表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/99

お仕立て 舞踏会ドレス 9

 なかなか戻ってこないリゼを気にかけ、リトが庭に入ると、リゼは暗い中、椅子に座ったまま手を見つめていた。

 押し黙った様子がいつもと違い、思わずリトは声をかけることを少し躊躇したが、少し近づいてみる。パキッと足元で何かが鳴り、リゼがすぐ顔をあげた。

 こわばった顔はすぐ融解する。


「あ…リゼ姉、手大丈夫だった?」


「リト…うん、大丈夫よ。もう痛くないし…お腹すいちゃったし、何か用意しよう?」


 椅子から立ち上がると、リゼは後ろ手にして、リトに話しかけた。

 その様子はリトが知るいつもと少し違っていた。




「何ブスッとしちゃってるの?」


 翌日、私は商会にまたまた足を運び、衣装に刺繍をすべく針を運んでいた。ヴォルフラムが私に茶々を入れるように声を掛ける。

 いつもなら茶々には軽口を返せると思うが、昨晩の公爵婦人とのやり取りが頭の中に残り、なかなか普段の気持ちに切り替わらなかった。


「…特に問題はありません!さくっと終わらせちゃいましょう、ヴォルフラム!」


 私の返しにヴォルフラムは大袈裟に返してくる。生地の大きめ切れ端を頭から頭巾のようにかぶり、


「うわっ、怖いわねえ。まあ、そのエネルギー、刺繍仕上げるのに使ってくるなら良いんだけど」


 なんて返してくるものだから、言葉を返す気力も舌打ちする気力も萎えてしまい、私は黙々と刺繍に打ち込んでいた。



 どれぐらいの時間がたっただろう。

 空が青に赤い光が混ざる頃、ギィっと扉の音を響かせ入ってきたのはニアだった。


「リゼ、ひとりですか?」

「あ、ニア。うん。そうなの」


 ヴォルフラムは部屋にはもういなかった。

 来客があったのか、何か用があったか。おざなりに話を聞いていたので、良く覚えていない。何か話をしていたはずだが。


「そろそろ店も閉まる時間です。

 私も買い物行くから途中まで一緒に行きます。帰りましょう」


 ニアに言われて、少し思索した。が、かわいらしいニアに似つかわしくない怪力を思い出し、のろのろながら帰りの支度を始めた。

 考えてみたら、私一日針仕事でずーっと根詰めてて、首肩が痛かったのよ。なんだか、気持ちも乗らなきゃ、体の調子良くなくて、ニアの誘いはありがたいながらも気持ちは上がらずじまいだった。


 商会を出て、夕日の中を歩く。

 下り坂を少し降りた辺り、ニアが私の手を引っ張る。


「ちょっと寄り道!こっちです」

「え!!ちょっと、私早く帰りたい…」


 言いはしたものの、ニアの力は強くて…違う、痛くて、私はニアのペースになるべく合わせて横路に入る。

 ぐねぐねした横路を過ぎ、急な坂を上がり、王宮が右手に見えて…

 ああ、遠回りしている…

 やっとニアが足を止めたとき。

 私の腕も解放されたけど、そこには赤い手の跡が…

 脱力している私の脇でニアが先を指差す。


 そこには今まさに沈もうとしている太陽が見えた。空が真っ赤で、光がすでに半分以上欠けている。まるで残り火だけ、小さくポツンとあるようだ。


「太陽が沈む所、始めてみたかも…」

「私からしたら王都なんて背…じゃなかった、庭みたいな物ですから、良いところいっぱい知ってるんです。

 私は良く分からないですけど…リゼ、今日不機嫌そうなので、元気出してください」

「…ありがとう、ニア。そして不機嫌丸出しでごめん…善処します。」


 やがて火は消えてしまい、まだ空の赤だけは残っていてくれていた。

 同じように一日不機嫌だった私の気持ちも沈んでいったのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