お仕立て パフスリーブのドレス その5
矢は刺さったと思えた。黒い手袋をした掌、その真ん中を捉えてはいたが貫通はしなかった。
(何か仕込まれているのか?)
目論見が外れた事で、このままは不利と判断し、ファティマは手が届きそうな位置までぶら下がるロープのひとつを掴むと思いっきり引っ張り下げる。ぶんっと上に向かう反動とあわせて跳躍し2階の窓に入り込んだ。
中では今までの様子を見ていたであろう老婆が闖入者がテーブルの上に来たことで、怒声を上げるがファティマは構わずテーブルの下に入り込み、直後追ってきた氷の刃をやり過ごす。
老婆が許しを乞う声をあげているが、構わず入り口の扉に向かい、上の階段を上り始めた。
(手への攻撃は効かないと考えた方が良さそうだわ)
階段を上がるときに矢筒が視界に入る。矢は残り3つ。
なるべく温存してきたが、戦闘になるとさすがに心細かった。
階段を上がるときに、窓があると再び氷の刃が襲ってきた。一度わざと氷の刃が来るのを待ち、過ぎてから再度窓近くを通りかかったが、きちんとファティマの位置を見定めたように来ることを考えると、何らかの方法で位置を把握しているのだろう。
(それも厄介だ…)
ごくりと唾を飲み込み、階段を上り詰めたところには、階段はなく扉だけだった。
恐らく屋上か、ただの出窓か。
攻撃が来ることを承知の上で、ファティマは扉の向こうに身を踊り出した。
躍り出た先はファティマが五歩も歩けば落ちてしまうような屋上だった。
そこには黒い羽をつけたファティマの半分の背はあろうか手思われる生き物が飛んでいた。すっと人型になったかと思うと屋上に降りてきた。
ファティマはとっさに弓を構え頭上に向け矢を放つ。終えると同時に弓を放り投げ、長めの刀身のナイフだけで切りかかった。
人型になった黒衣の人物は、そのナイフをグローブの手でつかんだ。たちまちナイフが凍りつく。
それにも構わずファティマは黒衣の人物の首を右手で掴んだ。ナイフの氷は勢いを増し、ファティマの左手まで氷で多い尽くそうと拡大してきた。
異にも介さずファティマは右手に力を込め、押しやると
ザシュッ!
矢が黒衣の人物の肩に突き刺さり、手に来た氷はたちまち水に変わった。
その隙を見逃さず、ファティマは力任せに黒衣の人物を屋上から突き落としたのだった。




