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悪役(の僕)なら法に触れない限り怠慢は働きません故(黒笑)  作者: 旧プランクトン改めベントス
パンケーキ~層を重ねる度に増える贖罪(食材)~
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1 第1回婚約破棄~身内の前で~

 目が覚めると、そこはベッドの上だった。


 「アリーシア様!」

 「ああ、良かった…アリーシア、気が付いたのね?!」


 カルロッタ様と皇后陛下が心配そうに私の顔をのぞきこんでいた。

 「カルロッタ様…皇后陛下…」


 「床に座り込んで急に意識を失うものだから、医務室まで連れてきたのよ。」

 「ご迷惑を…おかけしました…」


 って!

 「アルバン!アルバン、しっかりしてください!」


 「あっ、そんな急に起きられたら」

 「お嬢様ぁぁ~っ!」  「おいっ、アルバン!」

 バタバタと音が聞こえ、カーテンががらっと開いた。


 点滴とチューブを体中に巻き付けたアルバンが現れた。


 「お加減はいかがでしょうか」  「あなたがね?!」

 私より重症じゃないですか。


 「アルバン…お前は死の淵にいたんだから蘇生した瞬間ここまで走るなんて無茶するなよ。」

 クリストフ殿下と治癒師の人達が来た。


 「お嬢様がお目覚めになられたとあらば、私1人が死ぬわけにはまいりません!お嬢様、路頭に迷う時もお供いたします!」

 「アルバン!」


 クリストフ殿下と治癒師の1人が、吠えるアルバンを支える。

 まだちょっとフラついているのに大声出さなくても良いよ。


 「うう…嬉しいけど、やっぱり雇うお金が出せないだろうから解雇すると思います。」

 「何を仰いますか!私は雇用契約が切れようとこの場合はお嬢様に付いてまいります!決してお嬢様に奴隷落ちなどさせはしません。」


 「うう、アルバ~ン…」

 すごく嬉しい。不幸中でもアルバンがいた事は最強の幸運に違いない。


 「クリス、この2人は何を言っているのですか…」

 「母上、私にもよく分かりません。」


 「大体、奴隷落ちだなんて…そんな大罪など犯していないでしょう?」

 「ベティーナがアレクサンダー殿下に大変な失礼を働いたようで、怒らせてしまったのです。」


 私はそれから3人にベティーナの事と殿下がお怒りだった事をお話しした。


 「アリーシアに罪は無いわ…いえ、一族郎党で連帯責任を負うような事でも庇うよう協力します。」

 「おい、アレクサンダーとベティーナを呼べ!」


 えっ、まだベッティいるの?!


 アルバンと目が合う。

 がたがた震えると「大丈夫ですからね、私がおります」と言って私の手を握ってくれた。


 アルバンは優秀な人材を集めたうちの使用人の中で三本指に入る程の才能があり、常に余裕と冷静さを持ち迅速な指示や提案が出来る人間だ。彼が私に手を添えてくれて少しホッとする。

 そんな彼の優しい手の指先は、ベートーヴェンの「月光」を3倍速で弾けそうなレベルに震えていた。



~ ~ ☆☆☆☆☆ ~ ~



 クリストフ殿下のお言葉で連れてこられた2人は、なぜか不貞腐れた表情を浮かべていた。

 アレクサンダー殿下は分かるんだけど、ベッティ…あなた、どうしたの?


 「あっ、あのっ、アレクサンダー殿下…この度は大変なご迷惑をおかけいたしました!」

 私がベッドの上からがばっと伏せると、アルバンも床で土下座しようとして、すぐ治癒師に慌てて止められた。


 「なぁ…さっきから何なんだ、それ?」

 「アレク!何だその言い方は!」

 クリストフ殿下がアレクサンダー殿下に詰め寄る。


 「何って、そのままじゃないですか。いきなり地べたに座るなんてはしたない真似しなかったのに。スカートの中をふわふわ浮かせながら失神するとか狂ったとしか言いようがないでしょう?」

 「貴様っ…!」


 「アレクサンダー、言い方があるでしょう?それに、アリーシアはあなたの婚約者ではありませんか!彼女が倒れた事について心配のかけらもないのですか!」

 皇后陛下は私の背中に手を添えたまま殿下を諫めなさった。


 「ああ、その事なのですが。この度、ベティーナが私の子を懐妊したのでアリーシアとの婚約は破棄しようかと思います。」

 え?


