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悪役(の僕)なら法に触れない限り怠慢は働きません故(黒笑)  作者: 旧プランクトン改めベントス
パンケーキ~層を重ねる度に増える贖罪(食材)~
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3 尻ぬぐいはしたくない

王族で視点を分けています。


前半: アレクサンダー(第二王子)


後半: クリストフ(第一王子)

 元婚約者と将来の妻そしてその使用人が帰った後、私は兄上に連れられて父上の部屋へ向かった。父上は執務の手を止めて、人払いをした。


 まあ、ここまでは計算通りだ。


 「…アレクサンダー、ベティーナ、お前達が偽善者ぶった所でもう遅い。ほぼ全ての貴族と民衆がお前達に付こうと、私達王族とライター伯爵家は腹の内でお前達を赦さない。」


 …は?「偽善者」?

 「偽善者…?私達は悪者なのですよ?」


 「だが、真実の愛だ、私達が悪かったから許せなどと同情を煽るような事を言っている事が潔くない…それこそ、偽善じゃないのか?アリーシア殿を悪者に仕立て上げ自分たちを正当化するつもりなんだろうが、出来るものならやってみろ。」


 クソ、バレていたか。何度も「真実の愛」を強調したのが仇となってしまった。


 忙しいと分かっている時期に召喚したのだって、アリーシアだけが来ると踏んだからだ。

 母上と兄夫婦に見られてしまったため、なだめすかして黙らせる方法がとれず、誤魔化す他無かったが。


 「…あの女なら受け入れますよ。だって私の事が好きなんですから。」


 アリーシアは問題無いし、アルバンは俺の言いなりだからな。平民の身分を弁えている男だ。何か今日は生死の境をさまよったショックで反抗的だったが、あれは一時的なものだろう。

 普段は、いつも薄笑いでアリーシアの傍に控えるというだけの仕事で金をもらうというだけのつまらん男だ。


 「つくづくお前は最低だな。まあでもそんなお前に忠告をしてやった私も悪者だな。アリーシア殿に優しい言葉をかける資格などない。」


 「どういう…?」

 「お前は敵に回してはいけない存在を敵に回しつつある、アレクサンダー。」

 兄への質問は、父上が答えてくれた。


 「アリーシアの事、ですか?だからあいつは私にそう酷い事が出来ませんよ。」

 「アリーシアは、な。」


 「…え?」

 他に誰がいただろうか。


 「はー…アレク、お前とは縁を切りたい。頼むからこっちに飛び火させるなよ。」

 「大丈夫だクリス、その際には迷いなく切る。」

 「その時になって情が移ったなんて仰らないでくださいね?」


 父上と兄上は何の話をしているんだ…?


 「あ、あの…」

 「アリーシアだけでなくアルバンにも誠心誠意、謝罪して媚びを売っておくんだな。」


 は?ああ…あいつは確かに役に立つものな、そういう事か。


 「はい、あいつは優秀だって話ですからね。見目も良いし、ベッティの教育係にでも取り立ててやろうかと思っています。」


 アルバンは基本無気力だが、その気になれば噂に違わず優秀で、私が何か言う前に茶を淹れたり誰より絶妙なタイミングで椅子を引いたりドアを開けたり出来る。


 ただ、私から見ればアレは常時省エネに勤めている男だ。今日は何か激しく動いていたが。

 これから忙しくなるのは嫌がるかもしれんが、あいつはそもそも私に反抗する気など起きまい。


 すると、2人はおかしそうに笑った。

 「そうかそうか…上手くいけば良いな。」

 「?ええ。」



~ ~ ☆☆☆☆☆☆ ~ ~


(クリストフ視点)


 愚弟が去った後、私は父上と脱力した。


 「父上…私は今までこの国を治める存在となるべく努力してまいりましたし、この国を背負って立つ覚悟も責任感もございます。が、アレの面倒を押し付けられるのだけは勘弁です。」

 「安心しろ。その際にはアレクとベティーナを裸にして生贄にする。偽善者らしい最期だろう?」


 「あははっ、そうですね。」

 人は窮地に陥るとどこまでも残酷になれる。保身のためだ、仕方ない。あいつらの撒いた種だ。


 「…今まであいつがアレクやベティーナごときの言う事を聞いていたのは、自身の力じゃなかったといつ学ぶのでしょうね。」

 「さあな…ベティーナがいる限り、その点については盲目になるだろうな。」


 「ベティーナにうつつを抜かしている事は勘づいておりましたが…まさかコロっと落とされて肉体関係にまでなっているとは…」

 第二王子ともあろう人間があの程度のハニトラにやすやすとかかるなんて、引いてしまう。

 父上と私に何かあったらお前しかいないんだぞ?


 父上はため息をついた。

 「お前も勘づいていたのか。」


 「はい、アルバンが気付いていて()()()()()()事も。下手に注意すると最悪、アレクは改心せずアルバンの悪意だけ買ってしまいかねないので何も出来ませんでした…アリーシア殿があんなにアレクを思っていた事には気づけませんでしたが、そう考えると非常につらいです。」


 「なるほど、やはり…奨励していたのか。」

 「はい。」


 アルバン…傍から見ればライター伯爵家のアリーシア付き従者で、ただの優秀な男だ。

 しかし、あれは仮の姿でしかない。あの男は…人の皮を被った悪魔なのだから。


 「じゃあ、ヤるな。」

 「はい、遅かれ早かれヤりますね。」


 アリーシア殿という存在があの悪魔を上手くコントロールする前、彼はこの国だけでなくこの大陸全域の脅威だった。表沙汰にはならないが、知る者ぞ知る…戦争・災害・魔族…そんなものに並ぶ恐ろしい存在。


 「私は…震えが止まりませんでした。あの男が…アリーシア殿の後ろで床に正座してアレクに土下座していたのを見ました!あの男は…意識を手放す前にフッと嗤っておりました!アレクを呼んでいる間、アリーシア殿の不安を和らげようと彼女の手を握るあの男の手の指が興奮で震えておりました!」


 「…クソ!」

 父上が吠えた。


 「しかも!あの男は!治癒師たちが言うに『かなり危ない状態』だったにも関わらず、すぐにはね起きて点滴を躊躇なく一思いに抜き、アリーシア殿の療養していた部屋まで探り当てて一直線に向かったのですよ?!」


 「…あの男にかかれば当然だ。どうせ、そのまま平気そうに歩いて帰ったのだろう?」

 「…さすがに担架に乗せました。」


 「乗ったのではなく、()()()んだろう?」

 「…はい。」

 アリーシア殿の言う事を聞いてくださって良かった。


 檻の鍵を手に入れた猛獣には、動きを制限するための重り付きの枷が必要だ。気休め程度にしかならないのだが。


 「とにかく、何としてでも…アルバンをこちら側に引き入れるぞ。戦意喪失してもらわねば…」

 「この国だけでなく、大陸が滅びます!」


 「そ、そうだな、よくこの7年間、我慢してきたものだ。」

 むしろそう考えるしかない。アリーシア殿の働きもあったのだろうが、やはり彼自身の努力も認めるべきだ。


 「か、各国にはどのように報告いたしましょう?」

 「分からん!とにかく、アルバンを接待するのだ!」


 この大陸でも力のある国の王族が、一平民でしかないアルバンをもてなす…まさに不思議だが、彼の異常性を考えればそれは当然の事なのだ。


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