お仕立て フォックステール 終
えーっと、この甘々な雰囲気の中でご飯を食べるとか、私も図太くなりました…
ボブの髪で顔を隠しながら恥ずかしがっている様子のユーディト様の様子と、それに迫っている騎士団の制服ではなくてタバード姿のクルトさん。
おおっと、ここでユーディト様が声を荒げたものの、クルトさんはニコニコしているぞ!
思わずお芝居を見ているような気分ですな。
そうこうしているうちにユーディト様がクルトさんを振り払って私のほうに歩いてきましたよ。あまりにも凝視しているのがまずいと思い、慌てて視線を外します。
「…何もいうな…」
私の前に座ったユーディト様は、肘を立てて手を組み、その上に額を置いた。
「もぐもぐ…仲良さそうですね。新婚さんなんですか?」
ユーディト様とクルトさんが来たので、私も舞台に上がったみたいです。お二人のラブラブがどれだけ続いているのか、トーストの上に乗せたスクランブルエッグをほおばりながら聞いてみましょう。
「いや、もう結婚3年…とか言わせるな!」
「いつまでも新婚気分でいたいのですが、ユーディトがなかなか照れてしまってね」
「クルトは絡むな!!」
ユーディト様は椅子から体を反らし後ろにいるクルト様睨む。でも、ははは、と笑うクルトさんには暖簾に腕押し状態です。…これ、ユーディト様勝ち目ないんじゃない?
目の前でラブラブが繰り広げられてしまっているので、私は早々に退散しましょう。
パンを急いで咀嚼すると、お水で流し込んだ。
椅子から立ち上がり、体を翻しながら伝える。
「ごちそうさまでした…お邪魔みたいなんで、お部屋で荷物まとめてきますね!」
「リゼ、待っ…ん」
うん、クルト様、完全に待っていたな、これ…なんだか悩まし気な声が漏れてきますが、急ぎダッシュで私は部屋を後にした。うん、後のお部屋の様子を見ていませんよ?
そんな出歯亀いたしませんって。
部屋で荷物を整理する。フォックステールの採寸は終えているが、さすがにそれ以上のことを公爵様のお部屋ではできませんでした。ごみ出ちゃうし…
採寸内容を書いたノートをしまい、自分の服を整える。
部屋にある三面鏡を見て、髪をとかして身支度を整えているところで、ノック音がした。そのままユーディト様がのろのろ入ってくるのを鏡越しに私は見た。
「リゼ…」
「ユーディト様、御髪乱れてますよー」
「え!!」
三面鏡の鏡越しに顔を上げたユーディト様は乱れた髪の具合に慌てて、三面鏡に近づいてきた。
私の近くに置かれた櫛を手に取り、髪をとかした。きれいな櫛のといた跡が髪に残る。
きれいに身支度するのと同時に、ユーディト様の様子が戻ってきたようで、いつものようなユーディト様が私に向かい声をかけてきた。
いつもと同じ張りのある声が、戻ってきた。
「私も外出の用事があるから、家まで送ろうリゼ」
「はい。…あ、そうだ。その前に…昨晩何が私に起きたんですか?」
私は三面鏡から視線を外し、ユーディト様を見つめる。
ユーディト様と視線が合うと、そうだったな、と返事が返された。
「私のほうで、リゼの中に残った魔女の魔力を追ってみただけだった。
そこでリゼが意識していない、魔女との接点をリゼと一緒に見つけるところまでだ。」
「じゃあ、私が見たのが魔女の姿なんですね」
夢の中で見た女の子。一人ぼっちでいた女の子。クルトさんのご先祖さんと仲良くなって、戦いに駆り出され…
思い出すと、女の子の姿がありありと想像できた。ユーディト様の声で、我に返った。
「リゼが魔女と一緒にいたくない、と強く願うならばそのうち接点は外れると思う。でも、魔女を思うならば、接点はより結びつき、融合する。
…そうなるとどうなるのか、私は知らない。でも力が強いほうが融合した後の主導権を握るんだろうな。」




