37 その男の正体予想
12話と13話の間にある【本編とは無関係】 の世界設定の部分を追加しました!
アルバンがただ精神的に問題があるキャラではなく、アリーシアに対する執着心やナルシズム・選民思想も含めて彼であるという風にキャラを作っていきたいです。
お見送りと言って、皆さんがエントランスホールにずらっと並んだ。
「お世話になりました。とても楽しい時間を過ごさせていただき、ありがとうございます。他の方達にもよろしくお伝えください。」
ぺこりとお辞儀をすると、皆さんはキョトンとした表情をしていた。
「…え?」
「フォンテ様、どうしたのだ?」
「いや…初めてそんな事言われたからな。」
「どう反応して良いか分からないっス。」
人狼の方々が言うと、皆さんがうなずいた。
「そういう時の反応なんてすぐに分かるでしょうに。」
アルバンが言うと、ジュリーさんは胸に片手を当ててお辞儀した。
「こちらこそ、もてなし甲斐があったよ。楽しい時間をありがとう、アリス殿、アルバン。ぜひまた来てくれ。」
「はいっ!」
「ああ、忖度じゃないからな。」
「今度はフォンテをボコすタイムアタックをしに来ますので、楽しみにしていてください。」
何という悪趣味。
「そういえば、次も来る予約を入れていましたよね。」
「はい、でも仁義なきタイムアタックを私の友人とやるつもりですのでお嬢様は…」
「仁義なき」という表現がとても気になるのですが。
「アリス殿ならその時の観戦は無料だよ。」
「パンケーキでも食べながら観戦席で見ていたら良いじゃない。」
ジュリーさんとルージュさんがアルバンに言う。
「深夜ですよ?」
「今日だってそんなものだったじゃないですか。ダイブ中に寝てしまいましたけど。」
私がいないと破壊して良いと思っている節があるので、アルバンの友人が誰かにもよるけど何となく同行した方が良い気がする。
「お嬢様ぁ…」
暴れるつもりなんですね?
「まあまあ、観戦の予約はいらないからその時の気分で決めても大丈夫だよ。」
ジュリーさんがそう言うなら…。
「それに、アリス殿の屋敷とこのダンジョンがつながるようになるから来る時も簡単になるしね。」
「え?!」
アルバン、私聞いてないんだけど。
「優秀な従者と優秀なダンマスが出会えばこういう事もやっちゃいますねぇ。」
「何がどうなってそうなったのですか。」
「…第1層と第3層においてアルバンに権利が発生した。」
フォンテさんが遠い目で言う。あれ、という事は…。
「アルトさんも債務を…」
「うん、そうなんだよねぇ…」
2人して同じような顔をしている。
「お嬢様、これでいつでもロスを愛でられます。」
「そ、それは…」
良い、かも。
「もちろん、私の許可した範囲内で、ですが。」
「女子会も割と簡単に出来てしまうという事ですね。」
「左様にございます。」
最高だ。
「そうだ!リーネさん、アルバンの次のダイブの前に来ますよね。」
「ええ、強い子をちょうだい。」
「日程は後にお知らせいたします。」
「ええ、待っているわ。」
バラ園の害虫の生き残りを全て移住させてやる!
