アカリ
リュウジ「おれはもうダメだ…。いいか、絶対に携帯で外と連絡しようとするな…。恐ろしいことが起きる…。いいか、絶対だぞ!」
プツッと通話が切れる。
シンイチ「今なんて…」
ユリエ 「リュウジが…、『おれはもうダメだ! 絶対に携帯で外と連絡を取るな! 恐ろしいことが起こる』って…」
アカリ、片手で目を押さえてしゃがみこむ。
ユリエ 「どうしたの!」
アカリ、手でユリエを制する。
アカリ 「ごめん…、ちょっと立ちくらみが…」
ユリエ 「疲れてるんだよ…。部屋で休もう」
ユリエ、アカリのとなりにしゃがみ、シンイチを見る。
ユリエ 「空き部屋はふさがってるから、女部屋で寝かせるよ。あたしが送っていく」
ユリエ、アカリを立たせて上手客席側に退場。
シンイチ「(あたりを見回して)さて、どうするか…」
テツヤ 「…、さっきの電話、本当にそんなことを言ってたんだろうか」
シンイチ「ユリエを信じないのか?」
テツヤ 「おれには着信音しか聞こえなかった。通話も聞こえなかったし、リュウジからだっていうのも、ユリエが言っていたのを聞いただけだ」
アツシ 「おれの位置からは聞こえたよ。確かにそういう内容だった」
テツヤ 「おれは聞いてない」
シンイチ「アツシも信じないのか!?」
テツヤ 「おれを一方的に殴っているリュウジを、一切止めなかった奴らを信じられるか?」
シンイチ「だったら、外に連絡取ればいいだろ」
テツヤ 「やだよ。もしかしたら本当に何かあるかもしれない」
シンイチ「怖いのか?」
テツヤ 「へえ、おまえ怖くないのか。だったら自分で電話すればいいじゃねえか」
シンイチ「おれはリュウジとユリエを信じる」
テツヤ 「いやな仕事は一番弱い奴に押しつけようってことだな。同級生に一方的に殴られるような…」
アツシ 「待て! 携帯を使わなくても外と連絡する方法がある」
テツヤ 「どうするんだ」
アツシ 「歩くんだよ…」
アツシ、上手(ユリエが退場した場所よりも奥側)に歩いていき、パントマイムでドアを開ける。ものすごい吹雪の音。アツシ、パントマイムでドアを閉める。
アツシ 「(下手を見て)やっぱやめた」
テツヤ 「行けよ!」
アツシ、もう一度パントマイムでドアを開ける。猛吹雪の音。さらに上手に進む。一度退場する。うしろ歩きでもどってくる。
アツシ 「くっそー!」
テツヤ 「バカバカしくてやってられるか」
テツヤ、下手に退場する。アツシ、もう一度同じことをする。
シンイチ「悪いがアツシ、今回だけはおれもテツヤとおんなじだ!」
シンイチ、下手に退場する。アツシ、それでも同じことをする。上手客席側から、ユリエが登場する。
ユリエ 「…何やってるの?」
アツシ 「外と連絡しようとしている」
ユリエ 「…冷えピタか何か持ってない?」
アツシ 「おれのバックの中のジップロックに入っているから勝手に持ってけ…。くそ…、せめて風向きが変われば…」
ユリエ、アツシのバックを開けながら言う。
ユリエ 「それじゃ、もどってこれなくなるんじゃないの?」
アツシ 「その時は、もう一回風向きが変わって…」
ユリエ、冷えピタを持って立ち上がる。
ユリエ 「それじゃ、あたしはもう一度アカリのところに行くから…」
ユリエ、上手客席側に退場。
アツシ 「あ…、ちょっと風向きが変わったぞ…」
アツシ、上手奥側に退場。舞台に誰もいなくなる。間。アツシ、後ろ歩きで上手奥側から登場。
アツシ 「ああっ、また風向きが変わった…」
舞台外からユリエの悲鳴。
ユリエ 「きゃぁぁぁぁっ!」
アツシ 「どうした!」
ユリエ 「(舞台の外から)アカリが…。アカリが!」
アツシ、走って上手(客席側)に退場。下手からシンイチが走って登場。
ユリエ 「(舞台外から)死んでる!」
シンイチ「なんだと!」
テツヤ、歩いて下手から登場。舞台を横切って上手客席側に退場。舞台上に誰もいなくなる。以下の台詞は舞台外から聞こえてくる。
シンイチ「これは…」
ユリエ 「アカリ…」
アツシ 「何てひどいことを…」