 背中に添えられた2本の手が固まった。


 「ど、どういう…」

 皇后殿下の反対側で私の背中を支えてくださっていたカルロッタ様が声を漏らされた。


 「貴様っ、もう一度言ってみろ!」

 「兄上、何と仰ろうと、ベティーナが私の子を懐妊したのは事実…ですから、誕生パーティーが執り行われる前にアリーシアとの関係にけじめをつけようと思いました。」


 「この愚弟がっ!」

 ばきっ、と音がした。


 「兄上…確かに私は殴られても当然の事をしました。アリーシアを裏切った事になるし、ましてその妹に手を出したとなれば…本当に私は最低な事をしました。」

 「当然だ!謝って済む事じゃないぞ!」


 顔を上げると、クリストフ殿下がアレクサンダー殿下の上に馬乗りになって何度も殴っていた。


 「殿下、やめてください!私が!私が悪いのです!お姉様お願い、許して…!」

 ベッティがクリストフ殿下を必死に止めようとしている。


 「この売汰が!アリーシア殿が今までどれだけ…それを全部見ていた上での所業か?!」

 クリストフ殿下はベッティにもつかみかかった。


 「やめてください、彼女に手を出すな!」

 「どの口がほざくか!」

 もちろん、アレクサンダー殿下への攻撃も止まらない。


 「…失礼いたします、殿下。」

 「止めるな、アルバン。」

 意外にも間に入ったのはアルバンだった。

 中途半端に荒々しく抜けかかっている注射器や巻きついたチューブが痛々しい腕で、ベッティとアレクサンダー殿下の両方を庇っている。


 「…くっ、クリストフ殿下っ…どうかっ、抑えてくださいませ。まだ状況がつかめておりません。」

 アルバンは肩で大きく息をしている。慌てて治癒師たちが支える。


 「…そうだな、アルバンの言う通りだ。すまない、まだ話を詳しく聞かねば。」

 「感謝いたします。」


 「アルバン、そこのベッドで休め。本当に次は死ぬぞ。」

 「はい、失礼いたします。」

 アルバンが私の隣の寝台に腰かけると、治癒師たちによって強制的に寝かせられた。大人しく点滴を直されながらもしっかり目は3人の方を見ている。


 「それで、懐妊したって…どういう意味なのです?」

 皇后陛下がお聞きになる。


 「そのままの意味です、母上。ベティーナと私はそのような関係にあり、そのまま愛の結晶が出来たのです。」


 「婚約者がいながらその妹とだなんて、汚らわしい!」

 「陛下!」

 カルロッタ様が気を失いかけた皇后陛下を慌てて支える。


 「アリーシアの前でよくもそのような事を!あなたには…あなたはっ、本当に人の子なのですか?!」

 「しかしながら母上…真実の愛の前では仕方のない事です。」


 真実の…愛?


 「たっ、確かに殿下と私はクリストフ殿下とカルロッタ様ほどは仲睦まじかったわけではありませんわ。でも…険悪ではなかったでしょう?」

 「アリーシア、すまない…君にもきっと運命の相手が見つかるだろう。」

 アレクサンダー殿下は本当に苦しそうな顔で私をご覧になった。私といるのが苦痛だったの?


 「ふざけるな!」

 私の感傷を吹き飛ばしてクリストフ殿下が怒鳴った。


 「お姉様ごめんなさい、アレクサンダー殿下は私の運命の相手のようなの。」

 「運命で全て事が回るとお思いですか、妹様?」

 アルバンの鋭い声がした。


 「アルバンには分からないでしょうけど…私、諦めきれないの!」

 ベッティは私を見た。

 アレクサンダー殿下とベッティの目からは…私に同情を呼びかけるような感じを受けた。そっか、私は邪魔なんだ。


 「…どうして今日なのですか。」

 「どういう意味だ、アリーシア?」


 「…明日のために、私は殿下へのプレゼントとしてお揃いの懐中時計を作らせたのです。2年前から発注して職人に一つ一つ手作りさせて…互いの名前を彫った物です。」


 今日の昼、届いた。殿下の金、私の銀…きらっと光ったのが嬉しくてお手紙をそっと箱に入れたのを思い出す。私の分は明日に備えてクローゼットの宝石箱にそっとしまった。

 出かける直前の話。涙が溢れてきた。


 「…アリーシア、本当にすまない事をしたと思っている!」

 もうさっきからそんな事を言わないでほしい。自分がどれだけ嫌な人間かという事を思い知らされているのだから。


 「…殿下、そして妹様…いつからのご関係ですか?」

 アルバンは冷たく言った。


 「それは…」

 「去年の10月頃からですわ。」


 「という事は、殿下のお誕生日の後…」

 カルロッタ様がこぼした。


 「あの時、殿下は…16歳になったけどしばらく執務などにいそしまれるという事で、すぐ私を帰されましたよね。それなのにベティーナとは関係を持つっておかしくありませんか。」

 涙は溢れているけど、頭はなぜか冷静だった。


 「お嬢様…」


 「だから王宮に私の部屋はいらないと私に申し出るよう仰いましたよね。だから私は…両陛下にそう申し出て、執務の妨げにならないよう家から仕事のために通っていたのです。それを全てご存じの上で…ベッティとそのような関係にあったのですか。」


 「アリーシア…」


 「これまで何度も何度も私にお手紙をくださっていたのに、いまだに綴りが煩わしいって『アロイジア』って呼ばれますよね。今日だって会った瞬間に『腹立つ顔』って…ベティーナが最初から良かったのならその時にそうおっしゃってくださればよかったではありませんか。」


 皇后陛下とクリストフ殿下そしてカルロッタ様が私をご覧になった。その顔は…全て初耳なんだだろう。

 「ほ、本当ですか、その話?!」


 「ええ…今までそういう素直な所も含めて私は殿下を支えるつもりでした。しかし…全て私への嫌悪感による嫌がらせだったんだな、と思って。」


 「何て酷い…気付けなくてごめんなさい、アリーシア様。」

 「カルロッタ様が謝られる事では…」


 「愚弟が、すまなかった!」

 「殿下まで…」

 義兄となるはずだった人と義兄妻となるはずだった人が頭を下げた。


 「アリーシア…でもストレートに言えば君を傷つけてしまうと思って。」

 「馬鹿者!お前のした事全てが人間のする事じゃないんだ!」

 「兄上…っ!」


 そういえば…かつてこれほど、アレクサンダー殿下が私のために体を張ってくださった事があっただろうか。それをベッティのためにはするんだなぁ…。

 「これが真実の愛、か…」


 「本当にすまない、アリーシア!」

 「…分かりました。」

 どうにでもなってしまえ。


 「婚約破棄を受け入れます。アルバン、ベッティを連れて帰りましょう。」


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