お仕立て フォックステール その12
「でもなんだろう、この違和感。あの子は今とってもいい顔をしているのに…」
その違和感の正体はすぐわかった。彼女がいる場所は人が死ぬ戦場で、その場所で一番明るい表情を見せていたからだ、と気づいた。
公爵は明るい表情はない。ただ、淡々と、地図を見て指示をしているだけ。
あの子が、やたらと張り切り、機械に跨がり操作している。
カラカラと音を立て、長い梯子状の物が鉛玉の武器を指し示された方に飛ばす。黒い鉛の武器はとても高く、遠くに飛び、空中で分裂して火矢となり、地面に降り注ぐ。
遠く聞こえる怒号、悲鳴、罵る声。
それが意図することは恐らく…私がここにくるまでに見てきた惨状。
やがて、鉛玉は飛ばなくなり、辺りに鬨の声が響く。
女の子も紅潮したように、手を振り上げ、鬨の声に賛同する。
「…どうして?」
私は頭を振った。意味がわからない。
そんな私の脇に公爵がくる。その顔は、目の端に皺がより、眉がつり上がっていた。視線だけ、女の子に向け一瞥する。そのあとは振り返ることなく、背を向けて歩を進める。
回りの人たちも、公爵の進む方向に歩を進め始める。
離れていく、鬨の声を上げ続けるあの子と、離れていく公爵。
「…ねえ、いつまで戦うつもりなの!?まだ人を殺めるの!?」
私はあの子に近づき大声で叫んだ。
あの子が鬨の声を上げるのをやめた。
「だって、こうしゃくさまがたたかいなさい、っていったから。だからわたし、たたかうの」
はじめて、あの子が私に答えた。…この声は、イズミさんの妹さんの声だ。
私は気持ちを奮い立たせるように、大声を再度上げる。
「いつまで戦うつもりなの?いつまで人を殺すの?」
「こうしゃくさまが、やめ、っていうまで」
「じゃあ、止めなさい、と言われたら止めるのね。…自分で止められないのね…」
この子は、自分で考えを持たなかったのだ。人の言葉に従う道しか知らなかった…それは悲しくて、私は最後の言葉は声を張り上げられなかった。
代わりに胸に思った言葉がポツリと口に出る。
「私、あなたを止めたい」
「どうして?たたかって、ころしたらこうしゃくさま、よろこんでくれたのに。どうしてむりやり、やめさせようとするの?」
「…私はおかしいと思うから。
人に虐げられ、涙を流していた悲しかった感情に蓋をして、代わりに他の人に不幸を擦り付けようとしているから。
それが誰かの命令によるものでも、拒む心があなたのどこかにあると思う」
あの子の目が細く三日月のようにニタリと笑う。
「ないよ、魔女には」
「あると思うから…私は貴女にもその心はあって、出せていないと思うから…」
ニタリと笑うあの子の顔が怖かった。魔女は怖かった。
でも、止める糸口になるかもしれない。
私は、ゆっくり歩を進めた。
魔女の前まで来て、右手で魔女の手をとる。
「貴女に会いに行く」
魔女と繋いだ手のメジャーがほどけたかと思うと、ひとりでに蛇のように動き。
魔女と私の腕に絡み付いた。




