お仕立て 舞踏会ドレス 8
私の視線を受け、ユーディト様は少し離れると庭に備え付けられた椅子に座り、テーブルに肘をついて顎を乗せる。
明るい日の下だったらとてもよい被写体になりそうだけど、残念ながら私はお針子だし、今は夜だ。
「そうだね。君は知らないみたいだから…まあ、私はとても長命で人ではない、と思ってくれ。
人ではないが、昔人と交わした盟約の元で、我らは王都に潜み、フォクツ公爵家を護る責を持ったんだ」
ユーディト様は手招きをして、私を椅子に座るよう促す。
私はその誘いに乗り、椅子に座りユーディト様と対峙をしているような形になった。
「…私は長く生きてるし、ずっと私たちは護るために王都に潜んでいるから、君たち人間よりは魔女の事を知ってる。
知ってるのは彼女が初代フォクツ公爵をずっと想い、今も想い人に似ているクルトに想ってることだけ」
「…」
やはり話の意図が分からない。私が気にしているのは、私が魔女か、だけどもユーディト様の話が正しいなら、私は魔女ではない。
魔女はどうやって私のところに来て、どうやって魔力の扉なるものを抉じ開けたのか。そして何の思惑があるのか。
すべてユーディト様の話が正しいなら、気になるのはそっちだ。
「残念ながら、私は魔女ではないから魔女の考えは分からない」
ユーディトは肩を竦めて、私の沈黙で考えていたことを牽制するように話してきた。
ユーディトはグッと身を乗り出すと、私の顔を見る。
「そうそう。君は魔女になりたい?」
「なりたくないわ」
何を言うのだろう?
思わず公爵婦人の話に顔が歪む。嫌な思いを魔女のせいでしてきたのだ。嫌に決まっている。
公爵婦人は「ふうん」と小さく呟き目を丸めると、組んでいた手を外した。不意に手を伸ばし私の手を取る。
私は手を引っ込めると、公爵婦人の手に先に掴まれたリトから手当てに渡された白い、所々酸化した血で汚れたタオルが残る。
返してほしかったが、先程の質問が胸をムカムカさせて、頭が熱くなり上手く舌が動かなかった。
「じゃあ魔女の痕跡、取ってあげよう。時間がかかるから今度服を仕立てるときに、泊まっていくと良い」
私の様子に気も止めず、公爵婦人はそういうと、椅子から立ち上がる。
何もないところを撫でると、公爵家の部屋の中が再び見えた。
「それじゃあ服の出来上がり、楽しみにしてる」
公爵婦人がその前に立つと、白いタオルをひらめかせた。そして公爵家の部屋が下記消えると同じくして、公爵婦人の姿もかき消えたのだった。




