お仕立て 舞踏会ドレス 1
ファティマに直したバックを渡した数日後。私はサラの寝巻きを仕上げたのと時期を同じくしてファティマは旅立っていった。
「リゼ姉、仕事始めるとか大丈夫なの?」
ファティマが旅立った翌朝。ヴォルフラムさんデザイン服のお仕立て手伝いをすることが決まった私は、リトと食堂で朝食を取ってる。
今朝はシンプルにポトフとパン。ニンジンが甘いわ~。
ソーセージも、王都はハーブをふんだんに使ったものが多くて、シンプルな村のソーセージともまた味わいが違うので美味しいです。
「大丈夫だよ~。もうサラの服仕上げたりとか大分勘も取り戻せたし、逆に私は仕事しないとぐーだらし過ぎて鈍っちゃう」
頬張っていたものを飲み込んでからリトに答える。
「わーかーほりっくって言うらしいよ、そういうの。…無理しないで」
ボソッとリトが視線を落として言う。リトは私が外出するのをずっと渋っていたけど、家の中でもお針子仕事をしている私を見て、最終的に折れてくれたのだ。
「うん、気を付けます!
そういえばリトはこのあとどうするの?」
努めて明るい声で答える。
いつもと違い、ローブを着ているリトの姿からどこかに行くのだろう。
「カイさんの口添えで騎士団の学習施設でたまに勉強してるんだ。
カイさんから前から魔術師素質があるから、って前から誘われていて、今日はちょっと実践式にやるんだって。
あ、リム姉」
食堂の扉があき、ギンガムチェックの包みを胸元に抱いたお姉ちゃんが入ってきた。
「はい、リト。お弁当。
リゼはカイが聞いた話ではご用意頂けるから大丈夫だと思うわ。今日からバルテン商会のお仕事受けるのでしょう?
バルテン商会、王都でも老舗中の老舗なのよ。何でも建国当時からあるそうよ」
リトの脇に置かれた包みは片側丸く曲線か形作られているところを見ると林檎が入ってるのだろうか?
お弁当に気をとられていたら話を振られ、お姉ちゃんに向き直る。
鳥がいた金属作りの門構えを思いだし、やがて中にある壁一面の反物に記憶が繋がっていった。
「確かに、すごいお店だったよ。生地とか今まで見たことがないぐらい多くて」
「羨ましいわ…私もまだバルテンの店主には会ったけど、店舗には行ったことがないのよ。
王都に流通するものは取り扱われているし、建国当時からの歴史があるから、古いものもあるらしいのよ」
あの門構えと店の中の床を思い出すと頷ける。一階しか行かなかったが、ニアがいた2階や下に続く階段もあったから、まだまだ広がっている商会であることは想像に堅い。
ニアがいた2階は利用されてるんだろうけど、カウンター挟んで隣にあった地下に行く階段は鉄格子の扉があったし…
「お姉ちゃんの話聞いてると、気になってきたー!」
今度お願いしてみたいなあ。
外から教会の鐘の音が聞こえてきた。
「あ、俺そろそろ時間だ。行ってきます」
パンを口に放り込み立ち上がって行こうとしたリトにお姉ちゃんは空かさず声をかける。
「あら、リト、お弁当忘れずにね。行ってらっしゃい」
食堂の扉前まで行っていたリトはパタパタ戻ると、お弁当を手に取り足早に食堂から出ていった。
食べていた私も急いで咀嚼する。お皿の上のものはもうパンが一欠片だけだ。
「リト、行ってらっしゃい~。私もそろそろ支度して行こうかな」
一欠片にバターを付け、頬張る。
「…リゼ、送りましょうか?」
お姉ちゃんが私の顔を覗き込んだ。心なしか暗い顔をしている気がする。
「お姉ちゃんも、商会のお仕事あるんでしょ?
私なら大丈夫。カイさんから昨日地図かいてもらったし。大通り沿いだから、治安も良いってカイさんも話していたじゃない」
一昨日地図を渡してきたカイさんと言い争いまでは発展してないまでも、押し問答になっていたのだ。
「そうはいっても、心配なのよ」
ふうっとお姉ちゃんは、息をつくと頭を振り、自分で軽く頬を叩いている。
「もー、お姉ちゃんの心配性!私はもう大丈夫。
もちろん気をつけて行くから」
こっそりお姉ちゃんが不在な時に、ファティマに頼んで歩いてバルテン商会までも行ってみたのは内緒である。
「本当に気をつけてね」
お姉ちゃんは手を伸ばし、私の髪を撫でてくれた。
もうっ!私は小さい子じゃないんだからね。




