第10話
当然、見晴台にいたサースにも聞こえておりました。
サースは、触手を伸ばして、先ほどのクラムと同じく、振り子の原理を使ってターザンのように空間を移動して、宇宙船の搭乗口に着地しました。
「クラム博士。どうしたのですか? 取り乱して。あなたらしくもない」
クラムの表情は変っておりました。もうサースに対しての優しさは無く、目尻を上に引きつらせてサースを睨みつけておりました。
「なぜ塊を切断させた? なぜだ?」
クラムの低く轟く声を聞いても、サースは笑顔を保った状態で答えました。
「宇宙船のアンテナにしたかったのです。あの塊は、セラミック複合材のアンテナより共振率がとてもよいので、遠距離にいる宇宙船との交信に必要なのです」
「だからといって、ほかの博士の意見も聞かず、独断で塊を切断するとは、どういうつもりだ?」
クラムの口調は荒々しいものに変っておりました。
周りにいた作業員は、クラム物言いに怯え、切断された鋼を持ったまま立ちすくんでおりました。
サースは、冷静に周囲を見回してから、クラムに言いました。
「ほかの博士の意見を聞くまでもありません。塊は、以前から研究がされなくなり、置物同然でした。それを宇宙船のアンテナとして活用するのです。誰が反対するというのですか」
クラムは言い返す事ができませんでした。
冷静になって考えれば、サースの意見は道理に適っていたからです。
それはクラムを更に怒らせる結果になりました。
クラムは宇宙物理学博士とは思えない行動をとりました。近くにいた警備カタツムリの銃を奪ったのです。
「動くな! 動けば、このトウガラシ銃で撃つ事になる」
トウガラシ銃。それは、ご想像の方もいらっしゃると思いますが、赤いトウガラシの液体が入った水鉄砲でした。
カタツムリがその液体を浴びると、細胞組織が溶けてしまうという、恐ろしい水鉄砲です。
善い子の皆さんは、絶対にマネをして作らないで下さいね。人間の皮膚にトウガラシ液がかかるとヒリヒリして、人によってはただれて火傷のようなケロイド状の痕が残ってしまうので。
クラムは触手でトウガラシ銃を持ってサースに近づきました。
周りにいたカタツムリの誰もが、サースが撃たれると思って、クラムが持っているトウガラシ銃を恐ろし気に見ました。
非常事態を察知して集まってきた警備員は、サースを助けようと思いましたが、常軌を逸したクラムが恐ろしくて、動く事ができません。
クラムは、サースの横に立ちました。そして、サースの首に銃口をくっつけました。トウガラシ液で首が溶けたら絶対に助かりません。クラムは、その事を承知の上でサースの首に銃口をくっつけたのです。
「塊を全て宇宙船に乗せるんだ!」
クラムの声は怒りと興奮によって怒号と化しておりました。
怖がっている作業員は、体が凍り付いてしまい、なかなか動こうとはしません。
「早くしろ!」
クラムは叫んで作業員にトウガラシ銃を向けました。
作業員は悲鳴をあげました。
「運びます。運びますから、撃たないで下さい」
作業員は急いで鋼を宇宙船に運びました。