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閑話休題 マリウスとルシウス

少女を抱えて男は動いた。

なるべく揺らさないようにするが、再び背後からは轟音が響き、突風が体を襲う。

足を止め少女を庇うと、男の背中には破片が当たる。顔を顰めるが風が弱まると再び進み始めた。


建物の中は蜂の巣をつついたように大騒ぎな状態だった。

怪我をし血を流すものもいる。その騒ぎの中心辺りにいる人物の姿を認めると、男は大きな声を張り上げた。

「足に木の枝が貫通してる!出血も多い…早く見てくれ!」

その声に弾かれるようにもう一人の男が抱えられている少女を見た。

少女を抱えた男は近づくとゆっくり少女を下ろそうとしたが

「きゃああ!」

轟音と共に、地面が揺れた。少女を落とさないようにバランスを崩し尻餅をつきながらもなんとか男は耐える。

周りからは悲鳴が上がった。

上に吊るされたシャンデリアが大きく振り子のように傾いだ。

少女を抱えた男の脇では腰を抜かしたメイドの女が唇を震わせ、顔を強張らせている。

いや、皆、顔色を失っていた。

美しかった屋敷内も、灰褐色の粉塵にまみれ、色を失っていた。


「屋敷にいる者は全て退避せよ!旧館の避難通路を開けた…繰り返す、全員退避せよ!一人も死ぬな」


凜、とした声が響いた。

距離は離れているのだろう、姿は見えない。

ただ、その声を聞き、メイドは顔色を取り戻した。まだ青白い唇を閉じている。

あたりでも、まだ動けるものが、動けないものを助けながら、ある方向へと歩みを進め始める。


その人混みをかき分け、軍服姿の肩まで髪を伸ばした女がマリウスとルシウスの前に現れた。

「客人、遅くなって済まないな…ただ、ご用件は伺えそうにない。王都はおそらく戦争に入った。

…安全な場所までご案内しよう」


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