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大視点です。
空貴の家に行くようになってしばらくたった。
ちょっとした勉強会でいつも思うのはふたりともえらく真面目に取り組むことだった。
こういったらなんだが、もう少しゆるい空気になるかと思っていた。
「ふたりとも真面目だねー。なりたいものでもあるの?」
え?みたいな目で見られ、え?みたいな顔になってしまった。
なんだこの空気。
「…聞いたらまずかった?」
「いえ…教える側からすると真面目なほうがいいんじゃないかなって…」
「まあそりゃそうだけど。学校で補習とかなわけじゃないし、すごいなって単純に」
彼女たちは目を合わせ、お互いにどう?というような仕草をした。
「んー勉強好きだし。正解があるって気持ちがいいから。なりたいものがあるわけじゃないけどレベルの高い大学行ってみたいかな~。由姫は?」
「…お兄ちゃんに負担かけたくないから、ほんとは就職を考えてたんですけど…」
「大学行けって言われた?」
「高卒より職種の幅が広がるからって…」
「うん、そうだね。目指してる職種がもう定まってるなら別だけど」
「なりたいもの、っていうよりは目標ならあります」
「なに?」
「早く大人になって自立すること」
「自立?」
「はい」
空貴に負担かけたくない、か…。
うーん…。
なかなかなんというか。
「自立にもいろいろあると思うけど…例えば俺なんか本当に自立してるか怪しい」
「そうなんですか?でも1人暮らしですよね?」
「家事出来ないしなぁ…きちんと自活してるかっていうとなんとも言えないね。」
「うーんと、自分の身の回りの世話がまともに出来ないのに自立と言っていいのかってこと?」
「正解」
「そんな考え方もあるんですね…」
いずれ独立しなければならない時は来る。
それまでは甘えていてもいいはずだ。
空貴もそのつもりだと思うんだけど。
「参考になった?」
「そうですね…ちょっと目からウロコでした」
「そう?まあ空貴はちょっと過保護だよね。そこから抜け出したいとかじゃないなら今のうちはちゃんと甘えてあげなよ。」
「過保護からは抜け出したいです」
「確かにちょっと過剰だよねぇ」
高木妹の言い方に3人で笑う。
「焦らないでもいいんじゃない?」
「…ありがとうございます」
にこっと笑う。
可愛いなぁ。
妹がいたらこんな感じなのかな。
「えー先生~由姫には優しい~」
「何言ってんの。そもそも高木さんが俺に優しくないでしょ?」
「そんなことないよぉ?」
「そういうとこ乃々にそっくり」
空貴との再会で穏やかなかわり映えのない日常が、ほんのり色付いていく。
自分でも気付かないくらい、小さな芽が出ていることにまだ気付いていなかった。