「ありがとうございました。それじゃ!」
「ああ、またのご利用を。」
皆さんに手を振られながら私達はダンジョンを出て、停留所へ向かった。
馬車に乗り込み、魔力を注ぎ足して、アルバンに操縦を任せる。
「それではお約束通り、庭園へ向かいます。」
「はい!」
楽しみだ。
ダンジョン周辺の街を抜けると、高い建物が無くなって日差しが強くなったのでレースのカーテンをかける。
「すっかり日も高くなってしまいましたね。」
「いけないお嬢様。」
「あっ、アルバンが夜遊びしようって言いだしたんですからね!」
「それに乗ったのはお嬢様ではありませんか。よろしかったのですか、私だとは言え男と2人で楽しく外出だなんて。」
それはずるい。
「お嬢様と一夜を越してしまいました。旦那様と奥様に何と申し上げれば…」
「思ってもいないくせに。」
「お嬢様、随分と男の捌き方が上手くなられましたね。ルージュかリーネにいらない知識を教わったのですか?」
いや、普通ですが。
「どうしましょう、私の魅力に当てられたお嬢様から誘惑されてしまいましたら…!」
「アルバンがモテるのは分かりますが、そういう事がさらっと口から出るのには呆れてしまいますよ。」
アルバンは明後日の方向を向いた。
「…お嬢様が『この歳にもなってそういう経験が無い』と憂いていらっしゃるのを耳にして、私がいかに気が回らなかったかを猛省しております。他の家ではより上位の貴族や成金に取り入る術を教えているそうなので、この事についてお嬢様がご不満にお思いならば家庭教師がいない以上、私の業務不履行を問われてもおかしくありません。」
「な、何のお話ですか。」
「第1層のダイブの件で明るみに出ましたが、お嬢様は男性に免疫が無いご様子。まあ、これからは私と2人で楽しい生活を営むのでそこに色恋のテクなどは需要がございませんが、これではあまりにも隙がありすぎるように感じました。」
何の隙なんでしょうか。
「ですので、お嬢様の純潔を失わず、ご満足いただける方法を今の内から考えておきましょうか。」
満面の笑みで言う事ではない。
「いっ、良いです!考えなくても!」
アリス殿とアルバンを見送った後、フロアボスと創設者3名による会議を行った。
毎回客を見送った後にこのメンバーで会議を開くが、今回ばかりはいつものゆるい反省会または愚痴の言い合いではなかった。
重い空気から始まったのに、誰もその事を口に出せず、いつも通り各フロアでの損害とかかる費用などの報告、そして客に対するサービスや戦略の振り返りを行う。大体こうなるとルージュを中心として愚痴る者がいるのだが、さすがに今回はそれどころではなかった。
「…というわけ、以上よ。」
「報告ご苦労だった。」
第1層から始まり最後にルージュが第4層の報告を終えると、ついにジュリーがあの話題を口にした。
「…さて、次の話題へ移ろうか。アルバンと我々の間で、職員の詰所にワープゲートを設立する旨の契約を交わした。このワープゲートは、第1層・第3層そしてワープゲートのある場所から、アリス殿の屋敷のワープゲートのある場所を移動できる。」
「…。」
「第1層と第3層、またはそのどちらかと詰所を行き来するものではないので注意してくれ。あくまでもアリス殿の屋敷とこのダンジョンの行き来を行うものだ。」
私は近くでその契約が交わされているのを見ていたが、別にジュリーがアルバンに圧されてサインをしたわけではなさそうだった。彼の中で何かしらの打算があったのだろう。
「マスター、そろそろ私達に事の経緯を教えてくださいません?」
ルージュだけでなく、皆が納得していないだろう。ただ、ジュリーに何かしらの計算がある事が分かる以上、口を出さなかった。
「あのアルバンとかいう男…体こそ人間だが、並々ならない魔力を感じる。ただ者じゃない。」
「…それはあのアリスとかいう女もだろう?タリオンとこの私が本気になってかかっても軽く受け流していた。」
