小話 ファティマ
街中は眠りにつく家がちらほら出た頃。
ファティマは三姉弟が過ごしている屋敷を出た。先ほどリゼが騎士団長と名乗る男に連れられて合流した。
ファティマも無事を確認して安堵したが、部外者でもあるし、騎士団長の話を聞いて気になるところがあり、屋敷を出たのだった。
街中の探索時に矢を騎士団から補充してもらい、余裕が出た矢筒を背負い歩き出す。すぐ戻るつもりなのか、弓矢だけを持ち荷物をおいた軽装だった。
空は月が煌々としており、星が目立たなかった。変わりに夜道も明るく見え、ファティマは街を出た先も困ることなく進めた。
西へ向かうとすぐ目に入ったのは巨大な黒い塊だった。塊から四方八方に伸びていくものもあるのが月明かりの中でも見てとれる。
やがて塊から伸びたものの近くまで来た。ファティマがしゃがんで目を凝らすと指の太さほどの蔦だった。幸いトゲなどは見当たらない。
再び立ち上がると塊に向かって歩き出した。
蔦はうねり、足元は悪くなっているが、危なげなくファティマは進んでいく。
やがて塊の目の前に到着をした。
塊は蔦が玉状になったものだった。中は空洞で、塊も所々刃物で切られたあとが見える。
「これが、魔女が作り出したもので、中に女の子がいた、と。
そしてしばらくして、リゼが戻ってきた…」
捜索隊で街中を探し終えて騎士団の詰め所に戻ったところで耳にした噂。魔女が女の子を捕らえていたとの話。
箝口令は敷かれていたが、噂は密やかに広まるもの。ファティマの耳にも入ってきていた。
ファティマは噂を聞き気になっていたので、リゼが見つかったこともあり来たのだった。
「私が戦った相手は氷使いだったし、蝙蝠だったから、また別の人物がいたというわけか…手合わせしたかったものだな」
風が吹き、風のせいで塊の中で何かが動いた。隙間からファティマは入り込むと、糸が出ている。
ブーツからナイフを取り出し糸が出ている辺りを掘り返すと、糸巻きが出てきたのだった。




