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かけら  作者: 揺井かごめ
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2代目の死神

Twitter上で書いたSSです。

 常世の闇をすべて集めたような男だ、とひと目見て思った。

 それはもう、「お迎えに参りました、死神です」という言葉を容易に信じてしまうほど、およそ光というものを微塵も感じさせない雰囲気を纏っていた。その言葉が私に向けられていたならば、地獄でもどこでも付き従っていってしまっただろう。

 しかし男の視線は、あろうことか、私の抱える幼子に向けられていた。

「残された時間は、あと3日です」

 男はそれだけ言って解けるように消えた。リビングには静寂だけが残った。

 妻を亡くし、仕事を辞め、この子の世話に明け暮れてもうじき1年経つ。ようやく2歳半になる可愛い娘だ。

 連れて行かれてたまるか。

 私は虚空に向かって、

「私の残りの命を、一年残して全てやる。どうか娘だけは」

と吠えた。

 先ほど男の顔があった場所に右目と口だけが現れ、「よかろう」と言って再び消えた。

 それから一年、私は娘の親になってくれる人を探した。信頼できる人がいい。できれば両親揃っていて、きちんと食事ができ、安心して眠れる家庭がいい。親しい友人や探偵の力を借りて、私は無事に、娘の戸籍を変更した。新しい両親には、私の存在を伏せるよう頼んだ。懸念なく、健やかに育って欲しかった。

 きっかり1年経った夜、「時間だ」と死神が現れた。私は頷き、物が一つもなくなったがらんどうの我が家を見渡す。

 万全は尽くした。

 私の魂を刈り取って、死神は解けるように消えた。


   ◆ ◆ ◆


 常世の闇をすべて集めたような男だ、とひと目見て思った。

 わたしの体は透き通り、男と並んで横たわる老婆を眺めていた。

 大往生だ、何の未練もない。

 自分の遺体を眺め、しわしわの笑顔で頷くわたしを、その男は眩しげな表情で見つめている。

 どこか、わたしと似た顔の男だった。


「お迎えに参りました、死神です」

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