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お仕立て モンゴメリーカラーのジャケット 5

「ニアは本当に街のこといっぱい知ってるのね。そういえばこの街の出身なの?」


 歩みを進めながら話すと、少しニアは考えるように視線を仰いだ。


「生まれは知らないですが、覚えてる限りは…街にいたのです」

「…もしかしたら、聞いちゃいけないこと聞いた?」

「別に構わないです。隠してもないし、婦人はわたしの事をある程度は知ってます。

 この街が好きで、色々知ることが多いだけなのです」

「確かに。こないだ絶景ポイントも教えてくれたしね。」


 商会の婦人は確かにニアと付き合い長そうだし、きっと小さいときから知ってるんだろうな。今も小さいけど、もっと小さく、よちよち歩きしているニアを想像したら思いの外かわいくて、思わず頬が緩みそうになったが…


「着きました。…邪魔なのです」


 半円のような入り口がある辺り、町中なのに男の人たちが多数たむろし、雰囲気がいつもの街と違った。

 男の人たちの回りには、剣や槍、斧、とにかく不穏である。たむろする男が数人、私とニアに近づいてくる。

 ニアは足を止めた。

 私は…足が震えた。


「こんな状態とは知らなかったです。リゼ用事に先に行くべきでした」

「お?お姉ちゃん、リゼちゃんっていうのか?ちょっと遊ばねえ?

 俺たちあんた達のために戦うんだからさ、ちょっとぐらい良いだろ?」


 赤毛の髭を生やした一人の男が小さく呟いたニアの言葉を受け、私の肩を掴む。

 思わず嫌悪感が走り、鳥肌が立つ。

 震える足が邪魔をして体を退くことも、逃げることも出来なかった。


「おいおい、娼婦以外に手だすと後がヤバイぞ」


 遠巻きにした男達はカードゲームに興じながら声をかける。囃す声が入るから助けてくれるわけではない。


「気づかれなきゃ平気だろ。どうせ明日には俺は斥候で向かう予定だし。

 なあ、姉ちゃん、ちょっと話そうぜ」


 男は私の肩から腕に手を移動し、無理に引っ張る。足が動かない私は腕だけ引っ張られ、声が漏れる。

「いた…」

「…私がお相手するのです」


 腕を引っ張る力が抜けた。見るとニアが荷物を下ろし、男の腕に手を掛けている。


「ああ?ちいせえのは好みじゃないんだ。はやく退いて貰おうか」

「黙れ、痴れ者」


 小さいニアの声がしたかと思うと、ニアの様子が変わった。変化は些細だった。

 ニアの青い目の色が紫掛かる。

 ニアの歯がぎりっと音を立てた瞬間、男が私から手を退いた。男の腕から骨の音がする…


「な、なんだ…こいつ…」

「貴様等、なにしてるんだ!」


 同時に大きな声が後ろから響いてきた。雷みたいな大きさで、男達がたちまち武器を手にする。

 ニアは男の手を離すと、男も尻餅を一回着いてから、武器を抱えて逃げ出す。


「お、おい。さすがに騒ぎになると金貰えなくなるぞ!行こうぜ!」


 回りで囃していた男達も蜘蛛の子を散らすように霧散した。

 人が背後から来たのを見たとき、ホッとしたが…髭むじゃな熊みたいな様相な大きな人がきて、私はへなへなと腰を抜かしてしまったのだった。

 熊みたいな人の背後から、ひょこっと見たことのある眼鏡を掛けた人が顔を出してきた。


「大丈夫ですか?あ、この人は熊ではないですから安心してください」

「あ、あれ?マリウスさん?」


 前に赤ちゃんを助けてくれたお医者様と…おっきな熊のような2人組がそこにいたのだった。

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