小話 イズミと魔女
リゼからグローブを受け取ったイズミは帰路を急いだ。
細かい木の枝が足元にあるのも構わず、踏みつけて先を急ぐ。足下でパキパキと音がなった。
イズミが掛けたメガネの内部には辺りの地図が映り、その中にはいくつかの赤い点が点滅をしている。
赤い点が示すのは騎士団だ。騎士団の魔法を使える者の中にはイズミが魔女の眷属だと気づくものがいるかもしれない、そう思うとイズミの背中に汗が伝う。
赤い点滅の集団とは鉢合わせをしないように迂回をしたが、自分を使役する魔女は…恐らく鉢合わせをしたがるだろう。
その前にはグローブを渡したい。
しかしイズミは実は魔女の居場所を正確に知る術を持たないのだ。イズミがもつ道具はこのメガネのみ、そして集団になっている騎士団を示す点以外に赤い点はない。
騎士団の点は移動する以外は増えたり減ったりの変化はない。なのでおそらく魔女は騎士団とは遭遇していないとは思うのだが…
魔女は魔法を使う存在では無かった。もちろん媒介を使い魔法を放つこともあるが、魔法を使えないのだから魔力に反応するレーダーには関知せず赤い点では表示されないのだ。
魔女は内に秘めた力を、機械に受け渡し、魔法にする。機械は増幅器の役割を果たして、生身の人間が放つ魔法を遥かに凌駕できるのだ。
不意に足元が大きく揺らいだ。思わずイズミはしゃがみこむと、ムカデ状の前に馬車だった物が土の中から這い出すように姿を表した。
山になった土をイズミは滑り降り、馬車の入り口を見つけると扉を開ける。
「遅いぞ、イズミ。どれ、リゼが作ったものを寄越せ」
馬車の中で機械を操作しながら、あの幼女の魔女が応じた。
イズミは包みを乱暴に開けると、グローブを二つとも出すと、魔女に投げる。
イズミは乗り込むと扉を閉めた。
魔女は受けとると、白いショートグローブを暫く見てから手にはめた。
「毒、か。百足よりもこちらの方が適しておろう」
魔女はニッと笑うと、キーボードを取り出し、コマンドを打ち込む。馬車内の画面に何事か表示され、ムカデの姿から足が消え、形状がスマートになり、蛇のような形になった。
「どれ、毒の威力を見てみるとするか。」
蛇のような姿の機械が石を飲み込むと、やがて禍々しい、紫と緑が混ざった色の石を排泄した。
機械の蛇はその石をうねうねと動く尻尾で投げ飛ばした。
いくつかは騎士団の本体の方へ、その他は村の周辺へ。
蛇は首を持ち上げ、辺りをうかがうと、そのままにょろにょろと去っていった。




