するパルスを記録し、パルスの波を分析して法則を探し出す方法でしたが、何通りもあるパルスを研究するには気の遠くなるような時間が必要でした。
クラムは、鋼を研究し続け、三百年目にしてある結論に達しました。
鋼が発する言語は、歌なのかもしれないと。
それからのクラムは、鋼を歌姫と呼び、独りになると鋼の歌を口ずさむようになりました。