ドラス候の言う通り、アリス殿にも何かある。私の丈夫な鎧を素手であそこまでボコボコに凹ませる事など今まで第2層に来たベテランの格闘家やアマゾネスでも不可能だったのに。
しかも自分は全く傷ついていないというのだから驚いてしまう。
あれだけ暴れて恐怖を植え付ける事も、その直後だとしても悪意ではなく好意を持たせてしまうような事も、人徳で片付けていたが冷静になればいくつもおかしい点がある。
「ああ、私の檻もアルバンの補強無しにはすぐに破られそうだった。でもそのアリス殿とアルバンのものとは量と質が違う。アリス殿から感じる魔力は明らかに人間のものだが、アルバンのあれは…魔族だ。」
「魔族?!」
魔族は、我々のような魔種族の始祖だと言われている。魔族は眷属として我々のような魔種族の核を作り出し、さらに我々に従属としていわゆる魔物(魔生物)を作らせる。
つまり我々の集団でやっと魔族1人の体の機能となる。それぐらい強力な存在だ。
「で、でも魔族って…こんな所にいるものなんですか?」
「しかも人間の体に入るなんてな。魔族は人間を蔑んでるからそんな事しないはずだが。」
「理由は分からない。ただ、あのオーラと洗練された魔力は…以前、私が仕えていた魔族と同じかそれよりずっと高いランクの魔族だ。」
ジュリーは魔界出身だ。
だが、魔界の政情不安により主だった魔族が死に、彼は人間界へ眷属仲間だったドラス候や私と共に亡命してこのダンジョンを形成した。他にも人間界で認定されている公開ダンジョンのほとんどは同じような魔種族によって形成されたものばかりだし、人間界で暮らす魔種族とのその従属・眷属である魔生物のほとんどは亡命者やその子孫だ。
ジュリーが仕えていた魔族は中級の中でも上位に位置していたが、それより上となると本格的な上級魔族で、魔界における理のような存在である。
そうなればますます人間界にいてはいけない存在なのではないだろうか。
そもそもの話、血で血を洗うような魔界騒乱の際にもプライド故に絶対魔界を離れなかった魔族が、人間になりすましたり人間に仕えたりするだろうか。
ジュリーの主の部下だった私の主は騒乱の際、自分は残るがタリオンは逃げろと仰った。ジュリーの主もまた自分が死ぬと分かっていながら絶対に居城を動こうとされなかった。
ジュリーの頭部が吹き飛ばされてしまったのは、彼が最後まで「共に亡命しましょう」と自らの主を説得しようとしていたからなのだ。彼の主に厳しく命令されて私はジュリーの手を引いて裏口から人間界へ逃げだした。
「…良いだろうか。」
フォンテが手を上げた。
「食事の際に別件で話をしたんだが、その時にアリス殿が男に騙されたとか他の女にとられたとか言っていた。」
「ああ、第二王子だろう?」
ドラス候が言うと、一同は彼の方を向いた。ジュリーは知っていたようだが。
「ホント?!」
ルージュが目をしぱしぱとさせる。さっきの衝撃で2重になった付けまつ毛の外側の方が取れかかっているとはこの場で言えそうにない。
「ジョーが言っていた。昨日、城で誕生パーティーをやっていたんだがえらい事になっているそうだ。王族の大事な催しの際に第二王子の我儘を聞いて別室で機嫌を取っている許嫁の令嬢がいるんだが、今回はいなくて王族の席でただ1人ぼーっとした挙句、何か兄としゃべっていた国賓の機嫌を損ねたらしい。」
ジョーというのはドラス候の眷属のコウモリで王都のあちこちを渡り歩く。
ここ最近はパーティー後のダンジョンの客入りを確かめるために城へ飛ばして、冒険者たちのスポンサー達の動向を伺っていたようだから、正確な情報だろう。
「…やはりな。逆らえない相手だと言っていた。アリス殿はまだご傷心の様子だったが…アルバンはアリス殿に同情するそぶりを見せつつも心の中では喜んでいるように思えた。その第二王子からアリス殿を遠ざける事があいつにとって都合の良い事だったのかもしれん、と思ってな。」
鋭い…さすが人狼の頭で軍師と名高い男だ。
「単純に、アルバンがアリス殿に恋慕しているそぶりはなかったか?」
ジュリーがアルトに聞く。
