お仕立て パフスリーブのドレス その4
ファティマが追いかけた先にはリゼのバックを奪った人物が、黒い服を着た背の高い人物とやり取りをしている姿があった。
大通りから路地を数本入った先、浮浪者と思わしき人物が幾人も来る道すがらいたため、スラム街なのだろう。他の者なら躊躇するところを、ファティマは臆せず貧困街に入り、追いかけてきた。
リゼのバックを奪った人物は路地に入り何度か後ろは振り向いたものの、貧困街に入ると自分の庭と思い気が緩むのか、走るスピードが落ちたため、ファティマは路地の様々なもので身を隠しながら近づいていった。
貧困街は狭い路地の中洗濯物を干すのに場所を確保するためか、紐が各建物間に渡され、いくつものものが干されていた。
そして今、二人がいるところまで20メートルもないところまで来ているのだが。
(妙な気配だ…?)
少し先にいる二人組のうち、背の高い黒服に注目する。視線を離さずに、長く息を吐きながらファティマはしゃがみこむと、ブーツに仕込んだナイフを取り出した。ファティマの脹脛の長さほどもある長めのナイフを取り出すと、すうっと息を吸い、駆けた。
足音に反応し、リゼのバックを奪った人物が振り返るが、黒衣の人物は動かない。
待っていたかのように目元が笑っている。それから手を薙ぐように動かした。
「な!」
ファティマは瞬時に反応し、黒衣の人物が手を薙いだ方の反対側に跳躍する。
地面に着地し、息をはくと白くなった。
あたりの空気が凍て細かい氷が薙いだところに降り注いだ。細かい無数の凍りはリゼのバックを奪った人物をも襲う。
服は破け、無数の氷が肌を抉る。人物は突然の事に悲鳴をあげ、その場で蹲った。
「やはり乾燥した土地では威力が出ませんね」
背の高い人物は、黒地に青く小さい刺繍を施されたグローブをした手を天に掲げた。
「妙な気配をさせてますね…野性動物のような」
ファティマが警戒をしながら声をかけると、何も言わず黒衣の人物は手を振り下ろした。
ファティマは後ろに跳躍すると、ファティマがいたあたりにキラキラした細かい氷の塊が降り注ぐ。
少し遅れて頭上に干されていたのであろう、布がふわりと落ちてきた。地面に落ちる前にファティマはその布を手にした。
吐く息は変わらず白い。
「答えるつもりはない、そして私はあなたにとっては何らかの好まざる者、ということですね。
…それでしたら、私も加減不要ですね」
ファティマはにんまり笑うと、布を天に向けて投げた。
ナイフは右手に持ったままそのままに、素早く背負っていた弓を下ろし矢を番えた。
矢筒の中には矢が残り三本しかない。
布が緩やかな早さで地面に近づく。
黒衣の人物は両手を胸の前に持ってきて、ファティマの攻撃に備えた。
布が小さく音をたて、地面に落ちた。
弓が唸り矢が放たれた。しかし狙いをわざと離したらしく、黒衣の人物ではなく矢の向き先は上に向いていた。
黒衣の人物は両手を合わせると、あたりの温度は一気に下がった。近くで踞る人物があまりの寒さと、戦いが繰り広げられた様子から走って逃げ出した。
寒さの影響か地面に白いものが浮かび、走っていく足音と共に足形ができていた。
そのなか足音とも違うビュンっと空気を切り裂く重たい音がしたかと思うと、黒衣の人物の上に綱状のものが落ちて来るところだった。合わせていくつもの布地も落下してくる。
黒衣の人物は構えた両手をとっさに地面から上に向けると、先ほどの細かい氷とは比べ物にならないほどの大きな氷柱が地面からそびえ立つ。
ファティマは氷柱をみると、影になるところに走って向かい、再度矢を番えて射る。今度は黒衣の人物に向かって矢は翔ぶ。
矢は黒衣の人物の左腕に突き刺さった。




