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第13話

 宇宙船は、空港に向っておりました。

 地下空洞内を移動する宇宙船は、セラミック複合材の大きな球体。反重力システムにより浮遊して、音も無く静かに移動しておりました。

 先ほど宇宙船のコンピューターが答えたとおり、空港は閉鎖されており、空港に侵入するのは不可能でした。

 宇宙船は、四面体のバリアを張り巡らしました。四面体の角の一つを空港に向けた時です。角は熱を帯び、角の周囲に円形の虹ができた瞬間、角からオーロラそっくりの帯状の光が飛び出したのです。

 オーロラの光は、空港に到達しました。光が到達しても空港は静かな状態でした。ですが、約五秒後に突然発生した黒い球体に、空港は飲み込まれたのです。

 黒い球体は、クラムたちカタツムリの高度な科学力により作り出されたブラックホールだったのです。

 ブラックホールは、空港を飲み込んだ後、消滅して消えてしまいました。

 空港は消え、開いた穴からは、宇宙の星々が見えました。

 同時に、地下空洞内は突風が起こり、竜巻と化した暴風は、地下空洞内にあった物やカタツムリたちを吸い上げて、開いた穴へと運んでいったのです。

 多くのカタツムリが、開いた穴から大気圏外へ飛び出していきました。

 事の次第を把握して、触手を伸ばして何かに掴まったカタツムリは助けを求めました。

 宇宙船に乗り込む事ができたカタツムリは、生存者の救出に専念しました。

 クラムはというと、宇宙船から、荒れ狂う風の中で悲鳴をあげて蠢くカタツムリたちを助ける気も無く、冷めた目で見続け、枯れ果てた心で別れを告げておりました。

「私は、もう、何もいらない。歌姫と一緒に居られれば、それでいい」

 そしてクラムは、切断されてレンガくらいの大きさになった歌姫の一つを触手で拾いあげて、頬にくっつけて涙を流しました。

「君は、こんなに小さくなり、歌わなくなってしまった。でも、それでも、私の思いは変らない。今でも君の歌を思い出せる。二進数の、時には十進数の歌が。愛してるよ。歌姫。そして、君のもう一つの名前、カガリ」

 クラムは一頻り泣いてから、宇宙船のコンピューターに指示を出しました。

「進路を変更。座標R735 P250 V244 C……」

 コンピューターは、クラムの指示に従い進路を変更しました。

『進路変更を完了。座標カガリの星、地球へ向います』

 宇宙を移動する白いセラミック複合材は、四面体のバリアに包まれた巨大な球体。カタツムリ市民が半永久的に生活する住居設備を持った宇宙物理学者クラム・ボーンが設計した最高傑作の巨大宇宙船。

 それに乗り込んでいるのは、クラム・ボーンただ独り。そして、クラムの傍らにあるのは黒いレンガになった個々の鋼。

 宇宙船が向っているのは、私たちの星、地球。

 しかし、宇宙にあるのは小さな星の輝きばかりで、青い星である地球がどこあるのか、クラムにも、私たちにも、全く見る事はできないのでした。

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