アルトは淫魔で、人間だけでなくほぼ全ての存在の生殖や恋愛・好意などを感知する能力に長けているからだろう。
「…人間の体はアリスを本能的に求めています。ヒト族のメスにならオスは年中発情しますからね。でも、心では恋慕ではなく独占欲と依存に愛が振り切れています。」
「独占欲と依存、か。」
神・精霊や魔族に最も密接に関わる独占欲。
生物を作り出す神、魔種族を作り出す魔族、力を貸す精霊…すべて気まぐれや何かしらの心の動きによって大きな行動を起こす存在が世界に求められて強く持つ感情。その力の強さにより彼らは並々ならぬプライドを持っており、その尊厳を傷つけないために自らに注意を向けようと促す衝動に駆られる。
それに対して依存とは、自らを凌駕する存在に対して我々のような小さな存在が本能的にすがりつく、生きるために持つ衝動だ。子供が親を後追いするように、魔種族や魔生物が主からの寵愛のため命令に忠実であるように、人間が供物を捧げて神にすがるように。
その正反対の2つの衝動をアルバンは同時にアリス殿に抱いているのだ。その2つが彼の思いの全てだと、アルトは言い切ったのだ。
「はい。だからボクとしては…アルバン、アリスに恋人でも出来たら孤独にさいなまれてその恋人を殺してしまいそうなタイプだなぁって思います。だから嬉しかったんじゃないですか、その王子様がいなくなった事が。魔族は自分至上の考えが強いから、その依存相手が他人の物になる事も軽んじられる事も許せない。プライドこそが魔族に与えられた弱点だというぐらいだもの。」
アルトがそう言うと、フォンテはうなずいた。
「なるほど…俺はてっきりアルバンが目立つのを避けたかったがために王子から自分の主が遠のいた事を喜んでいるのかと。」
「それもあるかもね~。人間の首長の近くにいると魔族にすぐ目を付けられちゃうもんね。」
「まして高ランク魔族の気配がするとなれば殺しにかかるはず…」
「なあ、まさかと思うが、アルバンは魔界の工作員じゃないだろうな?とボスが言っているのだが。」
バルの通訳として特別にこの会議に出席しているアンジェの声に全員が絶句した。
もしそうだと考えただけでも身の毛がよだつようだ。
ジュリーの頭を吹き飛ばしながら高笑いをしていた魔族…逃げる途中で見た、主の死体を切り刻んであちこちに投げ捨てていた魔族…「ペットの残党狩りだ」と言って人間界との境界まで私達を執拗に追い回してきた魔族…。
所詮我々は弱い存在。
主やその派閥の者以外の魔族は天変地異も同然である。主を失った我々が、自分たちを忌み嫌う人間に媚びてこちらへ亡命してきた程に。ダンジョンという収容所に勝手に配属させられ死ぬまで労働を強いられようと、私達にはもう行くあてが無いのだ。
「タリオン、大丈夫?」
正面に座っていたドロシーが顔を覗き込んできたので慌ててうなずく。深呼吸をして落ち着く。
「とにかく、スピカの千里眼で反対の結果が出ない限り、アリス殿とアルバン殿は敵に回してはいけない。そして味方につけて下手に魔族と戦争にもなりたくない。だが、我々にはアルバンに付くしか選択肢が無い。」
「分かりました。」
「死にたくない者、そして守りたいものを失いたくない者は、アルバンに従う事としよう。」
「はっ!」
それが賢明だろう。
ジュリー…でもまた君が危険だったら私は私達が作り上げたこのダンジョンを捨ててまでも君を引っ張って逃げるよ。君は私達を庇って最後まで残りそうだけど、リーネ達が逃げ切るまで私とドラスも一緒に残るから、共に逃げよう。
だって私は…自分の主と君の主から最後に命令されたのだから。「ジュリーが残ろうとしているはずだから引きずってでも逃げろ」「ジュリーを守ってくれ」って。
主達はもうどこにもいらっしゃらないけど、依存は確かに残っているのだから。
「アルバンに、私達とこのダンジョンを、眷属…いや自分の一部だと思わせる事が出来れば勝ちだ。」
「…。」
それは人間界へ亡命してきた時の私のパクリじゃないか。
ジュリーが私の方を見たのでうなずき返してやった。




