齢37歳にして、12歳も年下の会社の後輩に告白されて人生に春が来たのよ!ねえ聞いてる?
こちらの小説は以下作品からのヒロイン視点で描いたものです。
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12歳も年下の、会社の後輩に告白された。
――いや、まぁ、うん。
まさかのだよね。
齢37歳にして春が来ると思わないじゃない。
昨日は大分取り乱したなぁと思う。
いやー、先輩としてお恥ずかしい限り。
ともあれ、そんな翌日だって私は彼と顔を突き合わせる必要があるのだ。
同僚だものね。
私は鏡を見る。
自然、顔がニヤけているのが分かってしまう。
「うわぁ~、駄目だなぁこの顔で会社行ったら、ぜ~ったいそぞろ君だけじゃなくて周りの皆にも『何あったんすか無名月さん』って言われるよなぁ~」
私はクソ長い独り言を鏡の前で呟く。
いかんな、一人暮らしが長いとこういう癖が。
「あっヤバ、もう8時じゃん。急がないと」
私は手早く化粧を済ませ、スーツに着替え、電車に乗り、職場へ向かう。
昨今はテレワークも普及して久しいなどと言われるが、我が職場は未だに旧態依然とした出勤体制である。
やれやれ、面倒臭い。
でも、そのお陰で彼と顔を突き合わせられるわけだ。
その点については、感謝して良いかもね。
私は電車の中でも顔がニヤける。
マスクしててよかったー。
変な人だと思われちゃうよ、ね。
ガタンゴトン、と電車に揺られて、私はウキウキ気分で職場へ向かった。
◆◆◆
「おはよー、有瓜くん」
「おはようございます、無名月先輩」
自然と挨拶できたな。
まぁ、3年同じことしてるしね。
彼の顔をチラリと伺うが、フツーにしてた。
へえ。
公私混同はしない訳ね。
クールだなぁ。
オバさ……こほん、おねーさんは、こんなにも浮かれてしまっているというのに。
私は自然、声が弾むのを抑えきれない。
彼に、無意味に何度も『なんか困ってることなぁい?』とか訊いちゃう。
流石に日に何度もそういうアプローチをし過ぎたらしく、10時くらいになって彼が言う。
「あ、あの、無名月先輩」
「ん? なにかなぁ、有瓜くん」
私は浮かれすぎて語尾にハートが付きそうだった。
「流石に、周りに積極的にバラすのはやめましょうよ……恥ずかしいですって」
「え? こんなオバさんと付き合ってるのがバレたら嫌って事?」
私はすかさず、そんな態度で彼を困らせてみる。
まあ、私のいつもの、年増女の自虐ジョークだ。
「そんな訳ないでしょ。別にオフィスラブ厳禁の職場じゃないですけど、わざわざ関係を吹聴する事もないじゃないですか」
真面目だなあ。
私はもうちょい彼に甘えてみる。
「え~ちょっとぐらい良いじゃ~ん、生まれて初めて恋人出来て浮かれてるオバさんの気持ちも忖度してよぉ」
しかし彼は素気無く却下。
「分からなくもないですが、良い大人として、落ち着きを見せて下さい」
ううむ、それは確かに正論過ぎるね。
だが私はまだ怯まない。
「これが落ち着いてられっかー! 許されるなら壁新聞の記事にしたいわ!」
「マジでやめて下さい、それやったら即座に別れますよ」
冗談が過ぎたか、彼もかなり剣呑な色を帯びた口調で私を諫めようとする。
まぁ、でも、そんなプライベートの切り売りをするほど私も非常識じゃない。
しかぁし、私の冗談はまだ続くよ。
彼氏ができて浮かれポンチになった女のテンションを舐めるな。
「うう、有瓜くん冷たい。釣った魚には餌をやらない男なのね、オバさん悲しいわ」
「事あるごとに誤解を招く発言しないで下さい。あと自虐でもオバさんって言わないで下さい、せめて昨日言ってたみたいにおねーさん、で」
流石にそぞろ君も呆れ果てて、肩を竦める。
そろそろ潮時かな。
……あと、さりげに私の自虐を諫める辺りが彼らしく心遣いの人だなーと思った。
「分かった分かった、分かりました。オフィスでイチャイチャは基本的にしませーん、コレで良いんでしょ?」
私がいつもの『無名月先輩』に戻ると、彼は、
「ええ、そうして下さい」
と嘆息して仕事に戻る。
ふふ、安心したね?
だが私の攻めはまだ終わりじゃないのだー。
私は彼にそっと近づき、耳元に口を近づける。
「じゃ、せめて、夜は存分にイチャイチャさせてよね?」
ぽそり、と出来るだけ低いトーンの声で、誘惑するように言ってみた。
「……!」
そぞろ君の表情が一変して、背筋がゾクッとしたみたいな感じの身体の震わせ方をする。
にひひ、セクシーな大人の演技、大成功~♪
私、普段は声がソプラノで子供っぽいからねえ。
めいっぱい低くしないと、折角の熟女キャラも台無しだよ。
私は掌をひらひら振り、彼の前を去る。
今夜は、楽しみだなあ。
(終わり)
どもども0024っす、なろうでの投稿頻度減っちゃってますが生きてますよー。
今回はノクターンノベルズで書いた小説の、ヒロイン視点です。
エロ含めてムーンライトノベルズに投げても良かったかなと思いましたが、日常パートで綺麗に終わったかなって感じなのでこっちへ。
ともか先輩は、非常に人格的に良く出来たヒロインだと思ってて、物語を語るにはやや癖が弱いキャラかなと思ってたんですけど、こうして見ると割と面白い会話してくれますね。
ともか先輩、自虐ジョークと浮かれ癖以外はホントに、不器用だけど真面目で優しくて理想的な先輩なんですよ。そういう魅力を持つヒロインとして構成しました。
そういう女性を彼氏居ないだけで喪女と罵る、または自虐する風潮への反発心が生んだ小説なのかも、と僕は分析してます。
女性に過剰に阿るのは僕の趣味じゃないんで、あくまでも女性視点を取り入れているのは作風を拡げたいからですけどね。
ではでは。