第1話
二枚貝のカタツムリは実際に生息しておりました。
ただ、絶滅危惧種だったので、現在は生息しているのか定かではありません。
ここは、地球から遠く離れた宇宙空間。そこに浮かんでいるのは地球と同じ色をした水の惑星。
惑星をよく観察してみると、陸と海中にセラミック質の建造物が見えます。
どうやらセラミック世界で暮らす生命がいるようです。
海岸にある浜は、カラフルなビーズを散りばめたようなガラス質の多い砂が広がっています。
その砂に打ち寄せる波は、ビーズ砂を含み、波の中のビーズは回転して動き、キラキラと光っていて綺麗です。
綺麗に光る波が作る海岸線には、カタツムリがいて、カタツムリは波と平行してゆっくりと這って移動しておりました。
カタツムリの背にある貝は二枚貝。アサリに似た扇形の貝の中に体を収納して隙間なくきっちりと貝を閉じる事ができました。貝は薄茶に濃茶のマーブル模様。貝から出ている体は黒っぽくて上面には雲母のような鱗が覆っておりました。
カタツムリには高い知能がありました。二千年という長く生きてきた寿命もありました。更に、長寿とは思えない昔と同じ若い肉体を持っておりました。
カタツムリの名前は、クラムといいました。
クラムは頭から二本の待ち針のように伸びた黒い眼で周囲を見回すと、波間の一点を見つめて、体を海へ向けました。
打ち寄せる波がクラムの体に当たります。波を受けたクラムの体は艶立って雲母の鱗は空に浮かぶ雲を映しております。
クラムは、這って背にある二枚貝を揺らしながら波の中に分け入りました。
彼の体は、私たち人間のように水面に浮いたりはしません。ビーズ砂に面している部分がしっかりとくっついているからです。でも、それだけではダメです。まだ貝の中には空気が残っていて、クラムの体を水面まで押し上げようとします。
クラムは、浮力を完全になくすために、全身が全て海の中に入ってから貝を前後左右に揺すって貝の中にある空気を全て放出しました。
これでクラムの体は完全に浮力がなくなりました。海中でもゆっくりと這って進む事ができます。
クラムは水中の呼吸も可能でした。貝の中に海水を取り込み、海水に溶け込んでいる呼吸に必要な大気の成分を、分子レベルで抽出し体内に取り込む事ができたからです。カタツムリであるクラムの体は、水陸どちらでも生存できるように進化しておりました。