お仕立て 舞踏会ドレス 3
「公爵家ってすごい…」
門にいた門番に話をして入らせてもらうと、緑の広場が広がり、奥には白い建物が3棟建っていた。
3階建ての建物が中央に鎮座し、窓の数でかぞえても一つの階だけで10室ぐらいはありそうな…
右側の建物は2階建てで煙突があり、煙が立ち上る。脇に井戸も見えるから、炊事場などがあるのかもしれない。
左側には中央の建物と同じく3階建て、色が少しくすんで見える。
その左側の建物に入っていくヴォルフラムに私はキョロキョロしながらニアと同じように着いていく。
左側の建物には年嵩のいった女性がおり、ヴォルフラムと会話を始めている。
「初代のフォクツ公爵様はまたすごい方なんで!…ってお話があるのです。
この国は元々なにもない小国だったのですが、ドラゴンが住処として選んでしまって」
ニアの話を聞いていたが、聞いたことがない話が突然入ってきて、思わず声が大きくなる。
「え!?ドラゴン?」
年嵩の女性とヴォルフラムがこちらを見る。ニアがしーっ!と小さく言うので私は縮こまった。
「!えっと…おとぎ話です!昔々のおとぎ話ですし!い、今はいない、んじゃないかな…」
建物の中に招き入れられる。エントランスから2階に続く階段は中央から始まり、左右に階段が別れている。
エントランス中央には甲冑があり、ちょっと邪魔そう。ニアがその甲冑を見て止まってしまったので、小声で言う。
「ニアはおとぎ話に詳しいの?それでそれで?」
ニアが少し歩きを早めて、私と並ぶと階段を登り始める。ニアは反物の間から前を見ながら歩を進めている。
「フォクツ公爵様は困っている民のために、魔法使いと力を合わせてドラゴンを封印して…それで…」
階段の半分を過ぎて、ニアの言葉は途切れがちになった。年嵩の女性が部屋を指し示したので、3人ともその部屋にはいると、年嵩の女性は行ってしまった。
「ニアのお話はじめて聞いたわ。王と魔女が喧嘩をして、それから魔女が攻撃してくるって話は聞いてたけど…」
「もう少し静かにしてなさいよ、2人とも。まったく…」
ヴォルフラムが呆れたように言うと、部屋に備え付けられていたテーブルの回りの椅子を片付け出す。
「リゼ、ニアが話すおとぎ話は他では聞いたことないのよ。
どこから仕入れた話なのか、空想の話なのか…」
ヴォルフラムの言葉を聞いて、ニアは頬を膨らませるも、特になにも言わなかった。
手にした箱を下して、ヴォルフラムが片付けた椅子に座る。
「さあ、仕事に取りかかるわよ。
ユーディト様がこれからいらっしゃるから、リゼは生地をそちらのテーブルにお出しして。
ドレスのデザインはユーディト様にもお話しするから、一緒に聞いててちょうだいね」
「は、はい!」
私は箱から反物を取り出し、テーブルに並べた。
青の反物と白の光沢のある反物が多いかな?
「…空想の話…か。時間は残酷ですね、公爵様」
2人に聞こえないくらい小さい声でニアは呟き、椅子の上で膝を抱えた。
準備が整えられそうなタイミングで、少し離れた場所で人が話す声が聞こえてきて、ニアは顔をあげ勢いよく、椅子から降りて部屋の扉に向かう。
「お話長くなりそうだからお外で遊んできます!」
元気にそう言うと、早々に部屋を後にしたのだった。




