お仕立て 舞踏会ドレス 2
バルテン商会に着いたらニアとヴォルフラムが既に準備を整えていて、二人の足元には箱に入った反物が見えた。
「ニアも一緒に行けるのね。ニアもお針子仕事するの?」
話しかけるとニアは首を振り箱を持つ。
「この子は荷物持ち。力あるからね」
確かに~。ざっと見ただけで反物が十本以上箱に立てて入れられてるんですが…これ持てちゃうなんて、ニア、すごい。
「そうなんです。わたしだと逆に針折っちゃっうので、反物とか、道具を持っていくお手伝いをしてます!」
「え…針って…折れるの?」
堅い生地に細い針を刺して折っちゃうことはあるものの、ヴォルフラムのジェスチャーは右手と左手をまっすぐから木でも折るみたいに、ボキッというジェスチャーをしている。
「そうこの子折っちゃうのよ。結構何本も折ってるのよ?
でも力は強いからね。荷物持ちをよくお願いしてるの」
確かに歩きだしたニアはふらつきもしない。箱から飛び出す反物の方がニアの身長を越えていた。
急勾配な坂道に差し掛かるとニアの歩みは遅くなってしまった。これだけの重量、そうだよね…
「バルテン婦人は人扱いが酷いのです。
でもあそこから離れられないですし、ご飯は美味しいですし」
ぶつぶつ呟くニアの近くにすすすっとヴォルフラムは、寄っていきこっそり合いの手を入れる。
「それにクルトにも会えるかもしれないし?」
ガバッと俯いていたニアは顔を勢いよくあげた。ヴォルフラムを睨む。
「!!!…クルト様ではないのですが…まあ……」
「妻子持ちなのに好きよね~」
「…」
ため息を着くとニアはこの話題にはもう口を開かなかった。また少し俯きがちに箱をもって足を進めている。
急勾配の坂が終わる頃、立ち並ぶ家の雰囲気がガラッと変わってきた。ひとつの区画が先程よりもずっと広く取られた家ばかり視界に入る。
中にはきっと庭師さんが作り込んだと思わしき、ウサギ型にカットされた木があったりして、庭にかける手間も桁違いになってきた。
ヴォルフラムがすこし先にある建物を指差す。
「さあさあ、フォクツ公爵家につくわよ。
あ、リゼに話をし忘れていたわ。クルトの祖先、初代のフォクツ公爵はね、人ならざるものに気に入られて加護受けてたって話があってね。
今のフォクツ公爵家には、まだまだ妖精やら小人やら隠れてるから、色々隠してきたりイタズラされやすいけど怒っちゃダメよ」
なにそのメルヘンちっくなの。妖精とか見たことないよ!
坂道をずっと上ってきて足がパンパンだったけど、心なしか軽くなった気がした。




